2016年に入って一段と動きが加速している日本の空港民営化だが、とりわけ"大物"である福岡空港と、新千歳空港を軸とする北海道7空港一括の民営化プロセスが佳境を迎えている。今回は、現状の焦点となる課題と今後の事業者選定のあり方について考察してみたい。

北と南の大空港を舞台に、今起こっていることとは

個々の事情で方針が分かれる民営化要件

以前の考察でも述べたように、福岡と北海道の空港民営化が他空港と事情が異なるのは、現在空港ビルを運営している会社が引き続き民営化後の経営母体になろうとしている点だ。

本来、コンセッションによる空港民営化は上下一体化による空港運航施設等の運営と空港ビル運営をひとつにすることで空港全体の運営を"ビジネス"として明確にし、"官製"の硬直的な経営を、"運営権"という大きな対価を支払ってまでも事業に参画しようとする新たな民間事業者(コンセッショネア)による新たな経営手法によって生き返らせようとするものだ。もちろん、空港建設・改修に伴う国家予算からの投下コストをより確実に回収する、という財政意図は大きくある。

この観点から言えば、昔から空港ビルを運営してきた会社が新しい経営権者になることで、本来の事業活性化がなされることを期待するのは難しい。コストをテナントに転化するというビル運営を長年続け、既存の価値や手法に浸かってきた事業者が、革新的な視点・手法でコンセッションを機に経営を劇的に変化させることができる、とは考えにくいからである。

2016年は北と南で「地元と密接に連携した経営のあり方が必要」という論調が急に沸き起こった感があるが、これまで民営化された関西空港・伊丹空港や仙台空港の現状を見ると、新運営権者と地元自治体・経済界・旧事業会社とは十分良好な関係を保って運営されている。「地元企業が空港事業を行った方が円滑な運営ができる」ということの論拠は情緒的であり、むしろ、新しい血・発想・リスクテイクなどを阻害するというマイナス面の懸念が残る方に目がいってしまう。

ただ現実を見ると、北にも南にも"地元連合"なるものが組成されつつあり、空港会社から自治体資本を抜き取って"非3セク化"した上で運営権取得商戦に先行しよう、という動きが活発になっている。

福岡空港には厚い地元大手企業の"壁"

福岡空港の運営権に興味を示す企業は多く、福岡県や九経蓮が主催するセミナーは毎回50以上の企業・団体の参加であふれている。では、福岡空港の経営権争奪戦が熾烈な競争になるかというと、現時点でそれを予想する向きは少ない。なぜなら、福岡空港は地元連合に選んでもらえるかが勝負、という趨勢(すうせい)になりつつあるからだ。福岡空港ビルディング(FAB)は、福岡県・福岡市がそれぞれ14%を保有して売る同社株式の買い取り価格を決定し、年明けの自治体以外の株主による新会社設立にむけて着々と準備が進められている。

福岡空港の現在の主役は福岡空港ビルディング(FAB)だが、その影には七社会グループの存在がある

なぜ福岡空港では地元連合の影響力が強いと思われているのか。それは、新会社の主体が単にFABという空港会社ではなく、七社会グループ(九州電力、福岡銀行、西部ガス、西日本鉄道、西日本シティ銀行、九電工、九州旅客鉄道)、いわば福岡経済界の主要企業と認識されているからだ。つまり、仮にこれらに逆らって空港事業を獲得したとしても、本業の事業活動においてこれら地元大企業と衝突する方が、空港経営参画で得るものよりも大きいと判断する企業が多いと思われるからだ。

確かに建設・不動産・小売り・金融などにおいては、地元有力企業と角突き合わせたままでやっていくことは困難な側面がある。それを苦にしない企業があるとすれば、それは九州への土着度が低いことを意味し、福岡空港を運営するに最適という地元の評価を得ることは難しいということになる。

このような背景から、選ばれた"外部参入組"が地元連合からどれだけの権限(特別目的会社(SPC)の保有シェア)を与えられるかが、当面の業界関心事にならざるを得ないだろう。現時点では地元連合のシェアは51~60%程度になるというのが通説だが、これは運営権対価(空港ビル株式購入額を含む)の総額がどこまで膨らむか、それを地元連合でどこまで負担し切れるかとの兼ね合いで、まだこの範囲では数字は流動的と考えるのが妥当な見方であろう。

いずれにしても、地元連合が主体になるという前提での話が多く、すでに福岡空港の大勢は決した感も漂う。また、欧州やアジアの空港オペレーターをコンソーシアムに組み入れ、彼らの空港経営ノウハウや手法を活用しようという動きもあるようだ。

しかし実情はもう少し奥が深い。地元連合に選ばれなかった企業が本当に福岡空港の経営に意欲を持つのであれば、いずれかのコンソーシアムが地元とも最終的には協力関係を築くことを前提に、強い空港経営への意欲から最終盤で地元連合に対抗した競合提案を行うことは十分あり得る。むしろそれは、地元が受け入れてくれることを目的とした提案よりも事業運営の高度化、多様化を施した内容を盛り込むことができ、地元の関与の仕方についても改めて議論が巻き起こることも期待できるという側面もあることから、帰趨(きすう)には最後まで目を離せない。

他方、2020年春の新経営権者への移行を目指す新千歳空港を軸とした北海道内の7空港は、より複雑な様相を呈している。民営化の対象は国管理の新千歳、函館、釧路、稚内、道が管理する女満別、地元市が管理する帯広、旭川の合計7空港である。続いては、これら北の空港民営化の現状について考察していく。