衛星のミッションはどれもユニーク

HTV6に搭載する超小型衛星は計7機。このうち、「AOBA-VeloxIII」(2U)と「TuPOD」(3U)の2機のみ有償枠で、残りの「EGG」(3U)、「ITF-2」(1U)、「STARS-C」(2U)、「FREEDOM」(1U)、「WASEDA-SAT3」(1U)は公募の無償枠だ。各衛星のミッションについて、以下に紹介する。

1. AOBA-VeloxIII(九州工業大学/南洋理工大学)

九州工業大学はこれまで、超小型衛星として「鳳龍」シリーズを開発してきた経験があるが、従来のプロジェクトが研究室主体であったのに対し、今回の「AOBA-VeloxIII」は学部生主体のプロジェクトとして発足したという。

AOBA-VeloxIIIの仕様。PPTはシンガポールの南洋理工大学が開発した

キューブサットながら推進系を搭載。将来、軌道制御が可能になるかも

主なミッションは2つ。ひとつは、電気推進の一種であるパルス型プラズマスラスタ(PPT)の軌道上実証だ。推進剤はテフロンを使用しており、これをプラズマ化して噴射することで推力を得る。比推力は500秒。装置を小型にできるのが特徴で、衛星自体は2Uサイズだが、1Uでも搭載できるという。今回は側面と底面に2基用意した。

もうひとつは、マイコンの放射線耐久試験である。衛星側面の曝露する場所に、3つのマイコンを設置しておき、シングルイベントの発生回数を調べる。このうち2つは、鳳龍で実績のあるH8マイコンで、無体策のものとタングステンシートを貼ったものを比較して効果を見る。残りのひとつは今後の衛星で使用する予定のPICマイコンだ。

九州工業大学の村上弥生氏(プロジェクトマネージャー)

AOBA-VeloxIIIは2Uサイズ。左下に見える開口部がPPTだ

2. TuPOD(有人宇宙システム/Gauss)

「TuPOD」は、イタリアのGauss社が開発した衛星である。内部に、円筒形の子衛星2機を搭載しており、ISSから放出されてから3日後に、軌道上に放出する予定だ。衛星の特徴は、構体が3Dプリンタで作られていること。素材には、ポリアミドとカーボンの複合材である「Windform XT 2.0」が使われているそうだ。

TuPODのミッションは、2機の子衛星を軌道上に放出すること

TuPODと子衛星の仕様。子衛星はどちらも円筒形になっている

子衛星は、米国の「OSNSat」と、ブラジルの「UbatubaSat」。OSNSatのミッションは、省電力で長距離の通信が可能な「LoRa」規格の通信試験である。この衛星の構体も3Dプリンタ製だ。UbatubaSatは、ブラジルの小中学校がキットを使って開発したものとのことで、教育目的の衛星となる。

有人宇宙システムの有賀輝氏

TuPODは3Uサイズ。左側のフタが開き、内部の子衛星を放出する

3. EGG(東京大学/日本大学)

「EGG」は、ガス圧で展開するインフレータブル構造のエアロシェルを搭載した衛星である。軌道上でこれが正常に展開するか実験し、弾道係数の変化による軌道崩壊の様子を観測する。可能であれば、再突入時に通信を試み、飛行データを取得することにもチャレンジするという。

EGGのミッション。6角形のエアロシェルは浮き輪のように膨らむ

ミッションの流れ。GPSによる位置取得や、画像撮影も行う

エアロシェルの直径は80cm。これが空気ブレーキとなり、再突入時の空力加熱を緩和する。今回はどこに落下するか予測できないため、再突入時に燃え尽きるよう設計されているが、将来的には、超小型衛星からのサンプル回収や、火星着陸機への応用などが考えられているそうだ。

また、地上との通信にイリジウム衛星回線を利用するのも大きな特徴だ。通常、地上と通信するには電波の周波数を取得しておく必要があり、この国際調整がかなり大変(アマチュア無線なら自由に使えるものの、これだと商用利用はできない)。イリジウム経由ならば手続きが簡単になり、地上局も用意する必要が無い。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木宏二郎教授

EGGは3Uサイズ。4面の太陽電池パドルも軌道上で展開する

上面の黒い物体がイリジウムアンテナ。GPSアンテナやカメラもある

高度(縦軸)と速度(横軸)のグラフ。高度8~90kmあたりで燃え尽きる

4. ITF-2(筑波大学)

「ITF-2」(結2号)は、H-IIAロケット23号機で打ち上げられた「ITF-1」の後継機。ITF-1はロケットから分離後、残念ながら電波を受信することはできなかったが、1号機をベースに信頼性を向上させ、今回の再挑戦となった。

ITF-2のミッション。コミュニティの構築を目指すという

新しい宇宙の利用方法を提案する。ベンチャーも設立した

ミッションは、衛星からのデータを受信した体験を共有することで、地球規模の交流ネットワークを構築することだという(プロジェクトではこれを「結」ネットワークと呼ぶ)。ITF-2の電波は誰でも受信することが可能で、地デジチューナーとタブレットがあるだけでも受信できるそうだ。

そのほか、工学ミッションとして、展開が不要な小型アンテナや、放射線による誤動作が少ないと言われるFRAM(強誘電体メモリ)を採用したマイコンの軌道上実証も行う予定。

筑波大学システム情報系の亀田敏弘准教授

ITF-2は1Uサイズ。右下に見える基板が展開不要の小型アンテナ

5. STARS-C(静岡大学)

「STARS-C」は、テザー伸展の技術実証衛星である。軌道上で親機・子機に分離し、バネによる分離の勢いでテザーを伸展する。テザーはケブラー製で、子機側に格納。親機側に搭載したリールで張力をうまく調整して、100m程度まで伸展する予定だ。アウトリーチとして、分離した2機の衛星の地上観測にも挑むそうだ。

STARS-Cのミッション。磁気トルカで姿勢を垂直にしてから分離を行う

テザー伸展の仕組み。スプールが抜け、テザーが内側から出て行く

今回のテザー伸展は、宇宙エレベータの基礎研究として実施するもの。そのほか、STARS-Cでは行わないものの、導電性のテザーを利用して、電流を流せばローレンツ力が発生し、デブリの処理等にも応用が期待できる。なおSTARSシリーズの衛星は、過去2機は香川大学の開発であったが、3号機となるSTARS-Cからは静岡大学が開発している。

静岡大学工学部の山極芳樹教授

STARS-Cは2Uサイズ。ちょうど真ん中から親機と子機に分離する

6. FREEDOM(中島田鉄工所/東北大学)

「FREEDOM」は、膜展開式の軌道離脱装置「DOM1500」の実証衛星だ。DOM1500は、軌道上で1辺が1.5mの大きな薄膜を展開することができる。膜を展開すれば大気抵抗が大きくなり、徐々に高度が下がる。衛星を速やかに再突入させられるので、デブリ化を防止する手段として期待されている。

FREEDOMのミッション。膜を展開して1カ月程度で再突入する

FREEDOMの仕様。1Uサイズながら、1.5mもの膜を展開可能だ

2012年に打ち上げられた超小型衛星「RAIKO」には、より小型の装置が搭載されていたのだが、コマンドが通らず、展開させることができなかった。複数ミッションの衛星だと、どうしても膜展開は最後にせざるを得ないため、FREEDOMは膜展開に特化した衛星として開発。通信機能も省略し、放出後30分にタイマーで確実に展開するようにした。

通信機能がないため、展開できたかどうか直接確認することはできないものの、軌道の変化を見ることで推測できる。展開できていれば、1カ月程度で再突入する見込みだ。なおFREEDOMは1Uサイズだが、DOM1500は本来50kg級衛星用とのこと。軌道離脱手段の標準化を促進し、さまざまな衛星への搭載を目指す考え。

中島田鉄工所の宇戸大樹氏

FREEDOMは1Uサイズ。太陽電池は搭載しないシンプルな外観だ

7. WASEDA-SAT3(早稲田大学)

「WASEDA-SAT3」も膜展開を行う。膜は折り紙の「螺旋折り」で格納。この折り方だと、シワが生じにくく、任意の円筒形状に畳むことができるという。また衛星にはプロジェクタも内蔵。マストを伸展して、膜を展開した後で映像を投影し、歪み方から、膜面の形状を把握する。投影画像を撮影するためにカメラも搭載している。

WASEDA-SAT3のミッション。投影画像は公募する予定とのことだ

膜面には太陽電池も貼ってあり、発電能力の強化にも繋がる

そのほか、構体に設置したLCDパネルを使った温度制御も試みる。LCDの色を黒にすれば、太陽光を吸収して温度が上がる。逆に白にすれば、太陽光を反射して温度上昇を抑えられる。このように、LCDの色を調整することで、能動的に温度制御できれば、衛星の熱設計も自由度が増すだろう。

早稲田大学創造理工学部の宮下朋之教授

WASEDA-SAT3は1Uサイズ。手前の面が伸展し、そこから膜が展開する