さまざまな病気が胃痛を引き起こします

誰しも一度は、胃が痛くなった経験があるのではないだろうか。胃痛は暴飲暴食だけが原因ではない。プレッシャーを感じる場面で胃がキリキリと痛むこともあれば、胃がんや膵臓(すいぞう)がんなど深刻な病気のサインになっていることもある。

症状を軽くみないためにも、今回は胃痛を伴う病気について、内科の大川原華織医師に解説をいただいた。

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空腹時の胃痛と食後の胃痛の違い

一般的に、食事の影響を受ける痛みは消化管系の症状であることが多いでしょう。

食前の空腹時には、胃酸分泌が刺激となり疼痛(とうつう / 痛み)を引き起こします。胃は、食べ物を殺菌・分解するために酸性度の強い消化液を分泌しています。ピロリ菌感染や薬剤、ストレス、暴飲暴食などで胃粘液分泌が少なくなると、胃酸が胃粘膜自体を消化してしまい胃に傷ができます。その傷により、焼けるような痛みを感じるほか、もたれやむかつき、げっぷなどの症状を引き起こします。

食前の痛みを起こす病気としては、「急性胃粘膜病変」「胃潰瘍」「逆流性食道炎」「胃がん」などが考えられます。

一方、食後の胃痛では、食物による胃・十二指腸過伸展や消化酵素分泌の刺激により疼痛が起こることが多いです。食後の胃痛を引き起こす病気としては、「十二指腸潰瘍」「胆石症」「急性膵炎(すいえん)」などが考えられます。

食前食後に関係なく発症する病気には、「機能性ディスペプシア」「心因性胃炎」「胃痙攣(いけいれん)」などがあります。過度なストレスをためないように心がけましょう。

胃薬で治らない胃痛から疑われる病気

しめさばやホタルイカなどを食べた後に心窩部(しんかぶ / みぞおち)に激痛がある場合は、「胃アニサキス症」のことがあります。内視鏡で摘出すればすぐに痛みは改善します。

食後に胃の近くのみぞおち辺りが痛むもので胃薬を内服しても改善しない場合は、胆のうや膵臓などの異常が考えられます。

胆のうの病気では、心窩部~右上腹部が痛むことが一般的です。胆石による痛みは食後30分~1時間程度でおさまることがあるため、放置してしまう方もいらっしゃいます。しかし、胆石が胆のうの出口にはまってしまうと胆汁が外に出ていかず、細菌感染などを起こし「胆のう炎」になることがあります。

繰り返し痛みが起こる場合は、きちんと精密検査を受けておいたほうがよいでしょう。胆のう炎や胆石症などでは手術などの治療が必要となることもあります。

膵臓の病気では心窩部~左上腹部・背部に痛みを感じる方が多いです。飲酒や脂肪分の多い食事をした数時間後に痛みや吐き気などを認めた場合は、「膵炎」などの可能性があります。そのような症状があるときは、医療機関で診察を受けることをお勧めします。

ほかにも、「急性虫垂炎」の初期は心窩部が痛むことがあり、時間とともに徐々に右下腹部が痛くなることが特徴です。

消化器の病気以外でも、心窩部の痛み~左肩痛では「狭心症」や「心筋梗塞」などの可能性もあります。圧迫感や嘔気(おうき)、冷や汗、歯痛なども伴う場合は、すぐに病院へ行きましょう。

そのほか、血管系の疾患や気管支・呼吸器系の疾患、胆道系疾患や悪性疾患など挙げればきりがないのですが、薬を内服しても改善しない場合は、自己判断をせずに病院で検査を受けることがやはり一番大事だと思います。

胃の健康を守るためにできること

食生活では、アルコールやカフェイン、刺激物(香辛料の強いものなど)、塩分の摂(と)りすぎを避け、胃に負担をかけないようにしましょう。また日常生活の心がけとして、タバコの吸いすぎを控えること、ストレスをため込まないこと、規則正しい生活を送ることなども挙げられます。

現在は、「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」と胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどさまざまな病気の関係も指摘されています。ピロリ菌の除菌をする治療では新しい薬も出てきており、積極的にお勧めしています。

また、早期の胃がんであれば内視鏡手術で摘出できるので、日常生活に影響をほとんど及ぼすことなく治療ができます。病気の早期発見・早期治療のためには、1~2年に1回は胃カメラの検査を受けることが大切です。

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取材協力: 大川原華織(オオカワラ・カオリ)

内科医。En女医会所属。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。