商業施設は「シアトル」さを前面に

ZA001や航空機関連の展示が行われる1階を見下ろすようにして。2階・3階に商業施設を配置する。こちらは入場料はかからない。「通路から機体を見えるような状況を作るので、楽しんでもらいたい」としている。

商業エリア全体の想像図。左手の通路は3階で、その下、主翼下面に入り込むようにして設けられるのが2階 資料:中部国際空港

商業エリアのうち2階部分の想像図。機体を間近に見られる位置に配された、「エンジンをイメージしたペアシート」が見て取れる 資料:中部国際空港

そして、ボーイング社は今でこそイリノイ州シカゴに本社を置いているが、発祥の地はワシントン州シアトルだ。だから今でも「シアトルと言えば、ボーイング」というイメージは濃い。そこで「FLIGHT OF DREAMS」の商業施設には、シアトル発祥のブランドを誘致したいとしている。

まず3階には、シアトルを代表するブランドの飲食店を誘致するほか、シアトル由来などの土産物などを扱う物販を展開する構想になっている。実は、この3階の通路がLCCターミナルや大規模展示施設とつながるので、そちらの利用者も取り込もうというわけだ。

一方、2階には「日本初のオリジナリティあふれるフードコート」を設ける。キッチンは7カ所で、こちらも「シアトル系」を中心にする考え。それだけでなく、飛行機の翼の下で食事をできるようにするとか、航空機のエンジンをイメージしたペアシートを設けるとかいった、独特の演出を行う構想がある。「子供だけでなく、大人も楽しめるものを」という話が、商業施設だけでなく施設全般について強調されていた。

なお、特筆したいのは、アメリカ以外では初めて、常設の「ボーイング・ストア」が入る予定になっていることだ。もちろん、本物の飛行機を売るわけではなくて、ボーイング社にまつわるさまざまな関連商品を扱うお店である。すでにアメリカにはあり、長いこと「いつ日本でオープンするのか」という問い合わせを受けていたそうだが、それがいよいよ実現する運びとなった。

航空機をテーマとする体験型コンテンツが導入

興味深いのは、単に物販施設をそろえるだけでなく、航空機をテーマとする体験型コンテンツの導入を計画しているところだ。

例えば、「航空機を構成するコンポーネント」の大物としてエンジンがある。その場合、エンジンを単に置いておくだけでなく、スクリーンを通じて修理を模擬体験したり、構造・仕組みについて学んだり、といった仕組みができないか、との考えがある。

エンジンに関する展示のイメージ例 資料:中部国際空港

また、最終組立ラインを仮想体験するシアターの構想もある。コンポーネントの空輸に使っている747LCFドリームリフターは相当に巨大な飛行機だが、最終組立ラインがあるエバレット工場(ワシントン州)やチャールストン工場(サウスカロライナ州)もまた、スケールが大きい施設だ。そのスケール感を体験できるものになれば……というわけだ。

787のコンポーネントを中部国際空港から空輸しているのが、747LCFことドリームリフター。747を改造した特大貨物専用輸送機である(筆者撮影)

このほか、VR(仮想現実)を用いた飛行体験やシミュレーターといったものも考えられている。「ボーイング社からもコンテンツを提供していきたい。最終組立ラインのVRツアーをどう実現するかについても協議も始めている。そうした体験が、エバレットやチャールストンの生産ラインで何をしているかを知ることにつながる」(ゲリー氏)

ただ、そういう話になると、やはりその筋の専門家が必要である。そこで登場するのがウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」というわけだ。チームラボはすでに国内外で、体感型アートなどさまざまなコンテンツを扱い、グローバルに多様な活動をしている実績がある。

具体的に、どういう内容のものをどういう形で見せていくかについては、今後の検討と開発にかかっているが、「世界の人にとっても、日本の人にとっても、素晴らしい場所になるようなお手伝いをしたい」(猪子氏)という。技術について学んだり、さまざまな体験をしたりすることで、飛行機のことを楽しく学ぶ場所にしたり、グローバルに飛び立つことへのポジティブな思いを培ったりできればという。

しかも場所は国際空港。日本の玄関となる場所である。そこに、せっかく本物の飛行機を据え付けるのだから、その飛行機が単なる置物になってしまっては面白くない。そこで、「デジタルアートを駆使するなどして、地上に置かれている飛行機が飛んでいるかのような感じを得られるものを」という考えも披露された。

人材育成に向けたトリガーとして

特にアメリカのメーカーにおいて顕著だが、航空宇宙産業を構成する大手メーカーが学齢期の生徒・学生を対象として、科学技術関連の啓蒙活動を行っている事例がある。単なる広報活動や宣伝活動というわけではなく、科学技術、なかんずく航空宇宙分野に関心を持つ若い人を増やして、有為の人材がこの業界に集まるようにしたい、という狙いによるものだ。

ZA001は787の開発を進めている間、ボーイング社で飛行試験機としての任を果たしてきたが、昨年のラストフライトと中部国際空港への里帰り実現により、今後は新しい役割を負うことになる。それは「新しい世代の航空産業のパイオニアを鼓舞して、インスピレーションを与えること」だ。

ラストフライトで中部国際空港に到着、業界恒例の「放水の歓迎」を受けるZA001(筆者撮影)

航空機産業は裾野が広い。クルマを構成する部品の数は3万点と言われるが、それが飛行機だと100万点あるいは300万点とも言われている。当然、その膨大な種類・数のパーツやコンポーネントを製作するメーカーの数も多いし、求められる技術や品質の水準は高い。そして、多数のメーカーから成る巨大なサプライチェーンを構築して切り回すのは、それだけでも大変な仕事だ。そうした一連の過程について知ってもらう機会ができれば、業界にとっても良いことであろう。

先端技術とさまざまなノウハウが詰まったボーイング787の現物、その787が形をなすまでのプロセスや、787を飛ばすための仕事について間近に見る機会ができれば、「自分もこんな機体の開発・製作・運用に関わってみたい」と思う若者が増えるかもしれない。どんな仕事でもそうだが、パッションや使命感を持って取り組むことができれば、それはいい仕事につながる原動力になるのではないだろうか。

もちろん、設置場所は国際空港の一角だから、海外から日本を訪れた人に日本の航空機産業について知ってもらいたい、という思いもこめられている。

ちなみにゲリー社長、「2018年にオープンしたら、自分も家族を連れて見に来たい」と語っていた。