「このときは思ってもみなかった。わたしが結婚している男を奪い合うことになるなんて」

こんな主人公のひとり語りではじまった金曜ナイトドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日系 毎週金曜23:15~24:15)。最初はとくに期待もせず第1話をチェックしてみただけだったのに。

「このときは思ってもみなかった。こんなにこのドラマにハマるなんて」

そして迎える、3月3日の最終回に、全7話なんて短すぎる! と早くもロス気分になっている。

『奪い愛、冬』出演者陣。左から大谷亮平、倉科カナ、三浦翔平、水野美紀

バカは愛のバロメーター

『奪い愛、冬』はざっくり言うと、人を愛しすぎてバカになっちゃった人たちのドラマだ。

初々しいカップルだった光(倉科カナ)と康太(三浦翔平)だが、光が元恋人・信(『逃げ恥』でブレイクしたイケメン大谷亮太)と再会し、でも彼には脚の不自由な妻・蘭(水野美紀)がいて……。そこからドロドロの四角関係(時々、秋元才加も参戦して五角に)こと、"天下一バカ愛武闘会"がはじまる。

バカは愛のバロメーターだ。

康太が光を監禁したり、縁切り神社で藁人形に呪いをかけたり、蘭がしょっちゅう「(脚が)疼くの~」とエロく騒いで信になでなでさせたり、何かにつけて『少女に何が起ったか』の深夜0時の男・石立鉄男(古っ)みたいに信を呪いでがんじがらめにしたりと、エロ、バカ、愛……と攻撃は止まらない。

正確には、見開きまくった目がこわい水野美紀と三浦翔平の襲撃をかわし、揺れまくった瞳の倉科カナと大谷亮平は愛を貫けるのか、という意外とまともな障害のある恋物語の構造になっている。シンプルだから、見やすく、登場人物のぶっ飛んだ言動だけをひたすら楽しめるのだ。

脚本は鈴木おさむ。森三中の大島美幸の旦那さま。著書『ブスの瞳に恋してる』や、バラエティ番組『SMAP×SMAP』や『めちゃ×2イケてるッ!』の構成などヒットメーカーだが、2015年7月から1年間、育児休暇をとっていた。しばらく休んだあと、満を持しての『奪い愛、冬』だったのではないか。とにかく気合が入っていて、全力で、バカ(褒めています)。

激しい闘いの末、光と康太が結ばれるか、と思ったところ、6話では信が重病であることが判明し、さらに蘭のしょっちゅう疼く脚の秘密を康太がバラしてしまい……いったい彼らの収まるところはどこなのか、というところで最終回。

俳優としてのステップアップに

このドラマを面白くしている2強は三浦翔平と水野美紀だ。

三浦翔平はこのドラマで俳優としてステップアップしたと思う。それが彼にとっていいことかはよくわからないが。これまでイケメンとして数々のドラマに出演、月9にも出ているが、どんなにいいポジションでもなぜかいまひとつ弾けきらない彼が、モノマネで金八先生をやると妙に輝いていた。それをうまく活かしたのが今回の役だ。モノマネがうまいということは対象の特徴を的確に把握し、それを少し大げさに表現する技術が高いということ。三浦翔平は愛に狂った男の激しいゆえの滑稽さをみごとなまでに表現してみせた。とにかく、バカでエロくて、こわくておもしろい。

水野美紀は、『踊る大捜査線』シリーズの清楚な女刑事みたいのをやっていたひととはいまや別人のようである。デビュー時、CMでストリートファイターIIの春麗のコスプレをしたり、アクション好きを公言したりしていてもともと異端な素養はあった。ある時期から演劇をはじめ、自身の劇団プロペラ犬でエキセントリックな作品を地道に上演し続け、ついにその面がテレビドラマでも発揮されるように。16年『黒い十人の女』でカフェオレを頭から大胆にかぶるような愛人を演じたあとに、今回の、夫をがんじがらめに縛る恐妻役を嬉々として演じているのを感じる。

その昔、『牡丹と薔薇』というドロドロドラマの名作を生んだ、放送・フジテレビ、制作・東海テレビの昼ドラが惜しまれつつも終わってちょうど1年。その間フジテレビが土曜夜に、それに代わるようなドラマをはじめたがいまひとつ盛り上がらないまま、テレビ朝日の金曜ナイトドラマが十八番をかっさらった感がある。2016年に放送された林真理子原作の不倫ドラマ『不機嫌な果実』(成宮寛貴も出てました……)も反響が高く、ポスト昼ドラ枠の機運が高まっていたところ、ついに『奪い愛、冬』で大爆発した。

とても肉食ぽい、倉科カナの会社の同僚役の秋元才加もいい感じだし、この息子にしてこの母ありの、三浦翔平の母役の榊原郁恵のヘンさもたまらない。

何か教訓を得られるわけではまったくなく、半分コント感覚で笑い飛ばせるドラマ。6話の終わりなんて、まじめなラブストーリーのロケ地の代表格・空港だもの。ドンデン返しが起こるという最終回、どんなオチがつくか、Aimerのオープニングテーマ「凍えそうな季節から」が頭のなかで鳴り続けて離れません。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、共著『あまちゃんファンブック おら、あまちゃんが大好きだ!』、ノベライズ『マルモのおきて』『リッチマン、プアウーマン』『デート~恋とはどんなものかしら~』『恋仲』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。