ベルシステム24は11月9日、「CX TECHNOLOGY FORUM 2016 ~『人工知能と共存する』コンタクトセンターテクノロジーの展望~」を東京で開催した。このイベントは、効率的かつ高度な対応を求められるコンタクトセンターにおけるAI活用について考察するもの。

冒頭では、東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任准教授である松尾豊氏が登壇。「人工知能の未来 -ディープラーニングはコンタクトセンタービジネスをどう変えるのか-」と題した講演では、現在に至るまでの人工知能をめぐる動向から、その活用によって企業と消費者のコミュニケーションのあり方がどう変わるのかなど、過去から今後のビジネスにおける変化までを見渡した解説が行われた。

チャット接客の極意を空色 中嶋氏が講演

「人工知能で実現するセールスサイエンス Web接客の新しいカタチ」と題した講演を行ったのは、空色 代表取締役社長の中嶋洋巳氏だ。チャットを活用した接客ソリューション「OK SKY」を提供している同社の視点から、チャットコミュニケーションによる接客の特性や、AI活用の実践について語られた。

空色 代表取締役社長 中嶋洋巳氏

ECサイトの隆盛によってユーザーは自由なショッピング体験を得るとともに、自分で大量の商品の中から選択しなければならなくなっている。比較検討を幅広く行うため、アクセスしたサイトで実際に購買する確率が非常に低くなっていると中嶋氏は指摘する。

「ECサイトのコンバージョンレートは1%程度。広告宣伝費をかけてお客様にサイトへ来訪していただけたとしても、いかに購買していただくか。1%では、費用対効果を高めていく余地がまだまだあるのではないかと考えている」(中嶋氏)

実店舗では20%ある購入率がECサイトでは1%になってしまう。この差を生み出しているのが接客だと考え、店舗的な対応をECに取り込もうという流れがあるが、接客マニュアルなどがきちんと整備されている企業は少ないという。そこで空色では、店舗や電話での接客を細かにヒアリングし、チャット接客のデザインを行う。

「自社で店頭とECサイトで同じような接客をして実験したことがありますが、店頭と同じ接客では購買につながりませんでした。それはノンバーバル・コミュニケーションがないからです。表情などで興味の度合いを判断することがチャットではできません。しかし、残念ながらほとんどのチャット対応を行っている企業では、店頭と同じ接客を行っているようです。弊社ではチャットに特化した接客ノウハウを持つことで、平均10人に接客すれば1~2人に買っていただけるところまで来ています」と語った中嶋氏は、即時対応・複数のお客様に対する同時接客・対応データの解析といったチャット接客のメリットを改めて挙げた上で、そのメリットをより良い形で提供できる自社ソリューションや、効果を出すためのロジックについても紹介した。

チャット接客のメリット

空色では応対効率を高めるためにIBM Watsonを活用しているが「人ならではの文脈の理解や、お客様ごとのトーンの差異を踏まえた接客というものは、まだまだ自動応対やAIではできていません」と中嶋氏。過去500万件実施したチャット応対のデータをIBM Watsonに学習させることで対応を効率化しつつ、接客の品質を下げない方法を抽出しているという。

「どういったものを探しているのかということまでは、自動応対で行えます。つまり、検索の代替手段としてのチャットならばbotでも十分対応できます。しかし、そこから購買をいかに発生させるかが難しいのです」と語った中嶋氏は、最初の検索代替の部分をbotに任せてから人の対応に引き継ぐ形でAIと人の融合を行っていることを紹介した。

AI接客と人の接客を融合させた対応

「人の接客も学習内容に含まれているので、近い未来にはすべての接客が自動応対でできると考えていますが、現状はなかなか1人1人のニーズが異なり、コミュニケーションの取り方の好みもあるので難しい。現在は品質を維持しつつ効率をあげる手法として、自動応対で興味・関心を高めてからクロージングを人が行うという形で融合している」と中嶋氏は語った。

同氏はチャット接客が高度化することによって、働き方が変わることも指摘。女性の結婚・妊娠・出産といったライフステージの変化によって継続的に働くことが難しくなる場合に、在宅対応可能なチャットという場が与えられるのはもちろん、若いイメージを持つアパレルブランド等でスキルはあるが年齢が高くなったために店頭接客を行いづらくなった人の力を活かし続けるためのチャット活用なども語られた。

また、ECサイトでは現物を手にとって購入できないため、失敗したくないという心理から安価な商品しか購入しないという人が多くなる。しかし、空色のソリューションを採用した場合、商品差異の説明などをしっかり行った結果、購買価格が1.5倍程度に伸びているという。

「実物を手にとって購入したいという人は多く、ECサイトでチャット接客を受けてから店頭で購買するという人が3割います。チャット対応時に店舗在庫を把握し、何店に在庫があるのかをお知らせし、いつご来店いただけるのかを確認、その時に指名する担当者などをお知らせすると多くの方が実際に店舗に訪問してくださいます。そこで、店舗スタッフにも接客データをサポートして提供したり、店舗の接客音声を解析するなど、ECサイトだけでなく店舗も横断した接客データの蓄積・解析・提案サポートをできると考えています」と中嶋氏は語った。