米ラスベガスで開催されたIBM World of Watson 2016の会場で、Boullaバイスプレジデントに同社のクラウド戦略の基本的な考え方について聞いた。

「我々は、サイズで競争しようとは思っていない。価値で競争しようと考えている」 。IBMのクラウド戦略の基本姿勢について、米IBMのIBM Cloud クラウドストラテジー&ポートフォリオマネジメント担当のDon Boullaバイスプレジデントはこう語る。

顧客がクラウドに求めるのは、「安さ」や「速さ」ではなく、「価値」へと変化していることもその背景にあると同社では位置づける。その「価値」を追求する上で、最大の切り札が「Watson」ということになる。

IBMでは、クラウドに対する顧客ニーズが、「安さ」や「速さ」ではなく、「価値」に変化してきたとしているが、どこでAWSやマイクロソフトと戦うつもりなのか?

米IBMのIBM Cloud クラウドストラテジー&ポートフォリオマネジメント担当 バイスプレジデント Don Boulla氏

Boulla:クラウドビジネスは、プラットフォーム上のサービス(PaaS)において、どんな価値が提供できるのかに尽きると考えている。IBMクラウドプラットフォーム上で最も人気があり、最も使われるサービスが、コグニティブサービスのWatsonだ。そして、クラウドに提供しているアドバンスド・アナリティクスを、これに組み合わせることができるのも大切な要素だ。

コグニティブとアナリティクスによって、新たなインサイトが出てくる。ここに新たな価値が生まれる。Watsonのサービスの多くを可能にしているのはクラウドだ。クラウドのプラットフォームを使ってコグニティブアプリを活用することができ、アナリティクスを軸に、データサービスに近づくというのが基本的な姿勢だ。データがクラウドに上がり、それを活用するには、アナリティクスとコグニティブが重要になる。いわば、データはクラウドの重力ともいえる存在になる。

ヘルスケア分野においていくつかの企業を買収したのも、これによってその分野のデータが手に入り、それをもとにアナリティクスとコグニティブの価値をそのデータに与え、価値を提供することができるようになるからだ。クラウドビジネスは価値の追求であり、人々はその価値を求めている。そこにIBMクラウドの意味がある。我々は、サイズで競争しようとは思っていない。価値で競争しようと考えている。

IBMクラウドが、Watsonに最適なクラウドと位置づける理由はどこにあるのか?

Boulla:データそのものがIBMクラウドのなかにあるということだ。Watsonの能力を活用しやすい環境にある点がひとつ。Watsonを活用したヘルスケアの事例では、患者に喘息の症状が出る前に対策を打てるように、天気のデータを活用するというケースがある。こうしたことが容易に実現できるようになる。もうひとつは、Watsonのサービスそのものが、インフラのレベルや、アルゴリズムの観点からも最適化を図っているという点。この取り組みは、今後も継続的に行っていく。

IBMクラウドは、今後、IaaS、PaaS、SaaSのどの部分に力を注いでいくのか?

Boulla:IBMは、IaaS、PaaS、SaaSのすべてを提供しているクラウドプロバイダだ。これまでそれぞれの領域において、優れたサービスを提供していくことに力を注いできた。水平方向に提供できるサービスだけでなく、業界ごとの機能を捉えたサービスの場合もある。

Watsonヘルスケアは、特定の業界に向けたサービスのひとつだ。金融分野に向けたブロックチェーンのようなサービスもある。もちろん、それぞれの領域での競争はあるが、競争が進むにつれて、それぞれの境界線がぼやけてきたともいえる。そうした背景から、 SoftLayerにもインフラの機能を追加してきた。一方で、SaaSでも、買ってもらえればすぐに使えるものをかなり用意している。すでに、140を超えるSaaSを提供しており、そのなかにはWatsonを活用したものも多い。また、部品のような形でプラットフォームやインフラと組み合わせて、最適なソリューションを組み上げることもできる。