市場調査企業であるIHS Markit Technologyの日本法人であるIHSグローバルが2017年1月25日-26日の2日間、東京都内で「ディスプレイ産業フォーラム2017」を開催する予定だが、今回、それに先立って、同社中小型フラットパネルディスプレイ&アプリケーション市場担当シニアディレクターである早瀬宏氏(写真)に、現在のディスプレイ業界の最大の関心ごととなっている有機ELパネルについて、独占的な地位にあるSamsung Displayやそれに挑戦する日系メーカーの状況、今後の新たなアプリケーションなどの話を聞く機会を得たので、その模様をお届けしたい。

IHSグローバルの中小型ディスプレイ調査担当シニアディレクターである早瀬氏宏氏

--中小パネル業界の2017年最大の話題はやはり有機ELになりますか?

早瀬氏:Samsung Displayがやっている中小型有機ELパネルの市場けん引力が強く、さらには、今秋、AppleのiPhoneがディスプレイを従来の液晶から(Samsung Display製の)有機ELに切り替えるとの期待感から、有機ELが最大の話題と言えるだろう。

ただ、Appleから有機EL搭載スマートフォン(スマホ)が発表されるまでは、業界全体としては様子見と言うところだろう。その後に、日本勢のジャパンディスプレイ(JDI)やシャープが有機ELに注力するだろう。有機ELへの世代交代が進む中で、中国中心に莫大な設備投資が行われており、いずれ供給過剰になるのではないかと心配になるほどだ。装置材料メーカーも有機ELへのテコ入れをしてきており、興味深い世代交代のタイミングに差し掛かってきている。

中小型ディスプレイの場合は、大型テレビ用ディスプレイとは異なり、モノクロからからカラーSTL、TFT、スマホ、その大画面化、そしてタッチパネルがついて、次は有機ELに替わるというように次々と世代が移ってきており、そのたびにディスプレイの価値が向上し、その価格が上がって市場も活性化してきている。このような世代交代で、今度は有機ELになるということで皆の関心が個々に集中している。

--有機ELの最大な特徴は?

早瀬氏:バックライトが必要な液晶と違って自発光ということだ。この点で、私自身は個人的には、スマホよりはテレビで特徴が発揮できる技術と見ている。スマホ用の小さいサイズから始めて大型テレビへ徐々に持っていこうとする流れの中で、まずはスマホから始まったと解釈している。しかし、大きくするよりも小さいほうが儲かるということで、スマホに収斂していってしまっているのが現状である。

画面が曲がることで多少の価値が付くかもしれないが、液晶を使っていて、画面が曲がらないことに何か不満ありますか、と言うことになると今のままで不満はない、となってしまうわけで、折り曲げ可能にどれだけのバリューをユーザーが見出してくれるか不透明な面がある。もちろん形状を変えられることによってデザインの自由度が増してスマホに何か次の革新的な可能性が出てくる期待感はあるが、あくまで可能性に過ぎない。

一方、液晶を大型化してテレビ用にするとレスポンス速度やコントラストや視野角の問題があり、完璧な画像にはなりえない。将来テレビは有機ELを採用すべきだと、個人的には思っており、現在はそこへのステップの途上にあると理解している。

筆者注:ここで同氏が語っている有機ELとは、すでに韓国LGエレクトロニクスが大型カラーテレビで採用している「白色有機EL上にRGBカラーフィルタを張り付けるタイプ」ではなく、正統派の「カラーフィルターは用いずに、有機ELをRGB3色に塗り分けるタイプ」を意味している

--今までの話を整理すると、やはり有機ELに期待ということですか?

早瀬氏:有機ELに対する期待には、2面性があるということだ。1つは、フレキシビリティによるモバイルデバイスのデザイン改革への期待。iPhoneの次世代機が注目されるのはこのためである。もう1つは、将来的には、自発光を生かした大画面・高画質のディスプレイへの期待。この両方で有機ELの可能性への期待感があるととらえている。

--iPhoneに有機ELはどのような形で搭載されることが考えられるのでしょうか?

早瀬氏:これはAppleの極秘事項なので、部外者には発表までわからない。高い期待がある半面、ふたを開けてみたら、何だこんな程度か、何のために有機ELにしたのかと思われるようであれば失望感もでてくる可能性すらある。ユーザーにどれだけアピールできるのかはいまのところ不透明だ。

Appleの研究所の中ではこうしよう、ああしようとさまざまな模索がされてきて、そろそろ最終的に絞られる段階だと思うが、何が出てくるかは正直分からない。さすがはAppleと言われるようなものが出てきてほしいと思っている。

--iPhoneの次世代品に限らず、スマホを有機ELによってさらに高精細度化させることに意味があるのでしょうか?

早瀬氏:それはない。すでに精細度を高くしても意味がない段階に来ている。2015年に、ソニーが4K解像度のスマホを出したが、消費電力が高くなるばかりでユーザーが価値を見出せず、後が続かなかった。ディスプレイはすでに十分高精細度化しており、もはや肉眼で区別のつかない高精細度化では価値を付加できず、差別化をはかれないということだ。

一方、折ったり曲げたりすることがどの段階で実用化するかはわからないが、そう簡単には実現できないだろう。ただし、フレキシブル化することによりデザインの自由度は増すようになる。今のところ確実性が高いのは、スマホ表面の上下左右にある枠をやめて表面全体をディスプレイにすることだろう。そうすることで見た目のインパクトは出せる。ディスプレイをエッジ部分まで延長するのではないかともいわれているが。どれも部外者の希望的観測にすぎない。

今秋有機EL搭載の次世代iPHoneが登場する前にSamsungがGalaxy S8で有機ELディスプレイの先鞭をつけるだろう。しかし、Appleは決してそれを真似することなく、独自のデザインで、これぞ有機ELという自信作を出してくることが予想される。

--液晶による全面ディスプレイ化は不可能なのでしょうか?

早瀬氏:やってやれないことはないので、一部メーカーではチェレンジしているところもある。ただし、液晶に必須のバックライトをどのように抱かせるか、その場所を確保するのが難しい。JDIは、Samsungの有機ELをまともに後追いしても勝ち目がないので、液晶で独自の道を開拓しようとしている。