2016年の日本におけるApple最大のトピックは「iPhone 7発表とそれに付随した日本でのApple Pay開始」にあると考えているが、2017年はどのようなイベントが待っているのだろうか。「有機ELディスプレイ(OLED)採用のデザインを一新したiPhoneが投入される」という噂もあるが、これも含めて今年登場のiPhoneをはじめとするApple周辺情報について、現状でわかっている部分を整理しつつ、今後について考察していく。

Touch Barを搭載した新型MacBook Proに、デュアルカメラを採用したiPhone 7 plusは、2016年にAppleが発売した新機軸の製品だ。発売直後から不具合やバッテリ駆動時間問題の報告が相次いだりしたものの、どちらも出荷開始からしばらくは品薄状態が続くなど入手困難な状況が続いており、Apple人気は健在といったところだろう。4年ぶりにMacBook本体の買い換えを行い、Apple Payの動作実験のために米国版iPhone 7 Plusをわざわざ購入した筆者も、いまのところ満足して本稿を執筆している。

2017年度第1四半期(2016年10-12月期)決算発表をアナウンスする投資家向けのページ

さて、Appleは同社会計年度で2017年度第1四半期(2016年10-12月期)決算を1月31日に発表する予定だ。上記に挙げた新製品群が投入されたのは主に2016年9月後半-12月となるため、この決算で実際の販売状況が判明することになる。過去を振り返ると、Appleは2011年10月に販売を開始したiPhone 4S以降、iPhone新製品を9-10月の秋期に投入するサイクルを続けている。同社の会計年度でいうと第1四半期(FYQ1)であり、iPhone 4Sの投入はFY2012Q1ということになる。以後、同社の四半期の売上はQ1が最大となり、iPhone新製品が投入される直前のQ4のタイミングまで徐々に減少していき、翌年度のQ1で再び急上昇するというiPhoneの製品投入サイクルに連動した業績となっている。

Appleが1月6日に米証券取引委員会(SEC)に提出した書類に関して複数のメディアが報じているが、それによればAppleが事前に公表した売上ターゲットを実際の業績が下回ったのは2009年以来初のケースで、iPhoneの年間販売台数が前年を下回ったのも2007年に初代モデルが登場して以来初のケースとなる。主な原因は、同社が近年力を入れていた中国での販売が競争激化もあり急減したことで、これが世界全体の市場の軟調傾向もあって全般的に振るわないという結果になった。これを受け、CEOのTim Cook氏をはじめとするAppleの役員報酬も全体に1-2割ほど減額となることが報告されている。

このFY2016というのは2015年10月-2016年9月期の決算であり、主にはiPhone 6sを含む業績を反映したものとなる。次のiPhone 7の具体的な販売状況を知るには1月末の決算報告を待つ必要があるが、すでにその先行きを示す情報が出始めている。例えば日本経済新聞が昨年2016年末に報じたところによれば、サプライチェーン筋のデータから2017年第1四半期に製造されるiPhoneの台数が10%ほど削減される見込みだという。前述のようにiPhone 6sの世代では中国での販売急減速があったことから、当初前年比1-2割程度増産計画があった製品は大幅にだぶつくこととなり、特に先行して発注の行われていた部品在庫の削減にAppleが苦労していたことが知られている。この間、部品メーカーへの発注は完全にストップし、Apple向けに工場の生産ラインを確保していた各社では最大で数ヶ月から半年程度ラインが止まる状態が継続したといわれている。AppleではiPhone 7の生産にあたってiPhone 6sのときの教訓を活かし、おそらく前年実績とほぼ同等か若干上積みした程度の生産数で調整していたと予想される。日経の報道が事実とすれば、それでも追加製造分に1割程度の生産調整が入るとのことで、Apple側で在庫が積み上がっている、あるいは需要の減少傾向が見られることから生産調整を決断したのだと考えられる。

もう1つはYahoo!のFlurryが昨年2016年末に公表した米国の年末商戦におけるベンダー別スマートフォンとタブレットのアクティベーション比率をまとめたデータで、Appleが44%で首位、Samsungが21%で2位、あとは中国系メーカーを中心に各メーカーが2-3%の水準で並ぶという形だ。年末のギフトということでタブレットも相応の台数が含まれていると思うが、商戦期を考えればAppleのデバイスはiPhoneが中心となると考えられる。これだけを見るとAppleの圧勝のようにも思えるが、Wall Street Journalによれば、前年の同データではAppleのシェアは49.1%であり、減少傾向にあるという。一方で2016年の年末商戦はGalaxy Note 7という目玉商品を爆発トラブルで全品回収に見舞われたSamsungが前年の19.8%からわずかながらシェアを伸ばしており、販売される製品のカテゴリが全体に(iPhoneやNote 7が含まれない)ミッドレンジなどに流れたことも予想される。Wall Street Journalの同記事では米NPD GroupのアナリストStephen Baker氏のコメントを引用しつつ、AppleとSamsungのトップ2社が商戦期に魅力的な商品を投入できずに販売を伸ばせなかったことに言及しており、少なくとも以前までの販売ペース増加が見込めなくなっていることを示唆している。

ただ、筆者が複数の情報源から聞いている話を参考にする限り、iPhone 7の販売状況は一般に言われているほど不調ではないという声も聞こえてくる。まず、目立った生産調整の話が現時点で聞こえてこないことから、少なくとも当初Appleが想定していた前年比の販売実績に基づいた需要予測の範囲に業績が収まっていることが予想される。日経が報じた生産量1割減は、需要のピークを微妙に過ぎた2017年第1四半期での生産調整であり、おそらく微調整に近いレベルだと推察する。もう1つは後述するが、Apple側にあまり焦りが見られない点だ。具体的には「冒険」をせず、全体に保守的な製品計画やスケジュールを敷いており、いい意味でも悪い意味でも「マイペース」に近い状態にあるという声を聞いている。つまり、悪くても前年比で微減程度なので、わざわざ冒険をする必要性を感じていないということだ。これを実際の製品に当てはめると「ビジネス的には堅調だが、ユーザーにとってワクワクする製品ではない可能性が高い」ということを意味する。次の項でこのあたりをもう少しみていこう。