2016年11月16-17日、ETロボコン2016チャンピオンシップ大会(組込み総合技術展 主催:組込みシステム技術協会 JASA 併催)がパシフィコ横浜にて開催された。同大会では同年9-10月に実施された全国12地区大会から選抜された優秀40チームによるハイレベルな競技が展開された今回、主催者であるETロボコン実行委員会にチャンピオンシップ大会の様子をレポートしてもらった。

競技会場風景


チャンピオンシップ大会のレポートに入る前に、ETロボコンについて説明する。ETロボコンは2部門3クラスに分かれている。デベロッパー部門には初級者を対象としたプライマリークラスと応用技術を競うアドバンストクラスがあり、競技はライントレースをベースに階段やカラーセンシングによるブロック移動、そして車庫入れまで"難所・ボーナス"に挑戦する。ともにロボットによる走行競技とロボットのソフトウェア開発モデル内容審査の両方が競われる。

イノベーター部門は、製品サービスの企画からパフォーマンス披露まで行い、その内容が審査される。

コース図

会場に掲示されたモデル図

ETロボコンは企業と学生(大学、専門、高専など)チームがおよそ半数ずつ参加するのも特徴の1つ。今大会は地区大会の成績から学生チームが強いとの予想もあったが、結果は例年通り企業チームが底力を見せた格好になった。

デベロッパー部門プライマリークラス(DPクラス)

DPクラスは、モデリング初学者が、設計にUMLなどのモデル図を使うことや、制御の基礎、設計と実装とを結びつける技術を学び、その達成度合いを確認することを想定したクラスだ。徹底してソフトウェアの設計・実装で競うワンメイクレースとするため、ハードウェア(ロボット、走行体と呼ぶ)はすべてのチームで同じ仕様のものを使い、車検を実施して点検し、電池もスポンサーから支給された新品で揃える。DPクラスの走行体は、今大会から LEGO Mindstorms EV3 による「EV3Way」に一本化された。

チャンピオンシップ大会においてDPクラスは走行競技のみを実施する。地区大会から各チームがさらに磨きをかけて競う。モデル審査はないが、会場には地区大会のモデルと審査員の評価コメントを掲示した。

優勝は「roboconist」(日立オートモティブシステムズ 佐和:東京地区)。メンバーが入社2年目という若いチームながら高速で走行し、Rコースではバック走行しながらのショートカット、階段では全段シングルスピンもクリアする素晴らしい結果を出した。

難所に挑戦する走行体

優勝した「roboconist」のメンバー

準優勝の「チームEYES」(アイズ・ソフトウェア:東海地区)も同等のボーナスを獲得して善戦したが、「roboconist」は彼らに対しても8秒以上の差をつけて圧勝した。

準優勝した「チームEYES」のメンバー

また、DPクラスで多くの大学生チームをおさえて、学生チームトップの成績を収めたのは「NANZI」(麻生情報ビジネス専門学校組込みシステム科:九州北地区)。彼らには情報処理学会・若手奨励賞が授与された。

情報処理学会・若手奨励賞を受賞した「NANZI」のメンバー

「モデルの差異が小さいのに競技結果に開きが出るのが課題」

渡辺博之審査委員長の講評では、チャンピオンシップ大会に出場したDPクラスのチームのモデルは、各基準について概ね「良い」以上を達成している傾向が示された(下図)。しかし、一部のチームを除くとモデルの評価に大きな差はなかったが、競技結果には大きな開き(リザルトタイムが-27.4~131.9、マイナスが上位)が生じた。このことは、チームによって設計と実装の結びつきに開きがある可能性を示唆している(ただし、どの程度の相関があるのかは精査が必要)。性能審査団の河野文昭氏による「書いていないチームは走れていない」というコメントはDPクラスにも当てはまるものだ。モデルの評価が低かったチームや競技結果がモデルの評価に相反して思わしくなかったチームは、モデルとして書けていないところや設計と実装の対応があいまいなところに弱点の可能性を疑ってみてはどうだろうか。

DPクラスのチームのモデルの傾向

上位チームは、DPクラスで作成するモデルの作成能力に十分到達していると判断できるので、ぜひアドバンストクラス(DAクラス)にチャレンジしてほしい。下位チームは、自分たちの作りたいものや動かせていることをきちんとモデルに表し、設計と実装が対応しているか、結びつける技術を活かせているかどうかなどを確認して、より高い結果を目指してほしい。

著者紹介

・運営委員長:小林 靖英 アフレル
第1回から運営委員長を務めて15年。マインドストームを活用したエンジニア研修を事業化。2006年アフレル設立、社内にロボコン部がある。メカ好きエレキ小僧ではあるがソフトウェアが専門。世界中の小中高校生ロボコンWROの国際委員も務める。
・審査委員:土樋 祐希 富士ゼロックス
1997年入社。複合機開発のモデル駆動開発導入に携わる。2010年より社内でETロボコン参加活動を立ち上げ、2015年から本部審査員に参加。モデル駆動開発のユーザー会「xtUML.jp」の代表メンバーとしても活動中。
・審査委員:久保秋 真 チェンジビジョン
1963生まれ。1998年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。デジタル複合機等の開発、Mindstormsによる研修教材の開発・講師などに従事。オブジェクト指向技術、モデル駆動開発に興味を持つ。

・審査委員:幸加木 哲治 リコー
大学院時代にETロボコンの前身、UMLロボコン競技部門で優勝。その後、本部モデル審査員として参画。リコーにて、xtUMLの前身であるシュレイアー・メラー法を実践、ならびにソフト系新人教育、プロセス改善に従事し、現在は複合機を中心とする商品企画を行う。