大人気漫画『ONE PIECE』が日本の伝統演劇・歌舞伎とコラボ!? スーパー歌舞伎II『ワンピース』は歌舞伎界だけではなく、少年漫画ファンや演劇ファン、ネットユーザーからも注目を集めた。現在は、大好評の舞台版を全国の映画館で楽しめる"シネマ歌舞伎"が上映中だ。

主人公・ルフィを演じる市川猿之助を筆頭に数々の歌舞伎役者が出演しているが、実はルフィの兄・エースを演じているのは、俳優の福士誠治。原作屈指の人気キャラクターで二枚目っぷりを発揮した福士に、その役作りや、外部から見た歌舞伎界の印象を聞いた。

福士誠治
1983年6月3日生まれ、神奈川県出身。近年の主な出演作品にドラマNHK木曜時代劇『まんまこと~麻之助裁定帳~』主演、TBS『ハンチョウ5・6』、映画『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦』『利休にたずねよ』等。舞台には『RENT』『真田十勇士』『狂人なおもて往生をとぐ』『ホテル・カルフォリニア』等。また08年には役者仲間と共に演劇ユニット【乱-Run-】を結成。2014年にはスーパー歌舞伎II第一作『空ヲ刻ム者』に出演し、新たな魅力を発揮した。撮影:西田航(WATAROCK)

猿之助さんはあえて原作を読まない

――最初に「ワンピースを歌舞伎で」と聞いた時の感想はいかがでしたか?

「猿之助さん、ついに!!」という感じでしたね(笑)。いつも人を驚かすのが大好きだし、すごい企画だと思いました。もちろん『ONE PIECE』自体も読んでいたので、舞台化、それも歌舞伎、そして自分がエースをやらせていただけるなんてと、いろいろと不思議でした。想像がつきませんでした。

どういう話にするのかも、気になりました。長い作品ですし、初期のナミ、ゾロ、サンジ、ウソップ……とだんだん仲間が増えて行く部分も面白いじゃないですか。脚本を開いたら、すでに仲間が揃っている状態からのエース奪還だったので、「ここをクローズアップするんだ」と意外でした。

――福士さんはもともと原作も読み込まれていたんですね。

でも、実は猿之助さんは『ONE PIECE』を読んでないんです。全部読んでしまうと、漫画ならではの"当たり前"に疑問を持たなくなるとおっしゃるんですよね。例えば、『ONE PIECE』を読んでいたら「悪魔の実」の存在は当たり前。でも猿之助さんは脚本会議で「なんで手が伸びるの?」というところから疑問をぶつけておられました。

だから「この実を食べると能力が身につくんですよ」と説明すると、「みんなに手が伸びる能力が増えるの?」「いやいや、実によって違うんですよ」とさらに説明不足に気づけて。猿之助さんは「俺がこうやってわからないってことは、歌舞伎のファンにもわからないってことだよね」と指摘してくださいました。

――歌舞伎と『ONE PIECE』、なぜこのようにハマったのだと思いますか?

『ONE PIECE』の「誰かのために動く力」というテーマが、歌舞伎的にも熱いのではないかと思います。人と人のつながりで、ルフィのためにみんなが力を貸す、自分のためじゃなく他人のために動く、というテーマが、歌舞伎で発信するのに合っていたのではないでしょうか。

研ぎ澄まされた感覚にいる人たち

――福士さんは俳優として活動されながら、スーパー歌舞伎IIにも何回か参加されていますが、歌舞伎界に驚いたことなどはありましたか?

澤瀉(おもだか)屋※さんって、すごく仲が良いんですよ。歌舞伎って古い、難しいというイメージがあるかもしれませんが、実は演出にしても舞台の最先端をやっているので、イメージをぶち壊されるという体験をした気がします。 ※澤瀉屋の「瀉」の字は正しくはわかんむり

――普通の俳優さんとの違った部分などはあるのでしょうか?

印象深かったのは、みなさんのナチュラルさです。歌舞伎役者さん、あんまりストレッチとかしないので「なんでストレッチをしないんですか?」と聞いたら、「あのね、体力がもったいない」と言われて、ちょっと笑っちゃいました(笑)。上演時間が1回4時間半強あり、1日で10時間以上劇場にいるから、本当に長時間ですよね。でも、それだけ舞台の上にいることがナチュラルな状態なのだなと。

僕らは「舞台だ」と思うと気負って力が入って、怪我につながってしまうことも。でも歌舞伎役者さんたちは、板の上に立つことが当たり前になっている方が多いので、その心持ちでいられるのが、すごいですよね。僕らとは違う研ぎ澄まされた感覚にいる方が多いなと思います。