SAPは11月8日から10日にかけて、スペイン・バルセロナで技術者向けの年次イベント「SAP TechEd Barcelona 2016」を開催した。会期中、「BusinessObjects」ブランドで展開する分析製品ポートフォリオを強化し、機械学習などを組み込んだことを発表した。さまざまなベンダーが機械学習にフォーカスしているが、SAPの強みは何か? 同社で分析製品のプロダクトマネジメントを務めるJuergen Hagedorn氏に聞いた。

SAP ‎Vice President Product Development SAP Business Objects Division Juergen Hagedorn氏

--BusinessObjects Cloudをローンチしてから1年たつが、これまでの経過をどう見ているか?--

Hagedorn氏: SAPの分析製品はレポーティングにとどまらず、BI、プランニング、予測、機械学習などを網羅している。オンプレミス版「BusinessObjects Enterprise」に加えて、2015年のTechEdではクラウド版「BusinessObjects Cloud」を発表した。

オンプレミスのEnterpriseは歴史も長く、データ視覚化ツールの「Lumira」、ダッシュボード構築の「Design Studio」など、さまざまな機能を持ち、数万のユーザーを抱えている。クラウド版はリリースからわずか1年しかたっていないが好調だ。大きなターゲットはSMBだが、大企業も手軽に始められる点に魅力を感じているようだ。オンプレミスのデータに対してもクラウド版で分析が行えるので、大企業がオンプレミスとクラウドを組み合わせて利用する例も増えている。

--今年のTechEdではクラウド版の強化を発表したが、その詳細を教えてほしい--

Hagedorn氏: まず、機械学習機能を統合した。これにより、機械学習を利用してデータのクレンジングや変換の最適化、抽出やモデル生成など、さまざまなことができる。予測に利用して、プランニングを改善することも可能だ。

例えば、営業の効率化。分析プラットフォームで機械学習を利用することで、営業の成功に影響を与えている要素を識別できる。当社でも利用しており、何が案件成立に影響しているのかを分析して営業活動を改善している。

土台となっているのは2013年に買収したKXENだ。機械学習、スマート分析、予測などの技術を開発する企業で、KXINのアルゴリズムをHANAプラットフォームに再実装した。機械学習はオンプレミス版では提供済みだが、クラウド版では深く統合した。ビジネスユーザーは特別な設定をすることなく、BusinessObjectsのインタフェースからそのまま利用できる。

機械学習の統合に加え、ライブ接続(Live Connectivity)として、S/4 HANAとの接続性を組み込んだ。メタデータ、JavaScript、リバースプロキシなどの技術を使って実現しており、これによりS/4 HANAのライブのデータを利用できるようになった。これまでクラウド版でS/4 HANAのデータを利用する場合、クラウドにS/4 HANAのデータを複製する必要があった。だが、Live Connectivityにより、データはオンプレミスに置いたままクラウドで分析ができるようになる。データの移動がないので、データの安全性においてもメリットがある。

Live ConnectivityはHANAベースのシステムのみをサポートする。論理的には他のシステムもサポートできるが、重たい計算をHANAに回して結果のみをブラウザにあげることがポイントなので、パワフルなバックエンドであるHANAに制限している。

--今年後半から、OracleやSalesforce.comも機械学習を強化している。SAPの強みは?--

Hagedorn氏: 土台のアルゴリズムはどこも大きく変わらず、多くが学術的に公開されている。

われわれが課題と感じているのは、アルゴリズムを誰もが利用できるようにすることだ。機械学習の民主化と言ってもよい。例えば、アルゴリズムを自動設定し、どのアルゴリズムをどのデータに対して適応するかなどを提案する。すると、興味があるビジネスユーザーはアルゴリズムを動かすことができる。実際、このような自動化と提案型で進めた場合でも、データサイエンティストが得る結果とそれほど変わらないことがわかった。

機械学習の民主化はビジネスユーザーにメリットをもたらすだけでなく、データサイエンティストが不足している問題も解決する。データサイエンティストはより複雑で、ビジネスの中核となるような課題に注力できる。

自動化に加えて、機械学習をアプリケーションに統合することも進める。これにより、機能の1つとして意識せずに自然に利用できるようになる。SAPの機械学習はビジネスデータの文脈で利用できる。ビジネスデータはSAPのシステムで生成されており、HANAやBWといったSAPのデータ管理プラットフォームの上にある。その文脈で利用し、それをアプリケーションに統合できる。つまり、ビジネス環境を離れることなく利用できるわけだ――これこそ、SAPならではの価値提案と言える。

--分析の裾野が広がらないと言われて久しいが、SAPはどのようにアプローチするのか? 分析のユースケースに新しいトレンドはあるのか?--

Hagedorn氏: 裾野を広げるという点で、クラウドは素晴らしい手段になっている。ブラウザがあればすぐに利用でき、設定のコストや手間が省けるからだ。

デジタル化によりデータが増えており、これらを分析に活用できる。新たなユースケースとしては、コンシューマーが関連した情報の活用が始まったばかりだ。営業やマーケティングでは、Webを情報ソースとして使い始めた。消費財メーカーなどの企業はマーケティングの精度を改善できることになり、そのインパクトは無限だ。

他の分野のユースケースとしては、IoTとビックデータを挙げたい。物流、生産、機器や資産からのデータを活用してテクニカルな最適化を図るというものだ。これもまだ始まったばかりで、今後コネクテッドカーの誕生など、データを生成するものは増える一方だ。最終的には分析を適用することができる。

--最後に、分析分野における課題や今後の取り組みについて聞かせてほしい--

Hagedorn氏: SAPはオンプレミス版、クラウド版に加え、BusinessObjects Cloudをベースとした「Digital Boardroom」も持つ。これは、経営層向けのソリューションで、経営会議に必要なデータを可視化する。今回これも強化し、Microsoftの「Surface Hub」のサポートを加えた。

「Digital Boardroom」の操作画面

そのほか、データウェアハウス・ソリューションの「BW for HANA」も提供しており、アナリティクスをエンド・ツー・エンドでカバーできる。これは競合との差別化になっている。

今後の取り組みとしては、クラウドとオンプレミスへの取り組みを両輪で進め、BusinessObjects Cloudの強化とオンプレミスへの投資を継続する。また、SDKも強化しており、LumiraとDesign Studioを統合する「Lumira 2.0」も技術プレビューとなった。正式版は2017年4月に出荷を予定している。さらに、今年発表したHANA向けに最適化された新しいデータウェアハウスソリューション「SAP BW/4HANA」も強化していく。