【レポート】

博報堂・赤点パパ社員の悩みをじっくり聞いてきた - 田中俊之の職場訪問

仕事が忙しいイメージのある広告業界。そこで働くパパ社員たちは、どのように子育てに関わっているのだろうか。そして、どのような悩みを抱えているのだろうか。

今回は、男性のつらさについて研究する「男性学」の第一人者、武蔵大学の田中俊之 助教が、広告業界の雄・博報堂を訪問。仕事と子育ての両立に向けたアクションを提案している同社のワーキンググループ「パパハックション」のメンバー3人と、「パパのお悩み」について語りあってもらった。

左から、大崎涼介さん、田中俊之 助教、尾崎徳行さん、山崎雅信さん

若手社員に育児はハード!?

田中: 広告会社って、すごくお忙しいと思うのですが、みなさんは、子どもと接する時間、とれていますか。


大崎: 子どもたちのために、土日は絶対に確保したいと思って仕事をしています。ただ、どこでも仕事ができる職種なので、家で考えごとをしてしまうことはありますね。仕事場と家のつなぎ目が、あいまいになっているのが最近の悩みです。家で仕事モードになっていると、かもし出している空気が違うのか、子どもが泣き出したりして……。


大崎涼介さん(29)
3歳児、1歳児のパパ。マーケティング関連の仕事をしている。来年4月の保育園入園に向けて保活中。妻は育児休業中で5月から復職予定。新入社員研修の頃に長男がうまれたため、入社当初からパパ社員。
田中: すごく分かります。私は今、なるべく仕事から早く帰ってきて、子どもをお風呂に入れて、そのあと家で仕事をするという生活をしているのですが、最近妻に「外で仕事をしてきて」と言われてしまうんですね。

家にいても"仕事モード"になっているので、例えば妻に何か頼まれた時に「今仕事をしてるんだから無理」などと、きつい言葉で返答してしまっているらしく……。私の存在は、"受験勉強をしている高校生"と一緒だと思うんです。「邪魔しないで」という空気を出す人が家庭の中にいると、みんな困ってしまうんだろうなと。


大崎: 「パパはお仕事モードなんだよ」と言って、子どもが聞いてくれないわけではないのですが、やはり家にいると「絵を描いたんだよ、見て」とか、「パパ、遊ぼう」ってなってしまいますものね。


田中俊之さん: 武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。自身も0歳児の子どもを持つ育児中のパパ。単著に『男性学の新展』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか! 』、共著に『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』などがある

田中: 他の方はどうですか。


山崎: 最初は妻とうまく家事・育児の分担ができなかったのですが、最近は慣れてきました。うちの会社は入社4年目以降、裁量労働制になるので、自分で仕事のハンドリングができるようになると、うまく時間を作れます。

ですので、例えば「子どもが熱を出した」と保育園から連絡が来た場合でも、昼間の数時間をうまく使って家で面倒を見て、帰宅した妻に引き渡したあと、仕事を再開するということも可能です。


山崎雅信さん(41)
4歳の男の子のパパで職種はプロモーション企画。妻は国家公務員で、典型的なバリキャリ共働き世帯。子どもの保育園では、延長保育も利用している。小学校入学を前に、「小1の壁」が心配。
田中: いろんなお父さんに話を聞いていると、晩婚のお父さんの方が、自分がある程度キャリアを積んでいる分、部下や職場を管理し、仕事をコントロールできるので、融通がきくようですね。大崎さんは、結婚、早かったですか?


大崎: 25歳で結婚しました。


田中: 生物学的には、その年代で結婚して子どもを育て始めるのが、ちょうどいいかもしれないですが、キャリア的には矛盾がうまれますよね。子育ての時間も大事だけれど、まだ上司から命令を受ける立場であり、一生懸命働きたい時期だと思うのですが、そのあたりの矛盾ってやっぱりありますか。


大崎: 働かなきゃいけないし、上から指示を受ける立場なので、仕事をコントロールしづらいというのはありますね。


尾崎: 僕らがしている仕事って、ルーティンワークというよりも、アイデアを生み出す仕事なので、「最後まで粘る」というワークスタイルになりがちです。仕事は楽しいし、モチベーションを持ってやっているので、趣味的にのめり込んでしまう部分もありますね。

若い時期は特に、自分に実力をつけたいとか、いい仕事をしたいという思いが強かったなと思います。


尾崎徳行さん(45)
「パパハックション」リーダーで、中学3年生の男の子、中学1年生の女の子、小学2・4年生の男の子、あわせて4人の子のパパ。静岡県・三島から新幹線通勤しながら、企業や商品の統合コミュニケーションを考えるプランナーとして働く。妻は専業主婦。「9時出社、5時退社」が最近のテーマで、実現するためはどうすればいいか、悪戦苦闘している。
山崎: 私は37歳で子どもがうまれたのですが、自分自身を振り返ってみても、大崎君くらいの時が一番働いていましたね。そして、30歳前後の年齢になると、権限もある程度与えられて、仕事が楽しくなってくると思うので、その頃に子どもがいたら、今の育児のやり方はできなかったかもしれません。今はある程度、自分で判断できる裁量が大きくなっているので、救われている部分がありますね。


大崎: みなさんがおっしゃる通り、もちろん葛藤はあります。しかし子どもがいることで、仕事に対する効率化の意識は高まったと感じます。時間をかければかけるほど、仕事のクオリティーは上がるかもしれませんが、例えば「今回の仕事では、このマーケティングのスキルを身につけよう」と、目的意識をしっかりと持って仕事に取り組むようになってきたと思います。


田中: 捨てられるものは、捨てたということですよね。


大崎: 最近は「この仕事は今は出来ません」とプライオリティを明確にできるようになってきましたね。


早く帰りたいと思っても……

帰宅時間の悩みについて話す尾崎さん

田中: 尾崎さんは「9時~5時勤務」が最近のテーマなんですね。


尾崎: そうなのですが、スケジュールが不規則なので、家に帰るタイミングが難しいなと思っています。基本的に妻の意識としては、「お父さんが帰ってこない方が楽」だと思っている部分があるのですよね。

もちろん土日や朝の時間は家族との時間を大切にしているのですが、平日はどうしても、子どもが起きている時間に帰れることがあまりにも少ないのが現状です。

そうすると、夜の時間は「お母さんと子ども」で生活のリズムが出来上がっているんですよ。例えば、上の子2人が習い事で夜いない日に、軽い食事で済ませようと思った時、僕が珍しく早く帰って来ると、夕食の準備など、妻にとっては想定外の余計な手間が増えるんですよね。

だから早く帰れる時は、あらかじめ伝えておかないと、「えっ、早く帰ってくるのかぁ……」というリアクションをされてしまって……(笑)。


田中: 子どもとお母さんで、家の中の生活が完成していると、ルールもあるし、部外者みたいになってしまいますよね。


尾崎: 部外者というか、異分子が入ってくるのでバランスが崩れるという感じですね。規則的に夜一緒にいることができれば良いのですが、どうしても不規則になってしまうのが悩みのタネです。


田中: 大崎さんの奥さんは育休中ということですが、同じような経験はありますか?


大崎: 21時前後には帰って来ないでと言われますね(笑)。ちょうど子どもを寝かしつけている時間に僕が帰宅すると、子どもが遊びたがってしまうので。


尾崎: 18時とか19時に帰宅できれば、お風呂に入れたり一緒にご飯を食べたりできていいのですが……。例えば少なくとも週2日、早く帰れる日が定まっていればいいのになと思います。


田中: 定時でいつも帰れて、たまに帰るのが遅い、というリズムだったら、家族の輪に入っていけるということですよね。


左から、尾崎さんの話に耳を傾ける大崎さん、田中先生

周りに親戚も知り合いもいない子育ての大変さ

田中: 尾崎さんは、なぜ住む場所として、静岡県の三島を選んだのですか。


尾崎: 転勤生活の経験が大きかったと思います。三島に住む前は、神戸に住んでいたことがありました。当時は子どもが2人だったのですが、神戸には身寄りが全くないので、完全に家族4人の生活だったんですね。

僕は若かったこともあって、極度に仕事中心の生活だったので、当時はだいぶ奥さんに負担をかけてしまいました。その後東京に戻り、人生最大の買い物である家を購入するタイミングで、あらためて生活を再設計しようと思いました。そこで、もともと伊豆が好きだったこともあり、実家のある三島(正確には長泉という町なのですが)に住むことを選びました。


田中: 核家族で、親戚も知り合いもいない中で子育てをするというのは、本当に大変ですよね。東京は地方出身者が集まっているので、転勤がなくても、近所に知り合いもいなければ親もいないという、同様の状況で苦労しているご家庭は多いと思います。


尾崎: そうですね。東京に戻る前のタイミングで3人目がうまれたのですが、その時はとても手が回らなくて、僕と妻のお母さんたちに、静岡と島根から入れ替わり立ち代わりで、神戸へ手伝いに来てもらっていました。


田中: 僕らの親世代は専業主婦が多いから、できることですよね。もし子どもの祖母にあたる世代がフルタイムで定年まで働いていたら、その援助はもらえないわけで。そうなってくると、僕らの下の世代は、別の方法を模索しないといけないですよね。


山崎: 私の場合は反対に、職住近接にすることで、フルタイムの共働き生活がうまく進むと考えています。職場の近くに住むことで、移動時間が短くなり、子どもと過ごす時間が増やせるので、できるだけ都心よりに住むことを重視して家を選んでいます。共働きのダブルインカムだからこそなじむ方法だと思いますし、夫婦の働き方によって、どこに住むのがいいのかというのは変わってきそうですね。


衝突の経験が、家事・育児分担のバランスを作る

子育て方針で妻と衝突しがちなことが悩みだという山崎さん

田中: 山崎さんの、最近のお悩みは?


山崎: 目下の悩みは、子どもを人間としてどう育てるか、ということですね。最近夫婦間では、しつけについてのケンカが増えています。例えば、子どもが食べ物を投げつけたとき、僕は強く怒ってしまうのですが、妻はその様子を見て「そんなに厳しく怒らなくても」と眉をひそめていたり、スーパーに置いてある試食、僕は子どもに食べさせてもいいと思っているのですが、妻から「勝手にあげないで」と指摘されたりします。そうやって衝突してしまうことが、けっこう悩みです。


田中: 衝突はありますよね。でも衝突があるというのは、ポジティブな悩みではないでしょうか。大事な話でも面倒だから、話し合いを回避している夫婦もいる中で、ぶつかり合っているということは、話し合っているということでもあります。

世間の家族のイメージって明るすぎますよね。お父さんが子育てに主体的に関わったら、悩みや衝突があるに決まっています。ではどうするのかというのが、次のステージで、まずやってみて、どういうことが問題なのか、明らかにしていくという過程が大事なのだと思います。


山崎: 子どもが2歳になるまでは、分担のバランスがうまく取れず、いろいろと壁にぶち当たりました。でも、その過程がないと、今のペースはつかめなかったかもしれないと思います。「この一線を踏み越えるとケンカになる」というお互いのバランスは、トライ&エラーを経て、少しずつ分かるようになりました。

今は例えば、息子を連れて2人だけで1日先に実家に帰省して、妻が東京で1人でいられる時間を作ったり、土日の習い事の送り迎えは、水泳が自分、知育系が妻、と分担したりできるようになりました。ロボット掃除機も食器洗浄器も、自分から購入を提案しました。


田中: 一緒にいない時間を作るって大事ですよね。家族が常に一緒にいることは、実はストレスだと思います。家族の問題は、外に開かないと解決できないことが多いですよね。


尾崎: 家族に常時接続しているとイライラすることもあるし、そこを一旦切ってあげるのは、夫の役割かもしれないですね。僕も、妻がママ友どうしの飲み会がある時には、どんどん送り出しています。


山崎: 逆にパパ友の飲み会があると、子どものことなので、妻は気持ちよく送り出してくれますよ(笑)。


ワークライフバランス、どう考える?

関西転勤の経験を機に、仕事を最優先にする生活に対して疑問を持つようになったという尾崎さん

尾崎: 関西時代は、超赤点パパだったと思います。今でも赤点ですが……。でも、関西での経験を機に、徐々に仕事を最優先にすることに対して、疑問を持つようになりました。まずは自分の生活をどう設計するか、その上で、子育てと仕事のバランスをとっていく……。"ワークライフバランス"ではなく"ライフバランス"を常に更新し続けるという視点が、子育てには大切だと思います。

今、私の役割は、こういった反省や失敗した経験を、新しいパパたちに伝えることだと思っています。事前にしくじりポイントが分かっているだけでも、大きく違いますよね(笑)。


田中: ママだったらママ友がいて、知識を共有しあって助け合っている部分がありますが、男性は少ないですものね。


尾崎: パパだってできないことだらけだし、悩んでいるっていうことを伝えたいですね。自分も子どもと過ごす時間だけの生活をしたいと思うことはありますが、やっぱり役割として働かないといけない。


田中: 30代~40代の男の人で心配されるのって「無職」の人ですよね。そして次に心配されるのは「定時で帰って土日も休んで育休を取るお父さん」になっているのではないかと思うんです。お父さんが一生懸命働いてくれると、周りが安心するという風潮すらある気がしています。

専業主婦向けの市民講座で講師をしたときに「夫の良い所と悪い所を挙げてください」というワークショップをやったのですが、良い所として「馬車馬のように働くこと」って書いてあったことがありました。

家庭の稼ぎが全てお父さんにかかっている状況だと、お父さんに一番してほしいことが、仕事になってしまう。日本の場合は、女性がキャリアを積める環境が、まだまだ整っていないし、男女で賃金格差があるので、そうなってしまうのだと思います。男性の生き方は、学校を卒業した後、定年までフルタイムで働くことがマストになってしまっています。その"マスト"は変えたいですね。


尾崎: 笑っちゃいけない笑い話ですね。パパも家事や育児が、もっと生活の真ん中にある暮らしができれば、素敵ですよね。


田中: 仕事の優先順位が高い日本では、難しいことかもしれませんが、「仕事はあくまでも生活の一部」という発想があったほうが、楽しいのではないかと感じましたね。


尾崎: 本当にそう思います。博報堂のフィロソフィーに"生活者発想"というものがあるのですが、ちゃんと"生活をする"ことが、僕らの仕事だったりするんですよね。子どもができる前より、後の方がずっと仕事の幅が広がりました。


田中: クライアントにも女性や時短勤務の人が増えているでしょうし、共感できるレベルは変わりますよね。60歳、65歳まで働く、という長いスパンで見た時に、若い方がそういう感覚を身に付けておくということは、長期的にメリットがあると思います。ぜひここから、情報発信し続けていただきたいですね。


博報堂さんが自慢したい、パパ向け子育て支援制度

【育児休業】
男性社員でも女性社員でも、最長で子が満2歳となった次の4月末日まで取得可能。育休中から復職後まで、キャリアカウンセラーや人事担当者との面談の機会が充実していて、最大8回実施される。また復職後には、「ワークとライフの情報共有」のため、所属長と人事を交えた三者共有面談も。
【ホームヘルパー制度】
ホームヘルパーを常時雇用していて、男性社員でも女性社員でも、安価で家事のサポートをお願いすることが可能。出産後や育児中、介護中社員の需要も多い。
【在宅併用勤務制度】
「小1の壁」を解消する目的で導入した制度。男性社員でも女性社員でも、小学生の子を持つ社員は、申請すれば、家にPC等、会社と同様の環境を設置し、子どものお迎えをした後、仕事の続きに取り掛かることができる。

『パパハックション』: 自らを”赤点パパ”と名乗りながらも、お父さんの育児を「理想」から「行動」に変えるための活動をしているワーキンググループ。”家族の日”である2015年11月15日から、博報堂の「こそだて家族研究所」に所属する男性メンバーが始めたもので、パパの仕事と子育てを両立するための具体的な行動アイデアや実践ネタを「HACKTION」と命名。教科書的でない育児の”ティップス”をウェブページ上で紹介している

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