契約結婚の夫婦を描いたTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、「逃げ恥」)。主題歌に合わせて踊る「恋ダンス」が各所で流行するなど、いま最も注目を集めている作品の1つだ。そんなドラマを縁の下で支えているのが、さまざまな小道具を始めとした美術セット。今回は、「逃げ恥」に美術協力した建材メーカー・ノダに、空間を作る建材へのこだわりを聞いてみた。

第6話の"あの旅館"の床に込められたこだわりとは

"あの旅館"の床は国産ヒノキ

今回話を聞いたのは、建材メーカーであるノダの宣伝企画担当・河村信孝さんである。

――よろしくお願いします。早速ですが、「逃げ恥」に提供した建材を教えてください
「逃げ恥」には、2つのセットで美術協力をさせていただきました。第6話で津崎平匡(星野源さん)と森山みくり(新垣結衣さん)が旅行で訪れた温泉旅館の床材と、津崎の同僚である風見涼太(大谷亮平さん)の部屋の床材と建具です。

――第6話の温泉旅館と言うと、放送後に問い合わせが殺到したというあの旅館ですね……!
誤解のないように言っておくと、実際の旅館の客室にはこの床材は使われていませんからね(笑)。今回の撮影のために用意したものです。

――なるほど。どのような床材なのですか?
「Jシルキー」というシリーズで、旅館では「ミディアム色」を使っています。シルクのようになめらかでツヤがある表面加工が特徴ですね。

「Jシルキー」シリーズの床材(筆者撮影)

ですが、一番の特徴は国産のヒノキを使用しているという点です。日本国内にある自社工場で加工するため、輸入木材のように為替変動や国際情勢の影響を受けません。なので安定供給が可能です。

さらには、蓄積量が増加している伐採適齢期の木を切り、その分次世代に引き継ぐための植林をすることで、森林の健全育成にも役立っているんですよ。森林資源を十分に利用することで、森林の整備ができるわけです。CO2の削減にもつながりますし、林野庁も国産材の活用を推進していますね。

――いきなり壮大な話に! いいことづくしの床材なんですね
そうですね。日本の人工林で切られた丸太が、日本の工場で床材になって出てくる。そういう工場は日本ではほとんどないと思います。

和室にも合うフローリング

――話を少しスケールダウンさせて、温泉旅館を見てみようと思います。和風の旅館にフローリングの床材という組み合わせは珍しいですね
そうですね。どちらかというと洋風な色合いなんですけど、和室で使っていただいていて、違和感もないですね。汎用(はんよう)性が高いデザインの床材なので、あまり床が主張しないのがいいのかもしれません。

和風のインテリアにも調和するフローリング

――ここで津崎とみくりが過ごしたかと思うとドキドキします。実際にこの床材が使われた旅館やホテルはあるのでしょうか
「Jシルキー」は新しいシリーズなのでまだないようなのですが、弊社床材を使っていただいているところはあります。そういえば、そこも和風の旅館ですね。

――和室×フローリングの組み合わせはモダンですてきですね! 今度旅館に泊まる時はフローリングの部屋があるところにします

風見宅の玄関は"冷たくて硬い"?

――さて、次は風見の部屋についてお聞きしたいのですが……。資料を見ると、提供した建材が多いようですね
そうですね。まず玄関の収納に、床材。リビングの階段と、また別の床材、キッチンの収納と床材に加えて、寝室の引き戸と床材も提供しています。

――御社が床材のスペシャリストだということが分かりました
恐縮です。

――まずは玄関に使われている建材について教えてください
床材から説明しますと、「リアラハード 石目調 ホワイト」という新商品を使っています。表面は、石目の柄を施した化粧シートを基材の上に貼り付けています。

風見宅の玄関。白い床と玄関収納がおしゃれ

――これ、石ではないのですね!?
言われないと気づかないかもしれません。

――真っ白な床はあまり生活感が出ませんよね
そうですね。冷たくて硬そうな雰囲気はあります。部屋全体をこの床にするのは勇気がいるかもしれません。風見の部屋でもポイント使いをしているみたいですね。玄関に加えて、キッチンにもこの床材を使用しています。

シンプルで快適な暮らし方

――キッチンと玄関は同じ床材なのですね。写真を見ると、寝室とリビングの床は黒っぽいですが、同じ色に見えます
はい。寝室とリビングも同じ床材です。「ネクシオハード チェスナット柄 ブラック色」ですね。「リアラハード」と同じ、表面が化粧シートの床材で、このシリーズの中では最も濃い色です。

風見の部屋は、白と黒の2色を使い分けているんですよね。私が見た限り、家具もそんなに多くの色は使っていませんし、シンプルで快適な感じがします。

シンプルで快適そうな風見の部屋は、白と黒をベースにコーディネートされている

――なるほど。なんとなく風見のキャラに合っているような……。玄関収納もおもしろい形をしていますね
床材と階段以外は全て「ルシーボ」というモノトーンのシリーズなんですが、この玄関収納は、ユニットを組み立てて使うものなんですよ。なので、使い方によって形は変わります。風見宅の玄関の場合は、縦長のユニットと、天袋のユニット、サイド収納のユニットの3つを組み合わせていますね。

――各ユニットに共通する特徴はありますか?
ユニット同士で組み合わせがしやすい形なのはもちろんなのですが、"鏡面仕上げ"というツヤが出る塗装を施してあり、高級感があります。あと、取っ手がないんですよね。押すと戸が開く方式になっています。できるだけシンプルな見た目に仕上がっていますね。

同社のショールームで筆者が撮影した、風見宅にあるものと同じタイプの収納ユニット

優しく閉まる寝室の扉

――ありがとうございます。寝室の引き戸はどうでしょう。大きい引き戸ですね
大きいですね。ガラスを埋め込んだデザインで、なんとなく隣の部屋の雰囲気がわかるようになっています。

動きで言うと、"クローザ"という機能がどの扉にも標準搭載されています。強く扉を閉めても、ブレーキがかかってゆっくりと扉が閉まっていくんですよ。あるいは、ちょっと力が足りなくても、その機構が扉をつかまえて閉めてくれます。

――地味にとても便利な機能ですね……! 風見の部屋はそっけないようで実は思いやりにあふれているのかも

"クローザ"で優しくしまる引き戸

階段の存在感が見逃せない

――そして、リビングの階段ですが……。存在感がすごいですよね。風見の部屋の雰囲気を決定づけているような気がします
この部屋で一番目を引くのはこの階段なんじゃないですかね。下がオープンになっている仕様なので、開放的な雰囲気になっています。デザイン性も高くてスッキリしていますよね。白い桁と黒い踏み板の組み合わせで、都会的な感じがします。

リビングは階段の存在感が抜群だ

あとは、壁側にも手すりをつけられるんですが……。

――風見の部屋では壁側の手すりはないんですね
そうですね。安全性を考えるとつけた方がいいのですが、健康な男性の一人暮らしならそこまで問題はないでしょう。それに、手すりをつけた分せまくなってしまうという面もあります。

2階からの様子。確かに、壁側にも手すりをつけると手狭に感じるかも?

風見という人が見えてくる

――こうして風見の部屋を見ていると、なんとなくライフスタイルや性格も見えてくるような気がしますね
玄関の壁には自転車がかけてありますし、階段を上がったところにはトレーニング用の本格的な器具も置いてあります。あと、キッチンと寝室の間に中庭もあるのですが、バーベキューの道具がたくさん置いてあったりもしますね。

室内に観葉植物もありますし、スポーツや自然に親しむ爽やか系、といった印象を受けますよね。自己管理もしっかりしているんだろうなぁ。

キッチンから。手入れの行き届いた空間だ

――風見についての理解も深まったところで、より一層ドラマを楽しめそうな気がしてきました。ありがとうございました!


風見の部屋に使われた建材へのこだわりを聞き出していくうちに、筆者の中で風見涼太という人物への興味がどんどん大きくなってしまった。その部屋を見ているだけで、なんとなく住んでいる人が想像できるような気がする。

もちろん今回紹介した部屋は撮影用のセットだが、現実でもこんな人はいそうだ。そしてモテそうだ。大いに参考にしていきたい。

今回取材に協力していただいたノダのショールームでは、実際にドラマに使われた建材を見ることもできる。興味のある人は公式サイトでチェックしてみよう。

写真: 福田栄美子