商品化への道のりは?

「私たちはお母さんたちが望んでいる商品を作りたい」と田中さん

――液体ミルクを製造・販売される予定はありますか

一定の検討は進めておりますが、栄養素の確保や色、見た目の変化を抑えるなど、技術的な課題がまだまだあります。

――液体ミルクを作るとしたら、どのような商品になるのでしょうか

まず液体ミルクの容器は、1回で使いきれるサイズが望ましいと思います。例えば1Lの商品を作ってしまうと、開封したあともしばらく使用することになりますよね。

そうすると、"冷蔵庫で●日以内に使い切る"などの注意を守っていただかなければなりません。安全性確保の観点から、小さいサイズで、飲み残しは捨てていただく仕様が望ましいと思います。

――価格についてはいかがですか

粉ミルクより、高くなるとは思います。私たちが調べた範囲ですが、例えばアメリカですと、240mlサイズの液体ミルクが200円くらいで販売されているようです。日本では、これ以上になる可能性があります。

日本の粉ミルク240ml分は80円くらいで、乳児用ミルクだけで1カ月間ミルクをあげた場合は、アメリカの液体ミルクで2万円くらい、日本の粉ミルクで8,000円くらいです。

――日本産の液体ミルクはいつ発売できるようになるでしょうか

まず、新しく乳等省令に液体ミルクの規格を作る必要があります。商品の安全性について、厚生労働省の調査会や、内閣府の食品安全委員会での検討が必要であり、おそらくこの段階で時間がかかると思います。商品化は、規格ができてからですし、消費者庁の「※特別用途食品」の表示許可を得るという手続きも必要です。

そう考えると、数年はかかると思います。赤ちゃんが口にするものなので、きちんとした基準が必要です。

※乳児、幼児、妊産婦、病者等の発育または健康の保持もしくは回復の用に供することが適当な旨を医学的、栄養学的表現で記載し、かつ用途を限定したもの

日本のお母さんたちが最も使いやすいミルクを

――液体ミルク、粉ミルクの利点をどのように感じていらっしゃいますか

水が不要で、粉ミルクのように計量しなくてもよく、そのまま与えられるというのは、液体ミルクの利点だと思います。一方で粉ミルクは、液体ミルクに比べて保存性が高く、コストが低く、また計量できるので作るミルクの量を調整できるのが利点です。

それぞれ利点がありますが、私たちとしては、「日本のお母さんたちが最も使いやすい形」というのを一番大事にしたいです。

日本では、5割のお母さんたちが完全母乳、残りの3割強が母乳と粉ミルクの混合栄養、2割弱の方が完全ミルクです。完全ミルクであれば、液体ミルクは重宝するかもしれません。しかし日常使いにおいて、想定される液体ミルクの仕様を考えると、母乳を与えたあとに少しミルクを足す混合栄養のお母さんたちにとっては、粉ミルクの方が使いやすいと感じるかもしれません。

――それはどういう意味ですか

乳児用ミルクは、赤ちゃんが一度口をつけてしまったら、たとえ余っていても、残りを廃棄するようにお願いしています。細菌が繁殖してしまうからです。

日本で発売される液体ミルクがどのようなものになるかは分かりませんが、衛生面を考えると使いきりのサイズが望ましいと思いますし、かといって小さすぎても不便なので、ある程度の大きさも必要になってくると思います。

そこで例えば、アメリカの製品のような240ml容器の場合、混合栄養のお母さんは、飲み残しをもったいないと思う方がいるかもしれませんね。出産後の入院期間中に、母乳に足す粉ミルクの量は、だいたい40~60ml程度とお聞きしているので、ミルクを余らせてしまう可能性が高いからです。もちろん災害などの緊急時には、液体ミルクが重宝すると思います。

赤ちゃんが安全に育つことを基準にすると、粉ミルク、液体ミルクそれぞれの利点を全て可能にした商品を作るのは難しく、メーカーとしてどういった品ぞろえにしていくのかも考えなければなりません。

1包で100mlの粉ミルクを作ることができるこちらの商品でも、量が多く使いづらいという声があり、2016年10月からはさらに小サイズの50mlのスティックタイプを販売しているという

――日本のお母さんが使いやすい商品を作るために、何を大切にされていきたいですか

母乳栄養を基本に考え、母乳が不足する時などに栄養を与える選択肢としてミルクがあると考えております。また、粉ミルクを使うことで罪悪感を抱えてしまうお母さんもいると感じております。しかし、粉ミルクを使っているからダメなのかというと、そんなことは全くありません。大事なのは、赤ちゃんがすこやかに育つことではないでしょうか。

一般に販売されている粉ミルクだけでなく、体重が2,500g未満だったり、先天性の代謝異常を持っていたり、牛乳アレルギーを持っていたりする赤ちゃん専用の商品もあります。全ての赤ちゃんが、乳児用ミルクによって健康に成長してくれることを願っています。

日本の乳児用ミルクは、かなり研究されて作られていますし、世界的に見ても水準が高いので、安心して使ってほしいです。私たちはミルクをできる限り母乳に近づけるべく、日々研究を重ねておりますし、もし液体ミルクを作るとしても、全てのお母さんが安心して使える商品にしていきたいと考えています。