一般的に住まいの取得の際には数千万円のローンを借り入れると思います。考えたら普通の一般人がそれほどの借金をするわけですので、かなりの大仕事です。

ファイナンシャルプランナーとしては、「必ず生涯収支表(ライフプランニング表)を作成し、考えられるリスクにどう対処するかを検討してから、住まいの取得にスタートしてください」となるのですが、作るのに労力もかかり、実際作ってみるまではそのことが実感できないため、実行できるのはごくわずかの方々です。生涯収支表は実際に作ってみると、びっくりするくらい本当にいろいろなことがわかるのです。

住宅ローンが支払えなくなるケース

簡単に言えばローンを支払えなくなる要因は次の3つです。どれも誰にでも普通に起こり得るものばかりだと思いませんか?

【1】収入の減少

・ボーナスが減少または無くなって、ボーナス返済が不可能に
・会社が倒産または不景気で給与が減少
・転職、起業等で収入が減少
・妻が妊娠・子育て等で退職を余儀なくされた
・フルタイムで共働きの予定の妻が、子どもの体が弱い等で働けなくなった
・定年になったが、思うようによい再就職先がない
・病気やケガで収入が減少、またはゼロになった

【2】支出の増加

・利率が上昇し、毎月の返済額が増加した
・病気やケガで医療費がかかる
・起業して、創業準備にお金がかかる
・子供が公立高校受験に失敗して私立に入学

【3】資産価値の低下

・転職などで別の地域に移転するため売却を試みるも、思うように売れない
・中古物件になり、費用かが低下し、売却価格がローン残高を下回る
・災害等で地域のイメージがダウン、資産価値が低下
・災害で資産価値が減少、またはゼロになった(この場合ローンは残ります)
・南側に大きな建物が建ち、日照や眺望が悪くなり、資産価値が低下

住宅ローン破綻する人の特徴

■想像力の欠如

上記のような誰にでも起こりうることを自分に当てはめてみるには想像力が必要です。現在日本は、まれなる低金利であることは誰でも理解しています。当然金利はいつか上がる可能性があります。それなのに現在の低金利を恒久のもののように考え、変動金利で目いっぱい借り入れてしまうと、当然金利上昇時には支払えるキャパを超えてしまうのは当然です。

■計画性の欠如

結婚したらいずれマイホームが欲しくなるのが普通です。そのためにコツコツ貯金をして頭金をプールするのが当然で、それができない要因が住まいの取得後も当然続いていくと思われます。また実力以上の物件を取得してしまったりするのも計画性のなさを示しています。

■目先のことしか目が行かない

想像力や計画性と関連しますが、目先のことしか見えていないケースは意外に多いのです。以前の住宅金融公庫(住宅金融支援機構の前身)の融資の利率は11年目から上昇する仕組みがありました。借り入れる時から当然そのことはわかっていて、毎月の返済額がいくらに上昇するかは当初から明確になっています。それにも関わらず11年目になって返済額が上昇すると返済できなくなるケースがかなりあったそうです。日頃相談業務をしていても、その傾向を感じます。

■状況の変化にも、生活レベルを変えられない

事例として、バブル期、一部上場の会社の部長職、住宅ローンを目いっぱい借り入れたが、そのまま好景気が続けば、返済には全く心配ない状況です。しかしバブルが破綻し、収入が激減しました。このときに、子供を公立中学に転校させる、妻が働く、生活を切り詰める等の対策をすれば乗り切れたのに、それができず、退職金目当てに中小企業に転職し、結局マンションも売却し、子供も転校を余儀なくされたケースを読んだことがあります。すばやい対応が被害を少なくできるのです。

住宅ローンを借りる前に考えておかなければならないこと

■最低1年間生活費をプール

頭金を確保した残りが少ないなら、家具等は既存のものを使い、入居後も一定の生活費(ローン返済日を含む1~2年分)を確保できるまで、徹底節約に努めてください。

■頭金を20%確保

住まいの取得を思い立ったら短期決戦で徹底節約をして、頭金を少しでも多くする工夫をしてください。目の前にマイホームというご褒美があるので、最も節約しやすい期間です。住宅金融支援機構の担当者の話によると、返済に窮して返済方法の相談に訪れたケースは、頭金2割を確保した人は少ないそうです。頭金20%はかなり的を射た数値のようです。

■ボーナス返済は利用しない

ボーナスは本来不定所得です。転職すれば当初のボーナスはありませんし、不景気になれば額も減ります。返済はもちろん、生活費もボーナスはないものとして考えた方が無難です。わが家では端数(一桁の万円)を自由に使ってあとはすべて貯金していました。1万円の時もあれば9万円の時もありますが、何に使うかはかなり楽しみなものです。

■定年までに完済する

ローンは長く組んでも、コツコツ貯蓄して繰り上げ返済等で、定年までに完済すると老後破たんのリスクも少なくなります。

人生何があるかわからないのが常です。住宅ローンが払えなくなるケースが自分に起きた場合はどう対処するかは事前に考えておく必要があります。そのためには生涯収支表を作成し、自分の弱い年代などを発見し、早くから対処を心がけましょう。自分の収入がいくらまで減少しても大丈夫か、金利がどの程度まで上昇しても支払えるか、支出がどのくらい増えても大丈夫かなどがわかれば、不足部分は早くから準備すれば対処が可能なのです。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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