その写りの良さで多くのユーザーから"タムキュー"の愛称で親しまれ、銘玉の誉れ高いタムロンの90mmマクロレンズ。2016年の2月にリニューアルされて登場した「TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)」は、新たにシフト手ブレ補正を加えたVC(Vibration Compensation、手ブレ補正機構)を搭載した。前モデルは角度ブレ補正のみだったが、新たなVC機構とともに、その写りはどうだろうか。

2016年11月中旬の時点で、キヤノンEFマウント用、ニコンFマウント用、ソニーAマウント用がラインナップされており、大手量販店価格は75,000円程度だ(ポイントバック分を除く)。なお、ソニーAマウント用は、VCを搭載していない(カメラ側に手ブレ補正機能を内蔵していることが大きな理由)。

「EOS 5Ds R」+「TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)」

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質感と使い勝手

タムロンの新SPレンズに共通の金属外装に、高級感のある塗装だ。前モデルまでフォーカスリングの後ろに金の帯があったが、それが無くなってスッキリした印象になった。代わりにマウント近くにシャンパンシルバーのリングが付き、(好き嫌いが分かれそうではあるが)一目で分かるアイデンティティになっている。見た目の質感は高いものの、重さは610gとさほど重くなく、取り回しは楽な部類だろう。

マクロ撮影で重要なフォーカスリングは幅広く、指掛かりも良くてとても回しやすい。AFはさほど速くはないが十分だ。鏡胴にあるAF範囲のスライドスイッチを、0.3m-0.5m、0.5m-∞にすればいくぶん速くなる(AF範囲は3通りで、そのほか「FULL」のポジションがある)。

シフトブレ補正が加わったVCはとても優秀だ。カメラのボディを揺らしてみても、ファインダーでは画角が張り付いたように見えるほど。とはいえ、撮影倍率が上がると、しっかり構えなければブレる。動作は、AF、VCとも静粛だ。また、防塵防滴仕様ともなっており、屋外使用の多いマクロレンズとしては恩恵が非常に大きい。

(作例1)EOS 5Ds R・90mm・1/30秒・f5.6・ISO1600

(作例1)
ファインダーで見ていてもレンズのキレは感じられるが、撮影した写真をカメラのモニターやPCのモニターで表示すると、優れた描写性能であることがよく分かる。キヤノンの「EF100mm F2.8Lマクロ IS USM」と比べても解像力は同等かそれ以上、ボケ味はタムロンのほうが素直でソフトな印象だ。

(作例2)EOS 5Ds R・90mm・1/320秒・f8・ISO3200

(作例2)
合焦部分はあくまでシャープで、ボケアシはなめらか。肉眼で実物を見ても分からなかった質感がリアルに描写されている。

(作例3)EOS 5Ds R・90mm・1/80秒・f2.8・ISO400

(作例4)EOS 5Ds R・90mm・1/250秒・f5.6・ISO1000

(作例3)(作例4)
画面の周辺部も色収差など無くスッキリしていてクリア。逆光時も、ゴースト、フレアはほとんど出ない。

(作例5)EOS 5Ds R・90mm・1/400秒・f8・ISO1000

(作例6)EOS 5Ds R・90mm・1/200秒・f2.8・ISO400

(作例5)(作例6)
無限遠~1mぐらいの描写も優秀。合焦部は非常にシャープでありながら、ボケ味はソフトである。

(作例7)EOS 5Ds R・90mm・1/320秒・f2.8・ISO1000

(作例7)
絞り開放で接写時のボケはさらになめらかで美しく、合焦部はキリリとしている。さすが銘玉の系譜と納得だ。

(作例8)EOS 5Ds R・90mm・1/100秒・f8・ISO800

(作例9)EOS 5Ds R・90mm・1/100秒・f5・ISO2500

(作例8)(作例9)
薄暗いシーンではVCが活躍する。作例は2枚とも手持ち1/100秒で撮っているが、モニター上で100%に拡大してもほとんどブレていない(EOS 5Ds R、約5,060万画素)。さすがに等倍近くでは手持ちは厳しくなるもののが、0.5m以上でしっかりと構えれば、1/50秒でもいけそうだ。

最近はミラーレス機用(APS-C機やマイクロフォーサーズ)のマクロレンズも増えたが、筆者はまだ、描写性能ではフルサイズ一眼レフ対応のマクロレンズに一日の長があると思っている。ボケ味や階調の豊かさを求めるなら、それなりに高性能なレンズを使わなければ表現できない。「TAMRON SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)」は、2016年発売の新しいモデルとはいえ、実勢価格は落ち着いている。カメラメーカー純正も含めた高性能マクロレンズの中では、最高のコストパフォーマンスといえるだろう。