【レポート】

IoTは実用レベルに - 「2016 TRONSHOW TRON Symposium」発表会から

トロンフォーラム事務局は2016年12月8日、東京ミッドタウンホールで開催する「2016 TRONSHOW TRON Symposium」の記者発表会を、東京大学ダイワユビキタス学術研究館で開催した。「2016 TRONSHOW TRON Symposium」の会期は2016年12月14日からの3日間だ。

TRON(トロン)プロジェクトリーダー/東京大学教授/トロンフォーラム会長/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長の坂村健氏は、同イベントが1986年の初開催から33回を数える今回を、「IoTは実用レベルに達した記念すべき年」と表現した。

IoT動く

2016 TRONSHOWのテーマは「IoT動く」である。研究レベルから実用に推移し、昨今の世界的ブームを踏まえて坂村氏は先の言葉を発した。IoT技術を推進させる理念として「オープン」が重要と語りつつ、今回のイベントで行われる各セッションの内容を矢継ぎ早に説明した。それらの中から、興味深いセッションをいくつか紹介しよう。

近著「オープンIoT 考え方と実践」を手にする坂村健氏

「Technical Activities: IEEE Future Directions and TRON」では、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)のMember of Technology Advisory Group, OVP Venture Partnersを勤めるStephen D. Dukes氏が登壇。現在もしくは将来的に取り上げるIoTやスマートシティといった活動について紹介する。坂村氏は、IEEEとオープンデータの仕様をすり合わせている関係から、今回のイベントでもIEEE Consumer Electronics Societyが技術協賛として参加していると述べた。

「インバウンド4000万人に向けた文化情報発信のあり方」では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、文化・芸術活動情報を国内外に発信するためのポータルサイト「文化情報プラットフォーム」の構築について話される。

坂村氏によれば、IOC(国際オリンピック委員会)との取り決めとして、4年間のうちに20万件の文化情報の発信を約束しているという。5万件/年という数字を実現するには、「地方で行われる小規模な活動まで発信しないと追いつかない」(坂村氏)ため、この問題について議論するとした。

14日開催のセッション「Technical Activities: IEEE Future Directions and TRON」

16日開催のセッション「インバウンド4000万人に向けた文化情報発信のあり方」

「東洋大学情報連携学部 INIAD」は、坂村氏が2017年4月から東洋大学の新学部長に就任(東京大学定年退職に伴う)。新設する情報連携学部では、エンジニアリング、デザイン、ビジネス、シビルシステムという4つの学問分野を扱い、その取り組みについて角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員 遠藤諭氏と対談。「コンピューターをベースにあらゆる学問の形が変わっていくが、既存の学部では対応が難しい。(INIADでは)社会人の再教育も含め、プログラムの重要性を語る」(坂村氏)。

16日開催のセッション「東洋大学情報連携学部 INIAD」

「INIAD HUB-1」と名付けられた新設のイメージ図。赤羽台で2017年に開校予定

他のセッションは「2016 TRONSHOW TRON Symposium」の公式サイトをご覧いただくとして、2016年のTRONについて坂村氏が振り返ったトピックを紹介しよう。

まず、TRON系OSの最新シェアは61%に達した。「スマートフォンはiOSやAndroidだが、電波制御部分にはT-Kernelを搭載している。これはリアルタイム性が求められるから」(坂村氏)。坂村氏はJAXAの小惑星探査機「はやぶさ」にもTRONが採用された例を引用しつつ、「Windowsで『はやぶさ』は飛ばない」と会場を盛り上げた。

組み込みデバイスにおけるTRON系OSのシェア

また、T-Kernelのソフトウェア利用契約を結ぶ組織の所属国数も、2015年の78カ国から83カ国に増加。登録後の無償ダウンロード件数は、2015年の10,635組織から11,393組織に増えている。これはT-Kernelを無償提供している部分が大きい。

「最近ではアフリカでの利用が増えている。大きな理由は携帯電話のコモディティ化。先進国の携帯電話は高価であり、日本はすでにフィーチャーフォン自体をやめようしている。だが、アフリカは『話すだけでよい』といった需要があるため、1台数千円レベルのデバイスを開発するために、T-Kernelが使われている」(坂村氏)。

セキュアなT-Kernelを実現する「TRON Safe Kernel」に対する説明も行われた。社会で広く使われるOSは安全でなければならない。だが、「第三者認証機関に頼むと数億円の費用がかかり、中小企業の負担につながる。これをトロンフォーラムが受け持つことで、参加の間口を広げる」(坂村氏)という。具体的には、IEC61508 SIL3がOSに要求する機能を満たすため、第三者認証機関によるプロダクト認証を取得し、T-License下で2017年公開を目指す。

技術プラットフォーム分野では、日欧共同プロジェクト「CPaaS.io(City Platform as a Service: integrated and open)」について語られた。このプロジェクトは、国立研究開発法人 情報通信研究機構の委託研究として、欧州と日本が連携した公共ビッグデータの利活用と研究開発を目的としている。日本側の研究分担者としては、日本マイクロソフトなども名を連ね、札幌市と横須賀市の間で連携する実証実験を行い、スマートシティプラットフォームの実現を狙う。同様の取り組みは本誌でも紹介した「札幌観光オープンデータ」などで実証済みだ。

15日開催のセッション「日本と欧州のコラボレーション」

さらに、「OPaaS.io("Omotenashi" Platform as a Service integrated and open)」を活用した「おもてなしプラットフォーム」として、海外から来た観光客の利便性にフォーカスしたアプリケーション開発プラットフォームの構築も発表。

「ユーザー属性情報をセキュアに一元管理するサービス『PDS(Personal Data Store)』 と、利用者属性情報の提供先を管理する『VRM(Vendor Relationship Management)』を組み合わせて、快適に過ごすことが目標。ベンダーが個人情報を収集するのではなく、必要に応じて個人が提供する形に変えないとトラブルは解決しない。(PDSは)この流れを断ち切る存在」(坂村氏)。

「おもてなしプラットフォーム」のイメージ図。利用者は個人情報をプラットフォームに委任し、必要な情報だけを提供する

14日開催のセッション「2020年に向けた社会全体のICT化推進:Part 2」と16日開催の「IoTおもてなしクラウド」で語られる

2017年には66歳を迎える坂村氏だが、これまでと変わらず精力的に活動し、コンピューターやITと我々の生活を結びつけている。坂村氏の活動に興味を持たれた読者諸氏は、事前登録で無料入場できる2016 TRONSHOWを訪れてはいかがだろうか。

ICカードに個人情報を紐付け、選択した言語で作品の内容を確認できる「デジタルサイネージ」。Microsoft AzureやAzure Translatorを利用している

作品の前で手をかざすと作品の内容や被写体周辺の映像を映し出す「インタラクティブ写真展示」

作品が撮影された場所を紹介する「ココシルARカメラ」

阿久津良和(Cactus)

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