宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月11日、SS-520ロケット4号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げる。前々日となる9日にはロケットの機体がプレスに公開され、目の前で見ることができた。H-IIA/Bやイプシロンなど大きなロケットの場合、射場でこれほど近くで見る機会はなく、いかにも観測ロケットであるSS-520ならではだ。

内之浦宇宙空間観測所で公開されたSS-520ロケット4号機

わずか10m弱の衛星打ち上げロケット

SS-520は、固体燃料の2段式観測ロケットである。直径は52cmで、長さは10m弱。重量は2.6tだ。衛星を地球周回軌道に投入する能力はないものの、140kgのペイロードを約800kmの高度まで打ち上げることが可能で、天体物理学の観測や、上層大気の研究などに利用できる。これまでに2機を打ち上げた実績がある。

観測ロケットであるので、宇宙空間まで行っても、普通は地球を回らずにそのまま落ちてくる。しかし今回の4号機では、第3段を新規開発。この改修により、低軌道に4kg以上のペイロードを打ち上げられるようになった。4号機には、実際に重さ3kgの超小型衛星を1機搭載しており、この技術実証を行う。

ロケットの仕様。イプシロンと比べてもかなり小さいことがわかる

黄色の部分が新規開発。1段と2段は既開発品をほぼそのまま使う

そのあたりの詳細はコチラの記事を読んでもらうとして、まずは公開されたロケットの様子を紹介したい。SS-520の射点があるのは、同観測所のKS台地と呼ばれるエリア(イプシロンの射点があるM台地よりも1段高い場所にあり、標高は276m)。ここは、1970年に日本初の衛星「おおすみ」を打ち上げた、歴史的な場所でもある。

射点があるKS台地。ランチャーにロケットが付いた状態だった

KS台地の全景。観測所のより高い場所から撮影した

H-IIA/Bやイプシロンは点火後、垂直に上昇していくが、SS-520はランチャーに吊り下げられており、レールを滑走する形で、斜めに発射される。このランチャーはブームを上下に動かしたり、左右に旋回することが可能。これでロケットの目的に応じて、任意の向きに打ち上げるというわけだ。

ロケット全体。固定用の黄色いアームは、打ち上げ時には外す

先端のフェアリング。内部に超小型衛星と第3段を格納している

第2段。断熱のためのコルクが巻かれている(ビニールは打ち上げ前に外す)

第1段には尾翼を搭載。これで機体にスピンをかけ、姿勢を安定させる

ランチャーの土台。ブームを旋回させることが可能だ

ランチャーの後部には、方角を示す目盛りが付いている

ロケットの上下2カ所にT字形の金具が付いており、ここでレールから吊り下げている。本来はロケットの片側だけにあれば良いが、バランスを取るために反対側にも同じ金具が付いており、写真ではこれが確認できる。T字の大きさは上下2つで違っていて、この工夫により、上昇時には2カ所同時にレールから外れるようになっているとのこと。

ロケット第1段の上側に付いているT字形の金具

こちらは尾翼の間にある金具。上のものよりも小さい

なお、このランチャーは2014年度に新設されたものだ。従来は隣接するドームの中から、移動式のランチャーを使って打ち上げていたのだが、設備が老朽化してきたため、固定式の新型ランチャーを導入したとのこと。現在は基本的に、この新型ランチャーを使って、観測ロケットの打ち上げが行われている。

気になる打ち上げ当日の天気は……

同日開催されたプレス向けのブリーフィングには、実験主任であるJAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授が出席。現在の状況等について説明した。

JAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授

まず、ロケットの打ち上げとなると気になるのは天候だ。特に小型のSS-520は天候の影響を受けやすく、雨天時には打ち上げることができず、風速も秒速15m以下である必要があるという。ただ現時点の予想では、打ち上げ当日の天候は晴れ。風も弱く、このまま行けば、特に問題はなさそうだ。

9日8時の時点での天気予報。しばらく雨の心配はなさそうだ

今回の打ち上げは朝方に行われる。この理由について、羽生准教授は「もっと昼に近いほうが我々のオペレーションとしては楽だが、風を気にしている。この季節の風速の平均を見ると、朝方のほうが穏やかな傾向があった」と説明。この時間帯になったのは、衛星側ではなく、ロケット側の事情であることを明らかにした。

なお当初、ロケットの打ち上げ時刻は7時20分~8時50分と発表されていたのだが、このブリーフィング後、JAXAからプレスリリースが出て、正確な打ち上げ時刻は8時48分と発表された。

打ち上げ後、68秒で第1段を分離。ラムライン制御で機体の姿勢を変えてから、打ち上げ後180秒に第2段を点火。以降、第2段の分離が235秒、第3段の点火が238秒と続き、打ち上げの450秒後に衛星が分離される予定だ。

フライトシーケンス。打ち上げの7分半後に衛星を分離する

ただし今回のロケットには、リアルタイムで衛星分離を確認する方法がないため、軌道に正常に投入できたかどうかはすぐにはわからない。衛星が地球を1周して戻ってくるまで待つ必要があるとのことだが、打ち上げの3時間後に記者会見が開催される予定になっており、そこで打ち上げ結果については公表される見込みだ。

4号機は「世界最小の衛星打ち上げロケット」ということで、観測ロケットとしては異例とも言えるほどの注目を集めている。しかし羽生准教授は、「わざわざ小さいことを狙ってやったわけではない」と補足。「観測ロケットを使って技術開発にどう活かせるかを考えた。持っているものを上手に活用したというスタンスだ」と説明する。

「もの作りの難しさを痛感した。もともと衛星用ではないロケットに機能を追加したので、システム化がすごく難しかった」と、2年間の開発を振り返った羽生准教授。2日後の打ち上げを前に、「あらゆることをやってきて、ようやく発射装置に組み付けられた。ここまで来たら絶対に成功させたい」と意気込みを述べた。

一般見学場からの見え方をチェック

最後に、打ち上げを見ることができる見学場の情報を紹介しておきたい。

昨年末のイプシロンロケット2号機の打ち上げでは、観光客による大混雑が予想されたため、一番人気の宮原(みやばる)見学場については、入場が有料のツアーのみに制限されていた。しかし今回の打ち上げでは、こういった制限は特になく、誰でも自由に入場が可能だ。事前の申請も必要ない。

宮原見学場。高台からロケットの打ち上げを見ることができる

右がイプシロンの射点。観測ロケットの射点は左上のドームの奥

ただしイプシロンとは違い、観測ロケットの場合は、宮原の見学場からでも、射点を直接見ることができない。ランチャーの手前にドームがあるため、隠れて見えないのだ。ちょっと残念ではあるが、打ち上げ直後には姿が見えるようになるので、その瞬間を見逃さないように待とう。

見学場の高台からは、前方の左側を除けば、ほぼ全ての場所でKS台地のドームを見ることができる。各場所からの見え方を以下に掲載するので、現地に行く予定がある人は参考にして欲しい。

最前列右側からの風景

ドームは全体が良く見える

最前列中央からの風景

少し手前の木に隠れる程度

最前列左側からの風景

完全に隠れて位置がわからない

最後列左側からの風景

屋根部分がかろうじて見える

SS-520ロケット4号機写真集