阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震といった大災害に常に日本列島は脅かされている。先日も糸魚川市で大規模火災が発生し、約150棟近くが全焼・半焼・部分焼という事態になった。

こうした災害時に議論にあがるのが、人命探索や人命救助、がれきの除去といった作業にあたる機器の存在だ。機器などというといまいちピンとこないが、いわゆる「レスキュー・ロボット」のこと。人命救助や状況確認を行う際、それらに取りかかる人員の二次災害が必ず懸念される。そうした二次災害を防ぐ意味でもレスキュー・ロボットの研究・開発が進められている。

このレスキュー・ロボットが一躍脚光を浴びたのが、東日本大震災における福島原発事故だろう。事故が発生した原発内は放射線量が高く、人間が足を踏み入れることができない状況下だったが、被害状況を正確に把握しなくてはならない。そうしたなかレスキュー・ロボット「Quince」が投入され、発電所内部の撮影や温度調査、ダストサンプルの収集などに活用された。発電所に併設された免震重要棟と並び、このレスキュー・ロボットがなければ事態はもっと深刻になっていただろうといわれている。

人工筋肉によるコンクリートブロック破砕デモ

もともとレスキュー・ロボットは、阪神淡路大震災のとき、救急隊員が被災者を捜す術として要望が高まり、以降、研究・開発が進み、レスキュー・ロボット「Quince」へと結実していった。

こうしたなか、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」では、「タフ・ロボティクス・チャレンジ」が進められている。これは、災害時の極限環境において、人命救助や安全確保に効果を発揮できるタフでへこたれない「タフロボット」の実現を目指すというもの。現在のロボットでは「現場で動けない」「失敗すると全体が破綻」「作業条件が合わない」などの課題があり、それを克服するタフロボットの必要性がさけばれている。

そのタフロボットの実現に大きく寄与するであろうテクノロジーが開発された。ImPACTで進められていたタフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所諭氏)の一環として研究されていた人工筋肉が開発された。

研究開発責任者は東京工業大学の鈴森康一教授で、ブリヂストンの櫻井良フェローなどが研究チームに名を連ねる。

ImPACT プログラム・マネージャー 田所諭氏(左)、東京工業大学 鈴森康一教授(右)

今回開発された人工筋肉は、材料にゴムチューブを使用。軽量かつ衝撃や振動に強く、コンパクトで省エネ型のタフロボットの実現に大きく寄与するという。さらに、従来の電気モータや油圧シリンダに比べ、自重比で約5~10倍のハイパワーとなり、災害の予防や緊急対応、人命救助などに適したロボットの開発に不可欠な要素技術だ。

確かに今回の人工筋肉の開発は、大きな成果といえよう。だが、まだ災害時に投入できるタフロボットの全容は現れていない。大地震や火災、予期せぬ災害はいつ発生するかわからない。この要素技術を生かしたタフロボットの一刻も早い登場が待たれる。