昨年に続き、平成28年度も電子帳簿保存法の要件が緩和され、これまでのスキャナに加え、スマートフォンやデジカメで撮影した電子データ(電磁的保存)も、紙の代わりに保存することが認められた。そのため、これを機に、電子帳簿保存法への対応を検討している企業は多い。

キヤノンマーケティングジャパン ドキュメントソリューション企画課 西尾光一氏

そこで、長年、e-文書法対応ソリューションに携わってきた、キヤノンマーケティングジャパン ドキュメントソリューション企画課 西尾光一氏に、電子帳簿保存法に対応する際のポイントについて話を聞いた。なお同氏は、ビジネス機械・情報システム産業協会のドキュメントマネージメントシステム部会の委員も務めている。

最初に、世間では電子帳簿保存法とe-文書法という2つの言葉が利用されているので、まずはこの2つの違いを整理しておきたい。

西尾氏によれば、電子帳簿保存法は国税関係の帳簿や書類の電子化保存を定めた法律で、一方、e-文書法は紙の代わりに電子データを保存することを認めたもので、医療関係、建築関係など範囲はより広いという。その関係を示すと下図のようになる。

電子帳簿保存法とe-文書法の関係

電子帳簿保存法スキャナ保存制度の対象となるのは、契約書、見積書、注文書、納品書、領収書などの取引関係書類だ。

国税関係の書類

西尾氏は企業が電子帳簿保存法に対応するメリットとして、業務コストの削減、コーポレートガバナンスの向上、事業継続性などを挙げ、次のように語った。

「紙は生産性を下げる要因になり、アナログプロセスはできるだけデジタル化したほうがいいと思います。デジタルになればいろいろな工夫ができます。その上で、どうやって自動化できるかを考えるべきだと思います。ガバナンスについては、紙であれば社内で正しく処理されているかを監査するのに手間がかかりますが、電子化されれば、それがやりやすくなります。とくに多拠点オフイスの場合、ある地区で認識不足によって社内規則に違反した処理が行われるリスクあります。たとえば、接待交際費で処理されなければならないものが、会議費で処理されるなどです。それが電子化され、本部で見えるようになれば、随分違ってくると思います。また、東日本大震災でもあったような、保存していた書類を紛失してしまうというリスクも回避できると思います」(西尾氏)

電子帳簿保存法スキャナ保存制度で紙の代わりに電子データの保存が認められたのは2005年からになるが、西尾氏によれば、2014年までに「承認申請」が行われた件数は累計でわずか152件に留まるという。同氏はその要因として、上限金額の設定や実印相当の電子署名が個人に紐づいた形で求められるなど、要件の厳しさがあると指摘した。そのため、平成27年度、平成28年度と2年連続の要件緩和が行われたというわけだ。結果、2015年は累計承認件数が380件に急増。西尾氏は「今後は飛躍的に拡大していくでしょう」と語った。

電子帳簿保存法の累計承認件数

平成27年度の改正では、「額面3万円未満に限る」という金額上限の廃止が行われたほか、 電子署名が不要になった。一方、重要書類のスキャナ保存申請時には、適正事務処理要件を満たす「事務処理規定」の作成が必要になっている。

平成27年度改正のポイント

そして、平成28年度の改正では、スキャナ以外にスマートフォンやデジカメによる入力が認められ、経理担当者だけでなく、外出先でも従業員本人が電子データを作成することが可能になった。

平成28年度の改正のポイント

これらの要件緩和を受け、各企業が行う電子帳簿保存法に関するセミナーはどこも盛況だ。ただ、西尾氏によれば、まだまだ検討段階の企業も多く、アンケートでは「どこから手をつけていいのかわからない」と回答する企業もあるという。