乳癌の転移部位と皮膚転移・骨転移の症状について

乳癌が転移しやすい部位は?

厚生労働省の発表(2012年)によると、乳癌は日本人女性の11人に1人が罹患(りかん)する病気だ。乳癌の根治を目指すには、検診による早期発見のほか、全身治療で再発・転移を防ぐことも重要となる。

今回は、胸部・乳腺外科の法村尚子医師に、乳癌が転移しやすい部位と、皮膚・骨への転移の症状と治療法についてうかがった。

――乳癌が転移しやすい部位はどこですか?

乳房から離れた別の臓器に癌が出てくることを「転移」と言います。癌細胞がリンパ液や血液の流れに乗って移動し、そこで成長します。乳房から近い、リンパ節や皮膚に転移することが多いですが、遠く離れた臓器では、骨→肺→肝臓→脳の順に転移することが多いです。

――皮膚転移と骨転移について、詳しく教えてください。

皮膚転移後は、抗がん剤治療やホルモン療法などが用いられる

皮膚転移は、乳癌が浸潤し、腫瘍が皮膚の表面に顔を出した状態です。進行すると潰瘍を作り、浸出液(患部の表面から出る透明あるいは黄色の液体のこと)、悪臭、出血、痛みなどが出ることがあります。治療は基本的には、抗がん剤治療、分子標的治療、ホルモン療法などの全身治療を行います。必要に応じて、浸出液や悪臭、出血のコントロールのため、その部分の手術、放射線照射、軟こう塗布を行います。

骨転移で転移する骨の部位は、背骨(腰・胸・頚など)、骨盤、肋骨(ろっこつ)、頭蓋骨などが多いです。症状には、転移した骨の部位に伴う痛み、骨折、脊髄が圧迫されることによる手足のしびれや麻痺(まひ)などがあります。

治療では皮膚転移同様、基本的には抗がん剤治療、分子標的治療、ホルモン療法などの全身治療を行います。また、ビスフォスフォネート剤による治療をすることで、骨折の頻度を減らしたり、疼痛(とうつう)を和らげたりします。痛みが強い場合や骨折が起こりそうな場合は、骨折予防の効果も期待して放射線を照射します。

※参考: 『患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2016年版』
※写真と本文は関係ありません


取材協力: 法村尚子(ノリムラ・ショウコ)

胸部・乳腺外科
2005年香川大学医学部医学科卒。現在、高松赤十字病院胸部・乳腺外科副部長。乳腺外科を中心に女性が安心して受けられる医療を提供。また、En女医会に所属し、ボランティア活動や各種メディアにて医療情報を発信している。
資格 乳腺専門医、外科専門医、がん治療認定医など

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。