作家・北杜夫の小説を実写化した映画『ぼくのおじさん』(11月3日公開)。小学4年生の雪男と、雪男の家に居候をしている"インテリぼんくら"なおじさんが、日本で、ハワイでユーモラスなやりとりを繰り広げる。

"漫画原作・ベストセラー&大宣伝至上主義"の邦画界とは離れた存在であるこの作品で、愛すべき"おじさん"を演じる松田龍平と、『もらとりあむタマ子』、『味園ユニバース』など、どこかだめな人を愛すべき人に描く山下敦弘監督に、今作についての話を聞いた。

松田龍平
1983年、東京都出身。映画『御法度』(99/大島渚監督)でデビュー。同作で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞をはじめとする新人賞を受賞。2002年『青い春』に主演以降、『まほろ駅前多田便利軒』、『まほろ駅前狂騒曲』(11・14)、『探偵はBARにいる』シリーズ(11・13)、『舟を編む』(13)、『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』(15)、『モヒカン、故郷に帰る』(16)など様々な作品で活躍中。7月『営業部長 吉良奈津子』(16)では、3年ぶりとなる連続ドラマに出演した。

山下敦弘
1976年、愛知県出身。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。1999年、卒業制作作品『どんてん生活』が国内外で高い評価を受ける。2005年、女子高生がバンドを組む音楽映画『リンダ リンダ リンダ』がスマッシュヒット。『天然コケッコー』(07)、『苦役列車』(12)、『もらとりあむタマ子』 (13)、『超能力研究部の3人』 (14)、『味園ユニバース』(15)などヒットを重ねる。

「ダメなおじさん」の説得力

――今回、しっかり者で作文の上手な雪男、そしてインテリで屁理屈を言う居候のおじさん、2人のやりとり、行動が作品の魅力をつくりあげていきますが、おふたりは雪男とおじさん、どちらのタイプが近いと思いますか?

山下:僕は、今となってはおじさんですかね。

――例えば、おじさんのこういうところに共感したとか。

山下:そう思うと、ないですかね。やっぱり雪男かもしれないです(笑)。おじさんは、あまりにも自分にないものばかりですね。

松田:僕はどちらかといったらおじさんかな? 旅行先に着いて早々、迷子になってしまう感じ。何回か経験があります。

山下:財布とか、落としてますよね。

松田:財布も何回か落としてますね。たぶん、おじさんも「最終的にどうにかなる」と思ってるタイプなんじゃないかなと思います。

――それでは、仕事の面では、お互いどのような印象でしたか? 今回が初めてのタッグになるかと思いますが。

山下: 最初は、龍平くんの「おじさん」像を相当作りこまなければいけないと思っていたんですけど、だんだん、おじさんにしか見えなくなってくる感じがありました。今思えば、さすがですよね。失礼ですけど、すごく考えて演じてくれていたのかなって。

『ぼくのおじさん』を映画にするにあたって、ある種の不安やチャレンジみたいな部分について、考えるところは近いんじゃないかと思ったので、同じ感覚で相談できた感じがありました。

――松田さんは実際、いかがでしたか?

松田:撮影に入る前にいろいろ考えて、撮影に入る頃には、一旦考えたことを忘れてから臨みました。ひとつあったのは、おじさんは屁理屈を言うことが多かったから、そこに説得力を持たせられたら、というくらいでしょうか。

――居候のおじさんだけど、哲学者らしいところを見せる、ということでしょうか?

松田:というよりも、おじさんの説得力について考えるところから、キャラクターができてくるという感覚です。おじさんはただの居候だからこそ、それでも周囲に許される術みたいなものを持っていないといけないのかなと。

今回演じたおじさんは、呆れられながらも、なんだかんだうまいことやっているような気がしました。ものごとの元凶はおじさんにあるのに、やりあってしまったお義姉さん(寺島しのぶ)が結局「いいかげんにしなさい」とお兄さん(宮藤官九郎)に怒られるような、うまい立ち回りをしているんですよね。あとは佇まい、歩き方も、今回は意識しましたね。

山下:立ち姿も、独特でしたね。見慣れちゃったけど、たしかに龍平くんの他の作品と全然ちがう立ち方でした。編集していて気付くんですよ。僕の中にもイメージはあったと思うんですけど、時間が経って編集してみると、「龍平くんが勝手にやってくれてたな」ということはありましたね。