沖縄セルラー電話は、IoTを活用した家庭用水耕栽培キット「やさい物語」を2017年2月下旬から発売することを明らかにした。スマートフォンとの連携により、誰でも栽培中の野菜の成長過程を楽しみながら、新鮮な野菜を栽培できる。予約は12月中旬から開始される。価格は3万4,800円だが、最初の5,000台については5,000円引きの2万9,800円で販売される予定だ。なお、販売は同社のECサイト「沖縄特産品本舗」で行われるほか、沖縄地区ではauショップでも販売される。

家庭用水耕栽培キット「やさい物語」

「やさい物語」の本体サイズは幅480×高さ332×奥行き331ミリ。虫が入りにくいようにふたが閉じる反密閉タイプで、サイズ的にはインクジェットプリンターや複合機に近い。デザイン上、複数台を上下にスタックさせることはできないが、ラックやカウンターにのせて使うのにぴったりなサイズだ。

内部にはLEDランプとカメラ(200万画素)が設置され、スマートフォンとはBluetoothやWi-Fiで接続できる水耕栽培キットとなっている。内部にはカメラのほか、水位センサーと温度・湿度系が設置されており、専用アプリを通じて写真を撮影したり、LEDの照度を調節できるほか、水位や気温の異常があった場合はスマートフォンに通知される。なお、水やりなどは自動化されておらず、人力で行う必要がある。

内部のカメラで撮影した写真はアプリから確認したり、クラウドを通じてSNSやウェブサイトなどに公開できる予定。将来的にはタイムラプス撮影も計画されているという

スマートフォンはiOS(iOS 9以上)またはAndroid(Android 4.3以上)に対応する。1台の「やさい物語」を最大5台のスマートフォンで監視したり、逆に複数台の「やさい物語」を1台のスマートフォンからも管理できる

育成する野菜は種をキューブ状のスポンジに埋め込み、本体内部に設置して水と液肥を与える。結球しない品種のレタスの種と液肥、いずれも約3カ月分がスターターキットとして本体に付属しており、追加分やほかの野菜・ハーブ類も本体販売時にはキット販売される見込み。価格は未定だが、概ね1,000円台で販売されるという。

レタスの場合、種を植えてから収穫して食べられるようになるまでにおよそ4週間(28日)かかる。水耕栽培では葉が柔らかくエグみも少なくなるといい、実際試食してみたがサラダなどに適した食べやすい味になっていた

コンシューマ向けのLED水耕栽培セットとして考えた場合、「やさい物語」はIoTとしての機能を付加することで、リモートで現在の状況を確認したり、過去の栽培結果を振り返るなどがしやすい点がユニークだ。日々の生活に新鮮な野菜や緑を取り入れることで潤いをもたらす効果も期待できる。またお子さんのいるご家庭であれば、食育の観点からも一緒に栽培や収穫を楽しめる手軽な機会となるだろう。

なぜキャリアが野菜を販売?

沖縄セルラーはKDDIの子会社として沖縄でauブランドの携帯電話事業を展開する地域会社だ。沖縄県では高いシェアを誇る同社だが、2012年に携帯電話事業以外の展開を行う社内ベンチャー事業を募ったところ、植物工場事業が選ばれた。植物工場についてはIT系企業などが参入して話題になったが、沖縄や周辺の離島では夏場、葉物野菜の90%が他の地域からの輸送に頼っており、非常に高い値段がついてしまう傾向にあるという。そこで夏場でも安定して一定品質を保てる植物工場で葉物野菜を栽培することで、地域にも貢献できると考え、スタートしたという。

約2年かけて事業も軌道に乗り、ノウハウもたまってきたことから、次なる展開として、自社の強みである通信とIoTを組み合わせて個人向けの栽培キットを展開することになったのが今回の「やさい物語」というわけだ。「やさい物語」では、植物の生育を高める波長の光源や実際に育てる種苗の選択などに、野菜工場事業でのノウハウが活かされているとのこと。

今後は蓄積したノウハウを元に地域や島単位で植物工場を運営するためのサポート側に回ることも考えているとのことで、地域密着型企業としての社会貢献としても役立っているという。通信と農業という一見突飛な組み合わせだが、今後の農業や離島生活の向上を考える上では示唆に富んだ取り組みと言えるだろう。