Googleの決済プラットフォームである「Android Pay」が、国内でもスタートした。海外ではNFC Type-A/Bを使い、クレジットカードを登録して非接触決済を行うプラットフォームだが、国内ではFeliCaを採用したことで、海外のAndroid Payとは互換性のないサービスとなった。これはAppleの「Apple Pay」と同様の施策である。本稿では、このAndroid Payの狙いについて考察してみよう。

Android Payが日本でもスタート

Android Payのそもそもの仕組みは、おおむねApple Payと変わらない。クレジットカードをスマートフォンに登録して、レジの決済端末にタッチすると支払いが行えるというものだ。日本ではFeliCaを使った先行サービス、「おサイフケータイ」がある。おサイフケータイとの違いは、非接触ICにNFC Type-A/Bを使うという点だ。

さらに、Apple Payやおサイフケータイはクレジットカード情報を保存する領域として、端末のSE(Secure Element)を利用するのに対し、Android Payはインターネット経由でSEと同様の仕組みを提供するHCE(Host Card Emulation)を採用している。

HCEはハードウェアに依存せずにサービスを提供できるというメリットはあるが、Android Payの場合、EdyやSuicaのようにあらかじめ電子マネー化して支払うプリペイド型のサービスに対応できていなかった。さらに、日本ではFeliCaを使った非接触決済が普及しており、NFC Type-A/B対応の決済端末がほとんど存在しないため、従来のAndroid Payは利用できる場所がほとんどなかった。

こうした問題を解決するために、Android Pay日本版ではSEを搭載するFeliCaに対応させた。つまり、日本版のAndroid Payは、「おサイフケータイプラットフォームを利用するアプリケーションの1つ」ということになる。

最初に対応したのは楽天Edyで、当面は電子マネーサービスにしか対応しないようだ。海外のAndroid Payでは、サービス登録時に「クレジットカードまたはデビットカードを追加」という項目が表示されるが、日本版では「電子マネーを追加」と表示され、クレジットカード利用を想定していないように見える。

電子マネーを追加できる

現時点で登録できるのは楽天Edyのみ

登録時に表示される規約

FeliCaの搭載されていないスマートフォンの場合、海外と同じインタフェースになる。ただし、国内発行のクレジットカードは登録できない

Googleによれば、対応する電子マネーは今後も増える予定で、現時点でApple Payに非対応となっているWAON、nanacoといった主要電子マネーは対応していくとみられる。また、三菱東京UFJ銀行、VISA、MasterCardなどの企業との協力で、アプリからのAndroid Payチェックアウトなどのサービスも予定しているという。この文面から察するに、やはりクレジットカードでの非接触決済は想定していないようだ。

これまでおサイフケータイで利用できたEdyなどの電子マネーサービスがAndroid Payに対応したとしても、これまでおサイフケータイサービスを使っていた人にとってはほとんど意味がない。従来通り、それぞれのサービスのアプリを使って決済を利用すればいい。

すなわち、今回のAndroid Payのターゲットは「今までおサイフケータイを使っていない人」なのだ。従来のおサイフケータイの場合は、アプリをダウンロードして設定を行う必要があった。Android Payの場合、Android Payアプリ自体のダウンロードは必要だが、そこからカードを追加すればEdy番号が発行され、利用可能になる。現時点では、Android Payで新規にEdyを作成すると400円分がチャージされるためすぐに使い始められる。

追加されたEdy。すでにおサイフケータイで楽天Edyが登録されていたため、その情報が読み込まれた

チャージしたところ。すでに楽天Edyアプリがインストールされ、Edy番号が発行されている場合、同じEdy番号がAndroid Pay側にも読み込まれる。EdyアプリとAndroid Payと情報は同期されているので、どちらも同じ情報

楽天Edyアプリについてはダウンロードの必要はなく、Android Pay上からチャージや履歴の確認もできる。オートチャージや機種変更時の電子マネーの移行など、一部機能は省かれており、楽天側ではライトユーザー向けという見解を示す。

Android Payから簡単にEdyを使い始められて、便利に感じたらEdyアプリをダウンロードしてもらう、という流れを想定しているということで、Android Payをユーザー拡大の「入口」にしたい考えだ。

これはNTTドコモも同様の考えで、Android Payはおサイフケータイの利用者増に繋がるとの期待を寄せる。国内のおサイフケータイユーザーはなかなか普及が進まないというのが現状だが、Android Payで簡単に電子マネーを試せるようになることで、ユーザーの拡大を狙う。

Android Payでは、店舗の会員カードやギフトカードを登録することもできる。使えるかどうかは店舗次第だろうが、カードを持ち歩かなくても会員証をスマートフォンで提出する、といったことが可能になる

Google側にとってのメリットは、「クレジットカード情報の獲得」というのが1つあるだろう。Edyへのチャージは店頭のチャージ機でも行えるが、Android Payアプリからクレジットカードを使ってチャージすることもできる。クレジットカードはGoogleアカウントに登録され、Edyチャージ以外にも、Google Payでのアプリ購入などでも利用できる。

チャージのためにクレジットカードを登録して利用してもらい、さらにほかのGoogleサービスでもクレジットカードが使えるようになることで、消費が拡大する――という目算はありそうだ。Android Payの機能の1つにアプリ内支払い(Android Payチェックアウト)があり、クレジットカードの登録と利用の拡大は、Googleとしてもメリットがある。

海外のAndroid Payと同様にクレジットカードを登録しての決済ができるかどうかについては、Googleの思惑がいまいちつかめない。カード追加のUIが用意されていない点、Apple Payにも参加したiDのドコモも現時点では対応を予定していないなど、当面はクレジットカードを登録することはできなさそう。ただ、Googleはクレジットカード決済の拡大は求めているはずで、Android Payチェックアウトでのクレジットカード対応から、順次非接触決済への拡大を図る考えはあるだろう。

日本では、おサイフケータイ対応のスマートフォンでiDやQUICPayなどクレジットカードを使った非接触決済は可能だった。iD/NFCやMasterCardコンタクトレスなどを使えば、海外のNFC Type-A/B対応決済端末で非接触決済を行うこともできた。現状でも、こうしたサービスを使えば「クレジットカードを使って国内・海外でスマートフォンの非接触決済」は可能だ。そのため、Android Payのクレジットカード対応は、ユーザーにとってみればApple Payほどの必要性はない。

いずれにしても、現状の日本版のAndroid Payはおサイフケータイの1アプリケーションに過ぎず、機能としては限定的。今後のサービス展開で、どういった拡張を見せるか、期待したい。