東京都渋谷区。まさに東京の繁華街を象徴しているような、あふれんばかりの若者が闊歩(かっぽ)する街といったところだろう。しかしながら、渋谷区にもいろいろな顔があるらしい。そのひとつが、渋谷区笹塚周辺に広がる商店街だ。

ここもまた、渋谷なのだ

「なんだかにぎわっているらしい」。それ以外にたいした情報もなく訪れてみたのが、京王線笹塚駅にある「十号通り商店街」と「笹塚十号坂商店街」だ。商店街のゲートを目の前にしても、もしかしたら「残念ながら、食べ歩けませんでした! 」と報告することになるのではないかと思っていたほどである。しかし、その予想は大きく覆されることとなった。

B級グルメの宝庫「十号通り商店街」

新宿駅から京王線でたった5分の笹塚駅北口に、それはあった。道幅数メートルの、いわゆるこぢんまりとした商店街である。長さはたった200m。ゆっくり歩いても5分とはかからない。その中にどれだけ食べ歩きグルメがあるかと思い、取りあえず散策してみた。

京王線笹塚駅北口側の、国道20号線(甲州街道)をまたいだあたりにちょこんと商店街の入口がある

まずは手作り感満載のオシャレかわいいスイーツの店を発見。ふむふむ、一応紹介できるものはありそうだということで、さらに進むと明石焼きがあり、焼き鳥屋があり、唐揚げ屋、和菓子屋、パン屋、コロッケ、メンチカツ、おにぎり……!もうメモしないと忘れそうなほどにB級グルメがいっぱいであった。

そのいくつかは店の前のテーブルやケースに商品を並べ、道行く人はそれらをのぞきこんでいた。そんな、「がんばって商売しよう」という意気込みがありながらも、不思議なことに江戸っ子っぽい押しの強さを感じない。なんとなく、ゆるーい雰囲気があるのだ。

狭い道の両側には商店がぎっしり

これは間違いない! 絶品唐揚げを堪能

さすがに全ては食べ歩けないため、そのうち2つを紹介したい。まずは唐揚げの専門店「鶏Kara衛門」を訪れると、お店のお姉さんが屈託ない笑顔で迎えてくれた。

お店の横には、なぜか「All you need is love」の看板が

オーソドックスなしょうゆ唐揚げの他、のりしお、甘だれ、塩にんにくなど、さまざまなテイストの唐揚げが並んでいる。100gで220円というグラム売りである。だいたい唐揚げ2個でこれくらいの金額になるそうだ。今回は、一番人気のしょうゆと、お姉さんがオススメしてくれたゆず胡椒唐揚げを購入。これで240円だった。

鶏Kara衛門の唐揚げ。袋の「ゆず」「しょうゆ」はお店のお姉さんが書いてくれたものだ。100gで220円(唐揚げ約2個分)。写真のものは合計240円

その味は、さすがに専門店なだけあって絶品と言わずにはいられない。ゆず胡椒はよくある「なんとなくゆず」というものではなく、生のゆずのジューシーさまで感じられるようなもの。しょうゆも間違いないと言えるだろう。

新鮮ないちごがうれしい、冬季限定「いちご大福」

食べ歩きは、何も揚げものだけとは限らない。たまには和菓子なんてどうだろうか。「自家特性いちご大福」ののぼりにつられて「和菓子処 永福青柳」に入ってみた。

店員さんは、唐揚げ屋同様あたたかな雰囲気である。2人続けば、もうこれはこの商店街の印象を形付けると言ってもいい。実際、その後訪れたどのお店も、人懐こい笑顔で迎えてくれた。新宿にほど近く、しかも渋谷区であるのに、このノホホンとした穏やかさはなんだという気がする。下町とも洗練された都会とも違う、ほんわかした温かみがあるのだ。

ちょっと小ぶりな自家特性いちご大福(216円)。賞味期限は当日だった

そして肝心のいちご大福(216円)はと言うと、印象は「コンビニやスーパーとは全然違う! 」であった。あんこのなめらかさも、大福の食感もまるで違う。なんとなく"日本の心"がある気がした。ちなみに、いちごが採れる冬季限定の販売だそうだ。

真っ直ぐな1本道ではなく、突き当たりからクランク状に続いている。それだけで、どことなく街に迷い込むような冒険的な気分になってしまうから面白い

商店街の途中には、ビルの間に作られた暗がりの横道も。のぞいてみても料理屋や昔ながらの魚屋などがあるだけなのだけど、思わず吸い込まれてしまうのは郷愁マジックだろうか

ベンチもいっぱい「笹塚十号坂商店街」

「あ! 」という短さの十号通り商店街を抜けたら、その先に続く笹塚十号坂商店街も訪れたい。ゆるめの坂に沿って作られた商店街で、ここも長さ120mと短い。

十号通り商店街を抜けるとすぐに現れる、笹塚十号坂商店街

十号通り商店街に比べ、小洒落た雰囲気がある。小さくてあたたかみのあるカフェや、ガレットの店などあり、パン屋には「パン焼きあがりました」のプレートが下げられている。ところどころには"人に優しい商店街"というコンセプトのもと、訪れた人がいつでも休めるように、たくさんのかわいらしいベンチが置かれていた。

たくさんのベンチが設置されている。商店街の食べ歩き散策ではとてもありがたい

ホットチョコレートでホッと一息

まるで「かき氷」ののれんのように「ホットチョコレート」が下げられたお店を発見。特に寒い冬には引き寄せられる文字だ。ワッフルとかき氷のお店「ドルチェリアジーロ」である。注文してから丁寧に作ってくれるホットチョコレートは480円。テイクアウトして歩きつつ飲むか、6席ほどある店内でホッと一息ついてみてもいいだろう。味は濃厚で、ヤケドしそうに熱い。ゆっくりいただこう。

「ホットチョコレート」ののれんを見るだけで温まりそう

お店の一番人気は「十号坂ティラミス」(480円)とのこと。夏場は、「いちごティラミス味」や「ゆずオリーブオイル味」などの一風変わったかき氷も人気だそうだ。

店内で一息してみても。ホットチョコレートは一杯480円

手焼きのおせんべいをパリッ!

続いて目に留まったのは、店内がおせんべいに埋め尽くされている「柴本商店」だ。ここまで徹底しておせんべいだらけの店というのも珍しい。

やっぱり人懐こく迎えてくれる。この商店街の人はみんなそうなのだろうか

あまりにたくさんあるためオススメを聞くと、定番のしょうゆが人気だそうだ。そこで、写真的に絵になりそうな海苔付きしょうゆ味にしようとしたら、「おせんべいを楽しむなら海苔なしもいいね~」との声があがったため、それぞれ1枚ずつ購入。

価格表示は「10枚500円」等々のため、「1枚でもいいですか」と尋ねると、「『半分に割ったのがほしい』っていうのでなければいいよ~」とのこと。お茶目である。写真のものは各50円

おせんべいによるが、今回購入のものは1枚50円。まるで駄菓子屋さんのような感覚で、懐かしい気がした。ハート型のおせんべいもあるため2月のバレンタインにいかがだろうか。

ホクホクおにぎりはいかが

少し前からおにぎり専門のチェーン店が登場しているが、個人商店のおにぎりの店はそんなにないだろう。「ささ家」のガラスケースを眺めていたら、奥からまるで常連客を迎えるような笑顔で「いらっしゃい」と声をかけてくれた。女子に人気というサーモンと、ねぎみそのおにぎりを購入(各110円)。ケースにないものはその場で作ってくれる。作りたてはあたたかい。

紙のつつみが食べ歩きぽくていい

ちなみに筆者的な感想としては、初々しい恋人同士で食べる場合には、ねぎみそはオススメしない。しばらくの間、息をする度にねぎの香りが気になってしまいそうな後味を感じたからだ。もちろん、味は申し分ないのだが。

包みを開けるとお米と海苔の香りがふわっとただよってきて、食い付かずにはいられない。具材はご飯にサンドしたようになっていた

実は、この短い2つの商店街には2軒のおにぎり屋があるのだが、今回選んだのは十号坂の方である。その理由は、店構えが個人商店感満載だったからだ。おにぎり好きな方は両方試してみてもらいたい。

十号かっぱ発見!

ここで、商店街の名前の「十号」とはなんぞやというお話をひとつ。ここには、明治29(1896)年に玉川上水から引き込まれた用水路が通っていたのだという。この水路に架けられた橋が新宿から順番に番号を付けられ、その10番目がここにあったのだそうだ。水路は関東大震災後に廃止されたが、その名残が通りの名前として表されているわけだ。

この2つの商店街についてまとめると、人の温かさといい、お店のバラエティー具合といい、「ここは穴場だ! 」と言えるものであった。筆者的には、このへんに住んでみてもいいと思う。

※価格は全て税込

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。