プログラミング教育への関心が世界的に高まる中、シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」の存在感が増している。このほど、Raspberry Pi Foundation(財団)の創設者であるエベン・アプトン氏が来日し、発売から約5年が経過した「ラズパイ」の足跡を振り返った。

Raspberry Pi Foundationの創設者であるエベン・アプトン氏

アプトン氏が財団を設立したのは2008年。当時英国ケンブリッジ大学で教壇に経っていた同氏はコンピューターサイエンスを学ぶ学生が減っていて、学生のスキルも低下していることに気づき、そのことに危機感を覚えたという。「90年代の中頃まではアセンブリ言語でプログラミングできる学生がごろごろいた。しかし、2000年代に入ってHTMLでWebページを作ったことがある、という程度の学生ばかりになってしまっていた」(アプトン氏)。

アプトン氏はその理由を「1980年代はMSXとかX68000などのマシンを使って、子どもたちが実際にプログラミングを行うことができていた。90年代にこうしたマシンが市場から無くなってしまった」と分析し、コンピューター教育に対する懸念が開発の背景にあったと説明した。

同氏らは1)すぐにプログラミングできること、2)わくわくするような面白いものであること、3)壊れにくいこと、4)安価であることを念頭にラズパイを開発。「親が子供に買い与えやすい教科書レベルの値段、または学校が助成金を出せるレベルのコストを目指した」(アプトン氏)。

最初の製品を発表したのは2011年5月。当初は数カ月かけて1万台を販売する予定だったが、その後RSコンポーネンツと製造・販売契約を結んだことにより、10万台を初日に販売するなど、市場からは当初の見込みを大幅に上回る反響を得た。以来、ラズパイは全世界で1100万台以上を販売、日本でも毎月1万台ペースで売られている。

教育向けに開発されたラズパイだが、その易さと汎用性の高さから産業界でも適用が進んでいる。例えば、2016年10月にはNECとの提携を発表し、2017年1月から出荷されるNECの新しい大型ディスプレイにRaspberry Pi 3 Compute Moduleを組み込めるようにすることがアナウスされた。「もとも子供向けのおもちゃとして開発したが、産業ユーザーが組み込みソリューションに適用した。ラズパイは非常にパワフルで、コスト効率もよく、RSコンポーネンツなどの協力もあって大量の数を短期間で提供できる」(アプトン氏)。

ラズパイには産業界も注目

ラズパイはこれまで英国で生産を行ってきたが、2016年11月からは日本で生産されたRaspberry Pi 3 Model Bの販売が始まっており、アプトン氏は「ローコストの製品を先進国でも作れるという非常によい事例だ」とコメント。また、日本での面白いラズパイ活用法としてキュウリ農家の小池誠氏の取り組みを紹介。キュウリは形やサイズなどに応じて仕分けられるが、その仕分け作業が生産者の負担となっている。小池氏は、GoogleのTensorFlowとラズパイを活用して機械学習システムを構築し、実家のキュウリ農家でこの仕分け作業を自動化した。

ラズパイを使えばキュウリの自動仕分けも実現する