近年、中国ではFinTechが急成長しており、アリババグループの螞蟻金融服務集団(以下、Ant Financial)やテンセントが市場の成長をけん引している。今回、中国におけるFinTechの動向について、野村総合研究所 金融ITコンサルティング部兼グローバル産業・経営研究室 上級コンサルタント 李智慧氏の話を紹介する。

野村総合研究所 上級コンサルタント 李智慧氏

複合的な要因が重なり合い、FinTechが盛り上がる中国

--FintTechが中国で発展した背景は?

李氏:中国のFinTechが急発展した背景は、まずはインターネットやモバイルインターネットの急速な整備が一番大きな要因だと考えられる。2016年6月の統計では、インターネット人口は7億人を超え、うち9割以上がモバイル経由でのアクセスとなっている。また、若い世代はWeChat(ウィーチャット)をはじめとしたSNSアプリの普及により、情報取得、消費生活においてもスマートフォン経由での利用が主流となっている。

中国は国土が広大なため、有線の環境整備には時間を要するため、無線の方が普及しやすいという特徴がある。アリペイが発表した「2015年アリペイ決済年度レポート」によると、モバイル決済の比率はチベット自治区が一番高く、無線の普及に加え、シャオミやファーウェイといった格安スマートフォンの存在も大きいことが影響している。

マクロの環境では、FinTechが発展し始めた2012~2013年は、中国の経済は急成長から低速成長の時期にさしかかり、産業の構造転換が必要だったためインターネットを活用した新規産業の創出を「インターネットプラス」と呼ばれる政策などで政府が支援していた。加えて、大学生は毎年数百万人が就職するため、経済が低速になると就職口も多くないことから、政府では起業を促す「大衆創業」という政策を打ち出し、新規ビジネスの立ち上げを目指す人々が積極的に活用していたことも挙げられる。

これらに加え、金融にフォーカスしたものとしては中国の金融は先進国と違い、発展途上の段階のため、国有銀行を中心とした金融サービスは必ずしも消費者の視点に立ったサービスとは言えなかった。そのため、金融サービスに隙間が存在し、これがFinTechが発達した一因に挙げられる。

一方、技術面では1980~2000年代に海外留学した多くの優秀な人材が、シリコンバレーや世界トップクラスの金融機関で働いた後に技術を中国に持ち帰り、起業するなど欧米にも引けを取らない状況となっており、これらの要因が重なり合って中国のFinTechは急成長している。

規制が追いつかないほど過熱する市場、一方で問題点も

--主流となっているサービスは?

李氏:参入のしやすさから決済関連が多く、次いでピア・ツー・ピア(P2P)レンディング(融資)が発達した。典型的なものとしては飲食店、コンビニ、タクシーなど小額多頻度の決済が挙げられ、クレジットカードやデビットカードで対応しきれていない分野ではモバイル決済が取って代わっている。また、P2Pレンディングのインターネットプラットフォームを営む企業が累計5000社以上も設立したなど、市場は過熱している。

しかし、2015年末にP2Pレンディングに絡んだ大きな事件があり、これを機会に監督官庁が頻繁に規制強化を進めるようになったほか、決済に関してもアリペイも含む第三者決済機関に対しても規制強化の動きが出ている。

インターネット経由で提供する金融サービスにとって、対面せずに与信審査を行うことが重要であり、中国において、ビッグデータ信用情報サービスと呼ばれる、さまざまなチャネルや角度から個人情報を集め、個人の本人認証を含めた与信を行い、P2Pレンディングや銀行などの金融機関に信用情報を提供するFinTech企業も多く出現してきた。

また、Ant Financialの芝麻信用(個人の信用力を数値化するサービス)は有名な事例で、アリババのECサイトにおける購入履歴や、アプリをダウンロードするために入力した個人情報などをベースにビッグデータで分析した上でスコアリングし、アプリで自分のスコアを確認することができる。そのほかに、主に大学生や中低所得者向けの分割払いサービスや少額ローンを取り扱う消費者金融サービスを提供する企業も大きく成長している。