ネットワークや物流の発展により、自社が取り扱う製品の適正量を推し量り、過剰在庫を持たない、というのが近年の1つの商流となっており、半導体商社も例外ではない。「在庫は"罪子"」という言葉もあるが、逆に在庫を持つ、ということを信念にビジネスを拡大してきたのがカナダの半導体商社Future Electronicsだ。なぜ同社は他社よりも多い在庫を有していながらも成長を続けてこれたのか、日本法人であるフューチャーエレクトロニクスの代表取締役を務める徳永郁子氏に話を聞いた。

1968年、カナダで創業されたFuture Electronicsは現在、49カ国169拠点を有し、カナダモントリオール、英国ロンドン、シンガポールの3都市に地域本社を、米メンフィス、独ライプチヒ、シンガポールの3都市に物流拠点を有するグローバルディストリビュータへと成長した。プライベートカンパニーであるため、売上高は非公開だが、米国業界紙TOP Distributors 2016によれば、半導体・電子部品商社としては、売上高は50億ドルを超えており、Avnet、Arrow、WPGに次ぐ世界第4位のポジションにあるという。

グローバルで在庫を流通させることで、在庫を負債ではなく、戦略的資産として活用することを可能としたのがFIRSTの存在。そしてBIMと呼ぶ、顧客の代わりに在庫をストックするサービス

そんな同社最大の特徴が、世界最大規模の半導体在庫を有しているという点。その数、実に10億点以上におよび、全世界で必要とする3~4カ月分に相当するという(標準品の場合)。これは同社が顧客のために在庫を持つという無償プログラム「BIM(Bonded Inventory Management)」によるところが大きい。なぜ、ここまで在庫を持つようになったのかというと、同プログラム開始以前、同社が、自社と顧客との取引の中において、どの程度の前倒しや延期などの納期変更が起こっているのかについて調査をしてみたところ、実に半年でおよそ5000回ほど行われており、相手との連絡に要する労力などを含めたコストは1回あたり時間単価で12ドルと試算され、その総額と時間を考えれば、持っていた方が得になるという判断に至ったという。

多くの半導体商社は在庫は負債となるが、それを逆手にFutureが倉庫を無料で顧客のもののように提供するBIMプログラムにより、世界中のすぐに商品が欲しい、というニーズに対応できるようになったという

ただ、単に在庫を持っていれば良い、というわけではない。同社は効率よく3拠点の在庫状況や、発注度合いなどを一括してみることができる単一ITシステム「FIRST」を導入。これにより、グローバルで在庫を展開でき、不良在庫化を最小限に抑えることを可能とした。

こうしたやり方を可能としたのが創業者Robert Miller氏の、自分の信じたやり方をやり通すという信念だ。同氏は、どこかを買収したとしても、Futureのやり方にこだわるため、他社を買収したとしても100%の融合は無理なので、買う意味がないとし、海外展開においても、どこかその地域の商社を買収するのではなく、1から立ち上げて育てることを選択してきたほどの自前主義の徹底振りを続けてきた。そのため、外資にとって参入障壁の比較的高い日本地域についても、幹部からは買収して橋頭堡を確保したほうが良い、というアイデアもあったものの、買うでのはなく、作る、という選択を行ったほどだという。

その日本法人の設立が1997年。2000年にルミレッズとの独占代理店契約を取り交わして以降、LED照明関係の売り上げが伸び、全世界で見た場合、同社の売り上げは半導体90%、LED照明関係が10%だが、日本では2/3がLED照明関係とのことで、「もっと半導体に関する市場開拓を進めて行きたい」というのが徳永氏の目指すところとなる。

半導体商社としてのもう1つの柱であるLED照明ソリューションビジネス。周辺部材や基板実装品まで幅広い商材を提供することでビジネスを拡大してきた。日本でも早くからLEDの取り扱いを行ってきたこともあり、多くの市場を獲得しているという

現在、日本の顧客は約500社ほどで、少量多品種ながら複数の部品を調達する必要がある産業機器メーカーなどが1社からワンストップで調達すると言ったニーズやEMSの引き合いが強いほか、照明関係としては、商業施設やスーパー、ショッピングモール、インフラ、スポーツ競技場など、大出力が求められる分野が成長を牽引しているという。

中でも「中堅以下の専業産業機器メーカーは、品種が300~400品種程度あるが、個々の部品の購入数が少なく、1次代理店には見向きされないため2次代理店を複数回って在庫を確保している場合が多い。それをフューチャーエレクトロニクスがサプライチェーンから幅広い在庫の手配まで含めて、1次店としてマニュアルなどもまとめてサポートできることを目指している」とするほか、「日本には実は多くのEMSが存在しており、彼らをグローバルでのサプライチェーンとしてサポートすることは、大きなニーズがあると感じている」としており、これらの分野の成長を手助けしていくことで、半導体分野の事業を照明ビジネスと同程度の規模まで育てていきたいとする。

在庫を持つことを悪ではなくフレキシビリティを確保するための手段とする、という他の半導体商社とはまったく異なるアプローチで成長を実現してきたFuture Electronics。日本でも、その信念のもと、顧客も自社も成長につなげる稀有な半導体商社として今後の飛躍を目指す徳永氏は、最後に「いままでは照明で一生懸命だったが、2017年は日本法人設立20周年であり、半導体の年にしたい」と節目の年に向けた抱負を語ってくれた。