2月24日夜、ANAホールディングス(ANAHD)片野坂真哉社長とPeach Aviation(ピーチ)井上慎一CEOは並んで関西空港で会見し、4月にも出資比率を現在の38%強から67%に引き上げ、連結子会社とすることを発表した。

ピーチへの出資比率の引き上げに対し、市場も動きを見せた

これに先立つ日経報道のあたりからANAHDの株価は3%ほど上昇し(2月24日終値)、2月20日に「重要な経営事項について」とうたった会見予告直後、ネガティブ要素かとの憶測から値を下げたのとは対照的な動きを見せた。事業会社ANAが新社長・平子裕志氏新体制に移行する直前のこのピーチ子会社化、その背景とANAHDの今後の戦略構想を少し深読みしてみたい。

ピーチが成功した訳

目先の株価の動きは些細な問題としても、ANAHDがピーチ子会社化を決断した背景にある主要素は何だろうか。まずはこれまでのピーチの経緯をおさらいしておこう。

"拡大合戦期"というべきか、第二ステージの拡大期に突入した日本のLCCだが、必ずしも現在の経営環境は安穏としたものとは言えない。バニラエアは2017年第三四半期までで赤字に陥ったし、ジェットスタージャパンは以前のコラムで述べたように、2016年度に事業規模が伸びても総費用が伸びないという不可思議な状況(親会社との精算関係の調整と思われる)があってのギリギリの黒字。春秋航空日本は依然、赤字体質というのが現実だ。

その中で、燃油費の低め安定という恩恵なしでも巧みなパブリシティ戦略や運賃マネジメントで黒字体質を作れてきたピーチは、日本では明らかに一歩先を行くLCCであった。

このピーチの成功の背景には、ANAHD自身が認めるように「好き勝手にやらせた」ことが奏功。地盤である関西空港の全面的な支援のもとに専有ターミナルで低コスト運航体制を実現できたこと、営業面でも関西経済界の後押しを得る良好な関係を構築、的確なレベニューマネジメントも用いて早期に収入基盤を確立して黒字体質に持っていけたことが大きかったと言える。

ピーチの反骨精神

これを築き上げた井上CEOの「卓越した商売人感覚」はもちろんのこと、ANAも社内選りすぐりの人材を"片道切符"で送り込んで実運航を支えてきた。また、ライアンエア会長であったPatrick Murphy氏のアドバイスが、ANA経営陣に「大企業の感性で横から物を言わせない」防御壁となって、LCC経営のあるべき道を突き進められたことも、他の日本LCCを凌駕する最大要因のひとつである。そこに生まれたものが、「親会社の言うことを聞かないピーチのDNA」であった。

Peach Aviation(ピーチ)井上慎一CEOは今回の発表に対し、安定株主となるANAホールディングスとのシナジーにより、ピーチは事業の拡大と発展を一層加速できると確信しているとコメントしている

2011年2月に母体会社を設立し、さあ日本初のLCC立ち上げを始めるぞという舞台開幕のわずか半年後に、親会社ANAはエアアジアとの合弁で新たなLCCを設立。一時は「二股か? 梯子を外されたのでは」との疑心暗鬼も生じたが、この社員の反骨心・危機感がピーチの結束を急速に強めたという側面もあったであろう。

これまで順調な成長を遂げてきたピーチだが、今後20機を超える生産規模となった今、眼前には未知なる世界が横たわっているのも現実だ。今後の機材を活用するために札幌、仙台の基地化なども計画されているが、日本国内に更なる路線を求めるのは、市場として見てもそろそろ限界に近づきつつある。

インバウンドを念頭とした海外展開、すなわち中国本土、タイ、そしてアジア各国の市場への浸透、国内外の新たな拠点を活用した「その先」への展開など、先に待つ不確定要素や事業リスクはこれまで以上に大きなものとなる。その矢先でのANA子会社化だった。このことで、ピーチのこれまでの事業展開が変わってくるのでは、との同社や関西側の不安を取り除く必要があるという認識が強いからこそ、あえて片野坂社長が関空まで出向き、共同記者会見を行ったのだと感じた人は少なくないだろう。

ではなぜ、「いま子会社化」なのか。中期的に見たANA事業戦略の課題も含めて考察してみよう。