育児中についつい頼ってしまうスマホ。しかし、日本小児科医会が「スマホに子守りをさせないで!」とスマホ育児を控えるよう提言するなど、そのデメリットについても指摘されている。

実際のところ、スマホ育児は子どもにどのような影響を与えると考えられているのだろうか。今回は、2月6日に「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」が開いたセミナーの内容から、専門家の見解をお伝えする。

親子間でやりとりしながら、メディアを見よう

お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系教授の坂元章氏

まず、「メディア利用が幼児に及ぼす影響」について、お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系教授の坂元章氏が解説。「コンピューター利用に関する研究は非常に少ない」とのことで、国内外のテレビ視聴に関する研究をもとに、課題を指摘した。

まず紹介されたのは、米国小児科学会が2016年10月に出した声明だ。

・生後18カ月未満の子どもは、ビデオチャットを除き、スクリーンメディアの視聴は避けるようにする。
・生後18カ月以上、24カ月未満の子どもにデジタルメディアを見せたい場合には、質の高いコンテンツを選んだ上で、子どもと一緒に視聴しながら、その内容について、子どもが理解できるよう手助けする。
・2~5歳の子どもにスクリーンメディアを見せる場合、1日1時間に制限し、質の高いコンテンツを選ぶようにする。養育者は子どもと一緒にメディアを見て、その内容や、その内容が彼らを取り巻く世界とどのように適用しているのか、理解する手助けする。

上記の内容が、乳幼児の養育者に向けて提言されているという。坂元氏の見解としても、「発達的視点、医学的視点から見れば、同意できる内容」とし、「養育者の共視聴や積極的介入は、良い影響を持ったり、利用による悪影響を減少させたりするという指摘もある」と語った。

坂元氏によれば、「メディアにおける教育的コンテンツの利用」は、幼児にとっていい影響があると考えられていて、繰り返しの学習効果が期待できるという。一方で、画面からの光線や、メディアを視聴したことによる興奮で、睡眠時間が減少するなどの悪影響も指摘されているとのこと。

親がメディアの内容を選び、見る時間を決め、親子でやり取りをしながら楽しむ、というのがいいようだ。

子どもの睡眠を大切に

相模女子大学 学芸学部 子ども教育学科准教授の七海陽氏

続いて相模女子大学 学芸学部 子ども教育学科准教授の七海陽氏が、「乳幼児の発達からみたメディア利用習慣の育成」をテーマに講演した。

七海氏は、乳児の最も重要な発達課題を「五感を十分に活用しながら周囲を探索し、養育者との相互作用を通じて、愛着を築くこと」と定義した上で、「自分が働きかけたときに何らかの変化や応答が見られる環境が乳児にとって不可欠」と指摘。

幼児期については、「人のしていることを見て、まねて、覚える観察学習が、成長に大きな役割を果たす」とした一方で、「善悪の判断や現実と空想の区別が十分にできていないため、メディアで見た危険な行動をそのまま、まねしてしまうこともある」と、メディア視聴の危険性についても説明した。

それらを考慮すると、メディアを見せる場合、「養育者などが子どもと一緒に視聴し、内容について話し合うことが、子どもの理解を助け、正しい現実感をうむ」と言えるそうだ。

七海氏は、メディア利用による発達への懸念について、「科学的根拠のある報告は乏しい」と指摘。また、多くの親が関心を持っている「メディア視聴が乳幼児の視力に与える影響」についても、科学的根拠を示すことが難しいとしている。

一方で、メディアの視聴に限らず、「屋内活動が増えることで近視につながりやすい」(2~3歳未満は視力が安定していないため不明)、「夜間に光の出る電子機器を使用すると体内時計が狂いやすい」、「近くで小さいものを見続けると目の調節機能に負荷がかかる」という眼科医・坪田一男氏の見解も紹介。七海氏は、「おおむね1歳半~2歳ごろは、安定した睡眠・覚醒リズムが形成される大事な時期」とし、特に睡眠に与える影響には、注意するよう呼びかけた。

スマホによる子守りについて、専門家はどう考える?

最後に、子どもにスマホのコンテンツを見せている間に、家事などを済ませる、いわゆる「スマホ子守り」の是非について、両者に質問してみた。

坂元氏は、「発達的な視点から見れば、あまり望ましいとは言えない。しかし、核家族化が進んで、頼れる人が周りにいないという社会的な問題があるので、保護者を支援する体制が必要。スマホに頼れず保護者にストレスがかかって、子どもにあたってしまうというのは、別の問題としてある」と話した。

また七海氏は、「視聴を短い時間にし、良質なコンテンツを選んだり、家事をしながら子どもの反応に応えたりという工夫はできる。保護者があまりにも疲れていたり、イライラしていたりするのは、子どもにとってよくないので、お互いにとってベターな状況を作るのが大事。長い時間、子ども1人で見せるというのは避けるべきだと思う」とアドバイスをくれた。

スマホ育児が子どもの発達に与える影響というのは、科学的な根拠によって、明らかにされていることが少ない。しかし、コンテンツを見せる際、親の関わりが重要になることは、確かなようだ。また、スマホを利用する際のルールや、コンテンツ選びなどについても、早くから子どもと話しておくことで、子どもが年齢を重ねたとき、メディアとうまく付き合えるようになるという。

親が疲れきらない程度に、親子とスマホの関わりについて、意識してみてもいいかもしれない。