日本デザイン振興会は28日、2016年度グッドデザイン賞1,229件の中から選出する「グッドデザイン大賞」(内閣総理大臣賞)を世界地図図法 オーサグラフ世界地図に決定したと発表した。本稿では、同日に行われた記者発表会の模様をお届けする。

グッドデザイン賞は、毎年デザインが優れた物事に贈られる賞であり、日本で唯一の総合的デザイン評価・推奨機構。最も優れたデザインと認められるものに贈られる内閣総理大臣賞は、その年のデザインおよび社会の傾向を象徴する役割を担っているとされ、9月29日に発表された大賞候補6件に対して、本年度のグッドデザイン賞審査委員とグッドデザイン賞受賞者による投票、さらに9月29日から10月23日まで東京・丸の内で開催された「みんなで選ぶグッドデザイン大賞」展会場への来場者による一般投票を実施して、 最多票数を得た作品が決定した。

会場内にはグッドデザイン100をはじめ全ての作品が展示されている

主催者代表の日本デザイン振興会 理事長 大井篤氏は「今回のグッドデザイン賞は近年で最多となる4,085件の審査件数を数え、海外からの応募も多数頂いた。積極的にマスメディアに取り上げてもらい、多くの人に作品を知ってもらうのは苦労して創り上げた人の何よりの励みになる」と和やかに語った。

大賞に選ばれた「オーサグラフ世界地図」は大きさや形の歪みをおさえた正確な地球の全体像を示す四角い世界地図。グリーンランドはオーストラリアよりずっと小さいことや、成田空港からブラジルにオリンピックを見に行くときにヒューストンを経由する飛行ルートは理にかなっていること、南極はインド洋,大西洋,太平洋全てに面している唯一の大陸であることなどを視覚的に理解することができる。

受賞した慶応義塾大学政策・メディア研究科+オーサグラフの鳴川肇氏は、もともと建築設計での透視図法(遠近法)の研究をしており、「以前より北極南極を正しく表現できていない世界地図に違和感を覚えていた。透視図法で発生する「ゆがみ」の改善法を世界地図に反映したらどうかなと思い立ったのがスタート」だったという。

「他の作品もみてどれもとても素晴らしく、実際に投票数が大変接戦だったと聞いている。『オーサグラフ世界地図』はパッと見ただけではピンとこない説明の必要な作品だが、その上でみなさんがちゃんと理解して、評価していただいたということがとても嬉しく感謝しております」と受賞の喜びを語った。

大井篤氏

鳴川肇氏

「新たな世界の捉え方」として評価

審査委員長の永井一史氏は、「本年は、本当に最後までどれが大賞になるのかわからなかった」と語る。「候補作品の6点ともが、それぞれが防災や農業など大きく力強いテーマ性をもっていて、その中であえて『オーサグラフ世界地図』が受賞したというのも興味深く、それは投票した方たちに慧眼があったのかな、と感じている。我々は440年前にメルカトル図法が誕生したころより世界の認識の仕方というのはずっと地図によるもので、変わらないマインドセットにとらわれていたように思う。オーサグラフはその中においてあたらしい世界の捉え方を提示した、素晴らしい作品だと感じた」と評価した。

同副委員長の柴田文江氏は「他の候補もすばらしく、今年はまれにみる接戦だったなと感じている。地図というのは私たちの価値観そのものを作る根底にあるもの。はじめて鳴川さんのプレゼンテーションを聞いた時、本当に感動して驚いた。今の時代の感覚、価値観にこれまでの地図が合っていない、ということはみんながなんとなく感じていたことでそれに果敢にトライをして新しい表示の仕方を考える、発想するというのはまさにデザインの力だなと思った。グッドデザイン大賞にこういった作品が選ばれるのは不思議に思うかもしれないが、よくよく考えてみると、これこそまさにデザインのなせる事なのだと改めて考えさせられた」とコメントした。

永井一史氏

質疑応答にて実際の地図を使って仕組みを解説