長野県北東にある小布施町。千曲川の東に位置するため、舟運が発達した江戸時代には交通と経済の要衝として栄え、人・物・情報が集まる文化の街として発展していったという。山に囲まれた北信濃の文化の街を歩いてみたい。

小布施町の玄関口である長野電鉄・小布施駅

ローカル線・長野電鉄でのんびりと

北陸新幹線・長野駅で乗り換えて、ローカル線の長野電鉄に揺られて約30分。小布施駅は街のイメージに合わせ、和をモチーフにした建物になっている。カフェや土産店なども併設されていて、ついゆっくりしたくなるが、それは帰りにとっておいて、観光用のパンフレットなどをもらって、街中へ向かおう。ちなみに4月~11月であれば小布施町の名所をぐるりとめぐる「小布施ロマン号」での周遊も可能だ。

4月~11月に利用できる周遊バス「小布施ロマン号」

小布施駅から街の中心部までは徒歩10~15分なので、のんびり歩くのもオススメ。中心部には江戸時代の繁栄をそのまま残し、現代にいたる街並みが広がっている。通りの両側には歴史を感じさせる建物が並んで風情がある。そして、足元にも注目してほしい。栗の木片が歩道に埋め込まれ、石畳ならぬ「栗の木畳」の散策路となっている。

風情ある小布施の中心部。銀行なども景観に配慮した建物

石畳ならぬ栗の木畳がまちの雰囲気を盛り上げる

葛飾北斎ゆかりの街で北斎画を味わう

さて、小布施と言えば葛飾北斎ゆかりの街としても有名だ。江戸時代の儒学者・浮世絵師である高井鴻山がこの地で暮らしており、北斎は鴻山のもとを度々訪れている。驚くのは、北斎が小布施の鴻山を初めて訪問したのが、なんと83歳の時だということ。年齢を重ねてもエネルギッシュで創作意欲が旺盛な北斎のために、鴻山は自宅に「碧い軒(へきいけん)」というアトリエを建てて厚遇し、北斎に入門したそうだ。北斎はこの時、1年余りも鴻山邸に滞在したというのも有名なエピソード。

北斎は小布施の地でも作品を生み出し続けたため、この町では北斎作品を鑑賞することができる。「北斎館」では北斎が小布施で描いた肉筆画、画稿、書簡などを展示していて、北斎の世界を堪能できる。圧巻なのは2基の祭屋台。北斎筆の『龍と鳳凰』、男波・女波と称される『怒濤』の二枚の天井絵があり、長野県宝にも指定されている。

●information
北斎館
住所: 長野県上高井郡小布施町大字小布施485
アクセス: 小布施駅から徒歩約12分

できるなら岩松院にも足を延ばしてみたい。北斎は四度目の小布施来訪(この時89歳だったとか)で本堂の天井絵を完成させた。本堂大間の天井を飾るのが「八方睨み鳳凰図」。21畳敷きの天井いっぱいに翼を広げた鳳凰の画は迫力だ。

岩松院付近はいかにも北信濃という山の風景が広がる

●information
曹洞宗梅洞山 岩松院
住所: 長野県上高井郡小布施町雁田604
アクセス: 小布施駅から徒歩約30分

時間があれば浄光寺にも。応永15(1408)年に建立された薬師堂は、室町初期の代表的建築物で国重要文化財に指定されている。由緒ある寺では、新たなスポーツが楽しめる会場となっている。近年注目されているスラックライン、幅2・5~5cmの帯の上でジャンプやポーズを競う競技。屋外だけではなく、屋内施設も自由に使えるため、地元の子供たちが一生懸命に練習している。

浄光寺の敷地内にあるスラックラインパーク。屋内施設なら天候に左右されずに楽しめる

●information
真言宗豊山派 浄光寺
住所: 長野県上高井郡小布施町雁田676
アクセス: 小布施駅から徒歩約25分

世界から注目される図書館で憩う

そして、小布施町で注目を集めている「まちとしょテラソ」にはぜひ行ってみたい。ここはトリップアドバイザーの「死ぬまでに行ってみたい 世界の図書館 15」にも選ばれた図書館で、文化度の高い小布施町ならでは個性的な図書館。公共施設のイメージとは異なるオシャレで開放的な空間。しかも、おしゃべりも飲食もOK。とてもオープンな図書館なので、旅人も本を借りなくても、ふらりと入って蔵書のページをめくってみるのもいい。

図書館らしくないオープンスペースの図書館「まちとしょテラソ」

「まちとしょテラソ」は外観も内部もとてもオシャレ

●information
まちとしょテラソ
住所: 長野県上高井郡小布施町小布施1491-2
アクセス: 小布施駅から徒歩約1分

オープンと言えば、小布施は花のまちづくりにも力を入れていて、町内約130の町民宅で庭を開放している。それぞれ工夫を凝らして丹精込めて育てた花や木でいっぱいの庭を歩いて回るのも楽しい。

小布施町内約130軒が参加している「オープンガーデン」。素敵な庭をぜひ見せてもらおう

名産の栗を使ったスイーツで小休止

小布施の名産と言えば、やはり栗。水はけのいい扇状地という地形と特徴ある酸性の土壌、そして北信濃の気候がおいしい栗を育て、江戸時代から「小布施栗」は将軍への献上品だったとか。今でも、栗かの子や栗羊羹、栗おこわは年代を問わず人気が高い。

お土産品もいいけれど、地元では他ではあまり食べられないスイーツに出会うことができる。栗菓子の名店・桜井甘精堂が経営する「カフェ茶蔵」は気軽にオリジナルスイーツを楽しめる。茶蔵限定の「モンブランソフトクリーム」(税込350円)はソフトクリームに独自の栗ペーストがかけられ、まさにモンブランの風味で美味。また、たっぷりのクリームと栗が挟まれたふわふわの「栗のシフォンケーキ」(税込180円)も至福の味。ほかにも栗のスイーツや食事ができる店がたくさんあるので、お気に入りを見つけられるはず。

茶蔵限定の「モンブランソフトクリーム」(税込350円)

茶蔵限定の「栗のシフォンケーキ」(税込180円)

●information
カフェ茶蔵
住所: 長野県上高井郡小布施町小布施779
アクセス: 小布施駅から徒歩約5分

江戸時代から文化的なまちとして栄え、現代の感覚を加味しながら、ますます魅力を増していく小布施町。ふと時間が空いた時に出掛けてみてほしい。

筆者プロフィール: 茶木環

ライター・エッセイスト。鉄道・観光・地域活性化をテーマに取材・執筆活動を続ける。日本ペンクラブ広報委員。日本鉄道賞表彰選考委員。