既存の授業との違いとは

ここまで、アクティブ・ラーニングが子どもに与える具体的な効果を紹介したが、アクティブ・ラーニングによる学びは既存の授業と何が異なるのか。例えば農業高校の場合、そもそも普通科の教育課程と違い、実験実習の割合が高い。体験型の授業形式という意味では、農業高校の既存の教育課程にはもともとアクティブ・ラーニングの要素が組み込まれているとも言える。この点に関して、相馬農業高校の加藤教諭は、このプログラムでは生徒たちの「迷い」「立ち止まり」「失敗」などを許容している点が一番の大きな違いであると言う。

実は、農業高校の実習では限られた時間の中で、必要な知識と技能を生徒に身に付けさせる必要があるため、ある程度、教員側がお膳立てしていることが多い。例えば、パンの製造実習にしても、生徒が最初から材料を用意し、混ぜ合わせる工程から始めていては、授業時間内でパンを焼きあげることは到底できない。教員側が一定の準備をしておき、途中の工程から生徒を参加させることが多いのが実状である。そのため、体験型といっても生徒は用意された作業をやってみるということにとどまり、どうしても心構えとしては受け身になりがちである。その点、「経営・マーケティングプログラム」においては、大人が手出し、口出しをしないため、生徒たちは課題にぶつかった時も自分たちで打開策を見つけなければ前に進めない。逆に言えば、自分たちで考えれば考えるほど、頑張れば頑張るほど良い結果につながるので、自ずと当事者意識が芽生え、自主性や積極性が育まれるのだ。

本格導入に向けて重要なのは「仲間づくり」

今後、教育現場でアクティブ・ラーニングを導入する際には何から始めればよいのだろうか。シンポジウムのパネルディスカッションにおいても、この点に関して複数の参加者から同様の質問が寄せられたが、どのパネリストも口をそろえて「まずは学校内外の仲間づくりが重要」と返答したのは、とても印象深かった。前編において、授業を実施する教員側の意識統一の重要性について述べたが、「仲間づくり」という言葉には現場レベルでの「一致団結」「味方づくり」といったプラスアルファの意味合いもある。

アクティブ・ラーニング形式の授業において大人が手出し、口出しをせずに生徒の自主性を尊重することが最大のポイントであることは先に述べたが、これはまったく生徒に任せきりで「放置」し、「傍観」しているのとはわけが違う。適切なタイミングで話が行き詰っているグループに声を掛け、議論が前に進むような質問を投げかけるなどのサポートは重要である。ただし、どのようなタイミングでどのような言葉を掛けるかは定性的なスキルに左右されるものであり、"良い加減"が必要である。この"良い加減"のスキル習得のためには、教員が数多くの良い例を見て体験し、実際に自ら試行錯誤して経験を積むしかないのだが、現実の教育現場では、教員同士が互いの授業を観覧しフィードバックし合うような機会は限られている。教員が、研究授業という形で互いの授業を見せて参考にしたり、それに基づいた議論をしたりすることはある。しかしながら、実質、日常的には各自の指導方法はある種の不可侵領域であり、隣のクラスでどんな内容の授業が行われているのか同じ学校の教員同士でも知らない場合が多いのである。

教材や指導方法が明確に確立していない、新しい取り組みであるアクティブ・ラーニングだからこそ、指導する教員のスキルアップは急務であるが、教員側がスキルアップするための環境は、現場の風土も含め、改善と高度化が必要な状況である。このような課題認識のもと、全校をあげてアクティブ・ラーニング形式の授業を取り入れている福島県立ふたば未来学園高等学校では、教員間の授業参観が奨励されている。朝の職員会議では、その日行われるアクティブ・ラーニング形式の授業が共有され、担当教科以外の授業であっても空き時間に他の教員の授業を観覧することは珍しくない。多い時では1クラスで5人以上の教員が参観することもあるほどだ。

福島県立ふたば未来学園高等学校におけるアクティブ・ラーニング形式の授業の様子

アクティブ・ラーニングの本格導入に向けた第一歩として、まずは学校内での連携を強め、さらには外部の企業やNPOなどを積極的に活用して「仲間」を作り、教員が自らの学びにアクティブ・ラーニングを取り入れて実践し、「仲間」とともに学び合いの精神で研鑽を積むことが求められるのではないだろうか。

参考文献

1) 「OECD 東北スクールの取り組みとその教育効果」 三浦浩喜,七島貴幸,村重慎一郎(福島大学地域創造 第26巻 第2号、2015.2)

著者プロフィール

藤井篤之(ふじいしげゆき)
アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー
入社以来、官公庁・自治体など公共サービス領域のクライアントを中心に、事業戦略・組織戦略・デジタル戦略の案件を担当。農林水産領域においては輸出戦略に精通している。
また、アクセンチュアの企業市民活動(CSR活動)において「次世代グローバル人材の育成」チームのリードを担当。経営・マーケティングに関する農業高校向け人材育成プログラムの企画・開発を行う。

久我真梨子(くがまりこ)
アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 マネジャー
企業の事業戦略・組織改革などに関するコンサルティングと並行し、教育機関に対して、カリキュラム改組から教材開発、実際の研修実施に至るまで踏み込んだ支援を行う。
人材育成に関する豊富な知見を活かし、アクセンチュアの企業市民活動において、農業高校向け人材育成プログラムを提供している。