WOWOWの『連続ドラマW 本日は、お日柄もよく』(1月14日 毎週土曜 22:00~ 全4話・1話のみ無料放送)で主演を務めた比嘉愛未にインタビュー。WOWOWのドラマは初出演で、以前から熱望していた『半落ち』(2004年)の佐々部清監督との初タッグ作ということもあり、比嘉は心から喜んだという。

比嘉愛未

原作は、原田マハの同名小説。老舗製菓会社の総務部で働く二ノ宮こと葉(比嘉愛未)が、幼なじみの今川厚志(渡辺大)の披露宴で、伝説のスピーチライター・久遠久美(長谷川京子)と出会い、言葉の力に衝撃を受ける。やがてこと葉は久美に弟子入りし、スピーチライターとしての修行を積んでいく。いろんな困難にぶち当たりながらもがむしゃらに頑張っていくこと葉。そのガッツと、比嘉自身のひたむきさが相まったヒロイン像が、大いに共感を呼びそうだ。

――まずは、脚本を読んだ感想から聞かせてください。

こと葉がスピーチライターと出会ったことで自分の世界が広がっていき、成長していくという奮闘記でもあるので、今回は等身大で演じさせていただきました。最初に佐々部監督とお話した時も「"比嘉愛未"と"こと葉"が混ざった"愛葉(まなは)"になってほしい」と言われました。それは佐々部監督ならではの演出だったと思いますが、その言葉にすごく救われました。最初はWOWOWさんで初めての主演という責任感から、主役らしく引っ張らなきゃというプレッシャーを感じていました。でも佐々部監督が「ありのままの気持ちを通して演じてください」と最初から優しく言ってくださったので、私は自分の体を通して、こと葉の言葉を語っていったような感覚です。

――佐々部監督とは、念願の初タッグとなったそうですね。

そうなんです。佐々部監督とはいつかご一緒したいと願い続けていました。監督の作品が大好きですし、佐々部監督とお仕事をされた役者さんたちが口々に「絶対に一度は佐々部さんとご一緒した方がいい」とおっしゃっていたので。現場では誰よりも熱く、すごくチャーミングで魅力的な方でした。何よりも、監督自身がちゃんと役者に寄り添ってくださるんです。

――演じたこと葉にとても共感できたそうですが、それはどういう点でしたか?

共感できる部分ばかりでした。元々私もこと葉と同じくらい不器用で、猪突猛進するタイプなので、たまにぶつかって凹んだり反省したりもするし。その気持ちに嘘がないので、そこを乗り越えてまた進もうとするところはすごく共感できました。

また、仕事についての向き合い方も同じです。久美さんと出会い「何だ? この世界は!」という好奇心をかきたてられ、そこからスピーチライターの世界に飛び込んだこと葉の行動力には迷いがないんです。私もお芝居を初めてやらせていただいた時に挫折したことがあり、そこからそんな自分を克服したい、この仕事をもっと追求したいと思って、沖縄から出てきたんです。

くよくよ悩まず、決めたら動くという真っ直ぐなところや不器用さなど、こと葉と似ていると思います。「もっと上手くやったら効率がいいのに」と周りからは言われますが、無理にそうしたとしてもそれは私らしくないのかなと。このままの性格で人生に向き合っていこうと思っているので、そこもこと葉と似ているなと感じます。

――スピーチライターという職業についてどう感じましたか?

演劇界で言うと、ある意味演出家さんの仕事に近いんじゃないかなと。自分が表に出るわけではなく、舞台に出る人の背中を押したり、サポートしたりする仕事だと思います。映画やドラマの監督さんもそうで、誰よりも寝れないし、考えなきゃいけないという責任があるし、本当に大変ですよね。

私は今回の役を演じてみて、自分がスポットライトを浴びなくても、自分がサポートした人が輝いている姿を見ればこんなにもうれしいんだということを初めて体感できました。スピーチライターさんもそうで、自分が頑張っても自分に拍手が返ってくるわけじゃない。でも、人を輝かせることにやりがいを感じ、ハマってしまうのかなと。

知れば知るほど大変な仕事で、誰よりも言葉を知っていなくてはいけないし、勉強も必要だし、話し手さんの姿勢や癖まで直さないといけない。本当に奥が深くて、確実に言葉が好きな方たちだからこそできる仕事かなと。今回その魅力について知ることができて良かったです。

――製菓会社でのスピーチのシーンがとても印象的でした。

実はそのシーンは撮影初日に撮ったんです。撮影初日の最後がそのスピーチのシーンの撮影でした。濃厚な1日でしたね。でも、佐々部監督の人柄もあって、現場ではみんなが一致団結し、瞬時にチームワークができたので、私は"愛葉"として集中することができました。周りの方たちのおかげです。長い台詞は自分との戦いなので、こればかりは緊張しながらやったのですが、こと葉は久美さんとは違い、最初からできないところがベースなので、つっかえたり言葉が変になってしまっても、とにかく気持ちでぶつかろうと思って演じました。

撮影に入る前に監督が「目の前にいる人に対して誠実に向き合い、そこから生まれた感情を発信してほしい」と言ってくださったことも良かったと思います。演じるとなるとどうしても構えてしまうこともありますが、それがリアリティだなと思いました。

やはりお芝居は相手の表情や声量に引っ張られるものがあると思いますし、やっていくうちに小器用にやってしまう。そこを佐々部監督がもう1回初心に戻させてくれた気がします。初日にあのシーンが来たのも、まさにそれを体現しなさいということなのかと思って挑みました。

――久遠久美役の長谷川京子さんと師弟関係を演じてみていかがでしたか?

京子さんはスラッとしていて、ファッションもおしゃれでスキがないんです。私が対照的なので、京子さんの圧倒的なきれいさとオーラに毎日見とれていました。ご本人も久美さんのようにすごくパワフルな方だし、母親としての顔もある一方で、現場ではそのことを出さないというミステリアスさもあります。でも、こちらから話すと、お子さんの話やプライベートな女子トークもしてくださいます。

私は結婚もしていないし、子育てもしてないからいつも自分のペースでいられるので、家へ帰っても愛葉のままでいられました。でも京子さんは家に帰ったらお母さんとなり、撮影現場に来たら久美になってと、オンオフの切り替え方が素晴らしいんです。これから私も家族を作った時に乗り越えないといけないハードルがあると思いますし、だからこそ京子さんのことはものすごく尊敬できます。しかも久美さんの台詞は難しくて大変だったと思うけど、NGなしでやられていて、すごいなといつも思って見ていました。

――祖母役の八千草薫さんの印象についても聞かせてください。

八千草さんは会うととても癒される方で、いらっしゃるだけで自然と笑顔になってしまいます。人を癒せるのは、今まで培ってきたものが溢れ出ているからだなと。あの世代の方たちは、芯があるけど柔らかいんです。声に説得力があるし、劇中の台詞は八千草さんじゃないと響かないと思いました。それは真似のできないもので、心から憧れます。今後、目指したいと思える素敵な先輩と出会えたことが、私の財産となりました。

――こと葉が言葉によって背中を押されたように、人生のターニングポイントでもらった印象的な言葉があれば教えてください。

たくさんありますが、今ふと浮かんだのが大好きな女優の草笛光子さんの言葉です。私は朝ドラ(NHK連続テレビ小説『どんど晴れ』)でドラマデビューをしましたが、草笛さんは新人の私をいつも励ましてくださいました。

朝ドラは1年間タイトなスケジュールでセリフ量も多いから大変なことも多く、一人で悩んでいたんです。ある日、私が草笛さんに弱音を吐いたことがあったんですね。そしたら草笛さんが「私は女優を50年以上やってきているけど、1回も満足したことはないわよ」と笑いながらおっしゃったんです。

まさに目から鱗でした。その時、この仕事の深さと共に草笛さんのすごさも感じ「そうだ、満足したら終わりなんだ」と思えたんです。それからは壁にぶつかった時に、その言葉を思い出すようにしています。これは乗り越えなきゃいけない課題であり、そうやって1歩1歩ずつ前に進んでいくんだと。今後も自分に満足せずに、常に追求し、いつか若い新人の子に対してもそっと手を差し伸べられる草笛さんのような素敵な女優さんになれたらいいなと思います。