1957年から60年にわたって実施されている推奨制度「グッドデザイン賞」。かつては工業製品の受賞が主体だったが、昨今は"モノからコト"までさまざまな分野においてデザインを軸とした審査を行っており、今年は過去最大※の応募件数・4,085件となった(※1998年の民営化以降において)。

そして本日28日、いよいよ「グッドデザイン大賞」が発表される。ここに至るまでのプロセスや贈賞の仕組みは、近年どのように変化してきたのだろうか。

今回は、審査委員長を務めるクリエイティブディレクターの永井一史氏、副審査委員長のプロダクトデザイナー・柴田文江氏に、両名が委員長に就任してからの応募作の傾向から、今の時代における「よいデザイン」まで、2016年の「グッドデザイン賞」にまつわるエピソードを伺った。

グッドデザイン賞・審査委員長の永井一史氏(左)、副審査委員長の柴田文江氏(右)。両名は2015年から同職に就き、多くの審査委員を束ねる立場で活躍している

――グッドデザイン賞は創設当初モノの評価が主流でしたが、現在は非常に多岐にわたるジャンルの応募作が寄せられています。大賞のラインナップをはじめ、受賞作のジャンルの多様化が年々進んでいるように感じますが、この変化についてどうお感じになっていますか?

永井 : 社会の中でデザインの意味や領域、可能性が広がっていることが、多様化につながっていると思います。10数年前に「にほんごであそぼ」という子供向け番組がソフトコンテンツとして初めて大賞を取りましたが、その頃からグッドデザイン賞自体も社会変化に合わせて、募集・審査する領域を増やしてきています。

――おふたりが現在のポジションに就かれてから、つまりここ2年での傾向の変化はありましたか?

永井 : 未来を先取る芽を感じさせるデザインが増えたと感じました。社会の変化もその背景にあると思います。また、デザインの作り手にも変化がありました。大企業でなく少人数のベンチャーが台頭し、クラウドファンディングで資金調達しながら、上位入賞するようなクオリティの高いデザイン、それも車いすや義手などソーシャルな課題と向き合ったデザインを生み出す若い人たちが増えたことが印象的でした。この傾向は、しばらく続くのではないかと思います。

また、審査の視点として新たに「フォーカス・イシュー」(※)を導入した結果としての変化もあると思います。このデザインが社会にどんな役に立つのか、どういう意味があるのかを含めて審査する態度が、受賞作品から見られる傾向にも影響していると思います。

※フォーカス・イシュー…グッドデザイン賞の審査プロセスにおいて、「デザインがいま向き合うべき重要な領域」を定めたもの。詳細は同賞Webサイトを参照。

柴田 : デザインの社会性に注力して審査の対象を見るようになったと感じます。エントリーされる側の意識や審査体制、審査委員の考え方も、デザインの背景にある社会的役割を重要視するような方向に変化しています。

先日の発表会でも申し上げたのですが、グッドデザイン賞は「デザインをジャッジする」というよりは、「デザインをどのようにファシリテーションしていくか」という役割を担っていると、特に今年は強く感じました。

――グッドデザイン賞の審査は、審査委員がチームごとにまとまったジャンルの審査を行っておられます。現在審査委員を務めておられる方の人選はどうやって行ったのでしょうか?また、過去の審査体制と変化した部分があれば、それを整えた狙いを教えてください。

永井 : 人選は、日本デザイン振興会のメンバーとともに時間をかけて協議しながら決めています。過去に比べて、審査委員全体の若返りと多様化を感じています。

近年、審査委員の任期の期限を設けるなどの取り組みを進めてきましたが、「フォーカス・イシュー・ディレクター」という新しい役割を設けたことが大きいです。狭義のデザインにとらわれず、専門性の高い様々な領域の人たちをイシュー・ディレクターとして迎え入れたことで、どのジャンルの審査も、さらに活性化したと感じています。

柴田 : 審査委員全体が若返っていて、より現場の声をリアルに感じている人たちが審査に関わってくださっています。

賞に対して客観的判断をするだけでなく、当事者として、デザインをこれからどういう風にしていったらよいかという意識が審査委員全体にあると感じています。