映画やバラエティーなどで活躍した俳優・松方弘樹さんが2017年1月、脳リンパ腫のために逝去された。脳リンパ腫は脳腫瘍の中でもかなりまれな病であり、松方さんのニュースを通じてその疾患名を知ったという人も少なくないだろう。ただ、罹患(りかん)する確率は低い一方で腫瘍である以上、予後はかなり悪い。きちんとその症状などを知っておき、初期段階で腫瘍を発見できればその後の人生も大きく変わってくる。

今回は高島平中央総合病院脳神経外科部長の福島崇夫医師に脳リンパ腫の症状や原因をうかがった。

50~70代に症例が多い

脳リンパ腫は全身のリンパ系組織に発生する腫瘍の中で、脳や眼球などの中枢神経系にできるものを指す。脳にはリンパ組織がないにも関わらず、なぜ脳リンパ腫が発生するかは明らかになっていない。つまり、脳リンパ腫自体の発生原因は不明だが、その仕組みはわかっている。

「脳リンパ腫が発生する仕組みとしては、脳そのものから何らかの理由で発生するパターンと、首から下の他臓器にできたリンパ腫が脳に転移したパターンのいずれかです。ただ、圧倒的に前者が多いですね」と福島医師は話す。

脳リンパ腫症例の頭部造影MRI。←部分が腫瘍で、▲部分が腫瘍に伴う浮腫(高島平中央総合病院提供)

非常にまれな疾患で、脳腫瘍全体のほんの数パーセント程度が脳リンパ腫とされている。もともと欧米人に多かったが、近年になって日本人でも患者が増えてきているという。50~70代の高齢者で罹患するケースが多く、2~3割の症例では多発性(複数箇所に腫瘍ができる)を呈する特徴がある。

悪性リンパ腫の原因としてウイルスや細菌感染の関与が指摘されており、それ以外に高齢者にが罹患しやすい理由の一つとして、直接的ではないものの「免疫力の低下」が指摘されている。年齢を重ねていくとちょっとした風邪も治りにくくなるように、体の免疫機能が低下することが知られている。

他方、脳リンパ腫はエイズウイルス(HIV)に感染している人や、臓器移植手術を経験した人に罹患率が高いとの報告がある。これらの人に共通しているのも「免疫力の低下」であるため、「HIV感染症や臓器移植手術を受けた人は、将来において注意が必要な病気だと言えます」。