2月8日、ソフトバンクグループの2017年3月期第3四半期決算発表会が行われた。発表会では同社代表取締役社長 孫正義氏が登壇し、連結決算概要が発表されたが、毎度孫氏の話の中心は、四半期の数字よりも経営者・投資家として未来を見据えた事業を語ることにある。今回はその点を中心にレポートをお届けする。

ソフトバンクグループ 代表取締役社長 孫正義氏

ソフトバンクは何の会社なのか

業績発表に先立ち、孫氏は冒頭でソフトバンクの事業領域について語った。それは「ソフトバンクの本業は情報革命である」というものだ。

幕末の偉人・坂本龍馬は、剣術の達人でありながら時代が変われば鉄砲を持ち、船を手に入れて商社活動を行い、後に龍馬の起草した「船中八策」が明治の新国家体制の基本方針となった。途中の形を様々に変えながら、その生涯を明治維新に捧げた人物である。孫氏は自身の事業をそれになぞらえ、パソコンソフトの卸業者からインターネット接続事業へ、そしてモバイル通信事業へと姿を変えたのは、「一度も道を外れたことはなく、一直線に情報革命に向かった」ものだったと述べた。

ソフトバンクの事業領域は「情報革命」であると語る

「全てに共通しているのはマイクロプロセッサの存在だ。10代後半に初めてマイクロコンピュータのチップの写真を見て、当時はシンギュラリティという言葉はなかったが、これが人間の知能を超えるものになることを想像し、道端に立ったまま涙を流した。その日から私の思いは変わっていない。一貫して、情報革命に人生を捧げる」

パソコンがインターネットにつながり、その中心がモバイルへ移り、次はIoTを見据えている。昨年のARM買収も突然離れた領域へ手を出したように見えたが、「情報革命の中心が移っていく、その重心にソフトバンクの事業領域の照準を常に合わせている」という視点で選んだ、順当なステップだったのだ。業績発表の枕にあえて言葉を重ねて述べた情報革命という"事業"。孫氏にとって決算発表会は、その事業における今の立ち位置を確認する日なのだろう。

国内通信は伸び悩みも事業効率で増益

連結業績については「一言で申し上げて順調」と切り出した。売上高は0.3%減だが調整後EBITDA、営業利益、純利益ともに伸びており、中でも営業利益の伸びについては「スプリントが成長をけん引する立場になりつつある」と買収時まで不振続きだった業績の改善ぶりを強調した。

営業利益ではスプリントの伸びが顕著

また、ARM買収の影響で増えた純有利子負債EBITDA倍率については、この先下がって行く見通しを示しながら「下がりすぎるのも経営の成長を見送ることになる」とし、「3.5倍程度が体にGを感じながら成長するにはいい頃合い」であると述べた。

「ある程度のレバレッジが経営にとってベター」という

続いて個別の事業について。国内通信事業は営業利益が前年対比で9%増と、12期連続増益へ。累計契約数は伸び悩むものの、フリーキャッシュフローは通期予想の5,000億円から5,500億円に上方修正。売上高に対してフリーキャッシュフローが20%というのは「世界でも有数の事業効率」であるとし、「今後も順調に走って行ける。宮内(宮内謙氏。同社代表取締役副社長)が立派にその役割を継続してくれると信じている」と述べた。

契約数についてはスマートフォン、光に注力する方針

ヤフーが運営するYahoo! JAPANは、収益の柱の一つである広告について、検索連動・ディスプレイ広告ともに伸び、前年比10%増。もう一つの柱、eコマースについては、3年前に孫氏が打ち出した「eコマース革命」以降、ストア数が16倍に伸び、取扱高は倍増。「ここから5年10年、伸ばしていくモデルができた」としたが、そのためには店舗あたりの売り上げを伸ばす施策が直近の課題となるだろう。

ストア数は16倍に増えたが取扱高は2倍に留まる

アリババは、売上高54%増、純利益36%増、フリーキャッシュフローは44%増と、今期も躍進。「投資して良かったと心の底から思っている」と繰り返した。昨年のARM買収に当たって株式の一部を売却した経緯があるが、「今後もソフトバンクグループの中核的企業として大事にしていきたい」と、前期に重ねて手放す意向がないことを明言した。

メディアでも話題になった「独身の日」(11月11日)を含む10-12月期

スプリントが成長を牽引する

今回、個別の事業の説明において最も時間を割いたのがスプリントだ。もともとスプリントと共に競合のT-mobileを買収し、AT&T、ベライゾンに対抗する第三の勢力を作る戦略であったものが、米当局の意向で頓挫。「当初の読みが狂ったことで自信をなくし、非常に悩んだ」「買わなきゃよかったと後悔した」と率直に明かした。

この時点では孫氏も決算発表で「苦しくて長い戦いになる」と述べていた

そこから自力で這い上がるために打ち出したのが4つの改革だ。「ネットワークを改善する」「顧客獲得を増やす」「経費を下げる」「資金調達を多様化する」というものだ。ネットワーク改善には、孫氏自身がチーフネットワークオフィサーとしてネットワークの詳細設計の陣頭指揮を取った。通常、ネットワーク改善を目指す技術者は設備投資の予算を請求するが、孫氏はオーナーかつネットワーク責任者という立場から、「(米通信大手)4社の中で、一番少ない設備投資で、一番激しく、早く、ネットワークを改善」した。

反転戦略を打ち出し、孫氏自らネットワーク責任者として改善を実現

現在も詳細設計の責任者として毎週の会議に参加しその進捗をチェックしているという。「(ネットワークの信頼性は)改善率だけでなく、絶対値でも間もなく1位になる」と自信を示した。日本の厳しい競争の中で設備投資を抑えながらネットワークを築いてきた経験が、この挑戦を支えたのだろう。

また、営業面についてはマルセロ・クラウレ氏が取り組み、顧客獲得・解約率の改善により3四半期連続で純増へ。売上高は増収に転じ固定費も大幅に削減。営業利益は9ヶ月間で13億ドルに達した。倒産寸前と思われていた会社が「アメリカ経済史でも稀に見る大反転」を遂げた格好だ。買収時の金額1.9兆円に対して現在の価値は3兆円を超えるという。

買収時を超える価値を持つ企業へ

「スプリントがソフトバンクの足を引っ張っていると、半分以上の人がいまだに思っているでしょう。しかし、そろそろみなさんの中でも認識を変えていただきたい。スプリントが成長の牽引役になる。だからARMを買う決断ができた」と孫氏は語る。

今回の発表会でもう一つ孫氏が時間を割いたのは、ARMの買収からソフトバンクビジョンファンドへつながる、情報革命を加速する方向への取り組みだ。後編ではこれについてレポートする。