10月12日から15日にかけて、東京ビッグサイトにおいて開催された「2016年国際航空宇宙展」。国内外から合わせて792もの航空・宇宙関連企業や団体が出展し、過去最大、日本最大規模での開催となった。

航空・宇宙用のバッテリーを開発している古河電池では、小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」、金星探査機「あかつき」に搭載されたバッテリーを展示。また海外の衛星メーカーも多数出展していた。

古河電池

古河電池が開発した宇宙用のリチウムイオン電池

古河電池が開発した宇宙用のリチウムイオン電池。左から「あかつき」用、「はやぶさ」用、「はやぶさ2」用

航空・宇宙用のバッテリーを開発している古河電池のブースでは、小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」、金星探査機「あかつき」に搭載されたバッテリーが展示された。

古河電池は長年、主に宇宙科学研究所の科学衛星向けに、ニッケル・カドミウム(ニッカド)電池やニッケル・水素電池を開発・提供していたが、1996年から新たにリチウムイオン電池の開発に挑んだ。リチウムイオン電池は小型・大容量で、電池そのものはもちろん、ひいては衛星の軽量化もできる。しかし、当時はまだ実際に宇宙機に搭載した例はなく、世界初の試みだった。

その後、「はやぶさ」でこのリチウムイオン電池が搭載されることになり、その運用を支えた。さらに金星探査機「あかつき」や水星探査機「MMO」、そして小惑星探査機「はやぶさ2」へも採用された。

宇宙用電池は基本的に一品物で、搭載する衛星に合わせ、それぞれ異なる性能や大きさのものが使われている(例外的に「あかつき」とMMOは同一品)。ただ、衛星を製造するNECから「部品や組み立てオペレーションの都合上、電池の大きさを揃えてほしい」との要望があったそうで、今後は底面積に関しては「はやぶさ2」のものと同じになる可能性が高いという。

なお、電池というと円柱形を思い浮かべるが、円柱だと並べた場合に隙間ができてしまう。そのため同社の宇宙用電池は、効率よく、隙間なく詰め込めるように四角くなっている。宇宙研の科学衛星はとくに小さく、余裕がないため、こうした工夫がされている。ちなみに海外の衛星の場合、内部にスペースが十分にあるため、円柱形の電池でも問題ないのだという。

ドイツ航空宇宙センター(DLR)

MASCOTの実物大模型

MASCOTの実物大模型

ドイツ航空宇宙センター(DLR)は、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されている小型の着陸機「MASCOT」(マスコット)の実物大模型を展示した。

MASCOTはDLRが中心となり、フランス国立宇宙研究センター(CNES)と共同で開発された探査機で、名前は「Mobile Asteroid Surface Scout」(小惑星の表面を偵察する小型機)の略から取られている。

探査機は縦・横約30cm、高さ約20cmの直方体で、質量は約10kg。「はやぶさ2」に抱かれて飛行し、目的地の小惑星「リュウグウ」に到着した後、分離されて小惑星の表面に着陸する。探査機の内部にはカメラや熱センサー、磁力計、分光顕微鏡といった観測機器が搭載されており、リュウグウの表面を直接観測する。

また内蔵している重りを動かすことで、起き上がったり、飛び跳ねたりして移動することが可能になっている。

MASCOTのチームには、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸し、探査した小型着陸機「フィラエ」(フィーレイ)の開発にかかわった人々が多く参加しており、この手のロボットに関して非常に高い技術をもっている。またDLRは、ESAが2020年ごろに打ち上げを目指している小惑星探査機「AIM」に搭載する小型着陸機「MASCOT-2」の開発も進めている。

イエナ・オプトロニク(Jena Optronik)

RVS 3000

RVS 3000の内部。2軸のジンバルに乗った鏡が見える

ドイツのハイテク光電子機器・宇宙機器メーカーのイエナ・オプトロニク(Jena Optronik)は、ランデヴー・ドッキング・センサーの「RVS 3000」を展示。RVS 3000は欧州の国際宇宙ステーション補給機「ATV」や日本の補給機「こうのとり」(HTV)、米国オービタルATKの補給船「シグナス」に採用されている。

RVS 3000は国際宇宙ステーション(ISS)から約3000m離れたところで起動され、短光パルスのレーザー・ビームを発射する。RVS 3000の中には2軸のジンバルに乗った鏡があり、これを精密に動かすことで、レーザーをISSへ向けて正確に発射できるようになっている。

発射されたレーザーはISSに設置されている反射体に当たり、RVSに返ってくる。そして自身が出した短光パルスと、返ってきた短光パルスの差異から、お互いの位置(距離や方向)を計算。それに従って宇宙機はズレを補正しつつ接近し、ATVは自動でドッキング、「こうのとり」やシグナスはISSの近くに停泊し、ロボット・アームによって把持される。

サリー・サテライト・テクノロジー・リミテッド(SSTL)

SSTLの150kg級小型衛星「SSTL 150」の5分の1スケール模型

英国のサリー・サテライト・テクノロジー・リミテッド(SSTL)は衛星開発メーカー。日本では大手総合商社の兼松が、輸入代理店となっている。

SSTLはもともとサリー大学からスピンアウトした企業で、小型衛星の開発・販売で大成功を収めた。2009年にはエアバス・ディフェンス&スペースが株式の99%を保有(残り1%はSSTLが保持)したが、それでも大学発べンチャーとしての自由な風土は維持されているという。

同社の衛星バスはキューブサット級の超小型衛星から、数百kg級の衛星、1800kg級の静止衛星まで幅広く揃えているほか、衛星搭載機器も販売している。同社の衛星バスや機器は、主に地球観測衛星や技術試験衛星などで使用されているほか、欧州の全地球航法衛星システム「ガリレオ」の衛星にも機器を供給している。

超小型~小型衛星は1990年代の後半ごろから、電子機器の小型・高性能化や耐久性の向上などを背景に爆発的なブームとなり、最近はやや落ち着いたものの依然として多くの需要があり、規模が小さく造りやすいこともあって、今後も新興国や民間企業などが小型衛星を利用するとみられている。

また、現在の小型衛星は、ほかの同規模の衛星と数機から数十機まとめて打ち上げられたり、主となる大型衛星と相乗りする形で打ち上げられることが多く、顧客が打ち上げ時期や投入軌道を細かく指定できないことが多い。しかし、前回紹介したインターステラテクノロジズをはじめ、世界各地で小型衛星の打ち上げに特化した小型ロケットの開発が進んでおり、より安価にかつ高頻度で小型衛星の打ち上げが可能になれば、ふたたび小型衛星ブームが巻き起こるのではと期待が高まっている。

実際、今も世界各地で小型衛星の開発が進んでいるが、それでもSSTLの優位は揺るがないという。小型衛星には小型ならではの難しさやノウハウが必要であり(もちろんそれが具体的に何かは明らかにされなかった)、いずれそこにつまづいた企業などが、SSTLとの技術協力や部品供給を望むだろうと考えているという。

なお英国は欧州連合(EU)から離脱することが決まっており、欧州宇宙機関(ESA)のプロジェクトや欧州共同の衛星開発に参加している都合上、英国企業であるSSTLの今後の活動にも何らかの影響が出る可能性がある。ただ、今のところはとくに影響は出ていないという。

タレス・グループ

「プランク」。2009年に打ち上げられたESAの天文衛星で、全店の宇宙背景放射マップを観測し、宇宙の年齢がこれまでの推定よりやや古い約138億年であることを確認した

「ハーシェル」。ESAと各国の大学・研究機関が開発し、2009年に打ち上げられた赤外線宇宙望遠鏡。宇宙の進化や構造を観測

「コロー」。フランス国立宇宙研究センターが中心となって開発された宇宙望遠鏡で2006年に打ち上げられた。恒星とその周りを好転する太陽系外惑星を観測し、これまでに30個以上の系外惑星を発見している

「ガリレオ」。EUが構築中の全地球航法衛星システムを構成する衛星

「アラブサット2」。同社の「Spacebus 3000」プラットフォームを用いた民間の通信衛星

フランスに本拠地を置く大手企業のタレス・グループ。とくに宇宙分野を担うタレス・アレニア・スペースは、欧州最大の衛星メーカーとして知られ、商業用の静止衛星からESAの科学衛星まで幅広く手がけており、先ごろ火星に到着した探査機「エクソマーズ2016」の周回衛星「トレイス・ガス・オービター」と着陸実証機「スキアパレッリ」の開発も同社が担当した。

Spacebus NEO

Spacebus NEO

「Spacebus NEO」は、同社のオール電化衛星バス。従来の衛星では、軌道の変更や運用中の軌道のずれの修正などで使用するスラスター(ロケット・エンジン)に化学推進を用いていたが、近年ではそのすべてを電気推進で行う衛星が登場しつつある。電気推進は化学推進と比べてはるかに効率(燃費)が良いため、衛星の軽量化や、従来より多くの機器を搭載できるといった利点がある。一方で、ロケットによる打ち上げ軌道を円軌道にする必要があったり、静止軌道までの到達にかかる時間が長いなどの欠点もある。

Spacebus NEOは、衛星製造時に化学推進を搭載するか電気推進を搭載するかを選択することができるモジュール式を採用しており、たとえばなるべく早期にサービスを開始したい場合は化学推進を、サービス開始まで余裕があり、衛星の運用寿命を伸ばしたい場合には電気推進を、といった具合に顧客が選べるようになっている。

Spacebus NEOは現在までに3機の受注を得ているという。

StratoBus

StratoBus

タレス・アレニア・スペースでは衛星だけでなく、高高度を飛ぶ飛行船、いわゆる成層圏プラットフォームも開発している。

同社のStratoBusは、全長70~100m、直径20~30mの巨大な機体で、高度約20kmを飛行。表面に貼られた薄膜太陽電池の電力で動き、設計寿命は約5年。

約250kgのペイロードを搭載でき、光学センサーや合成開口レーダーによる偵察や監視、地球観測、通信などのミッションが可能だという。ちょうど「人工衛星とドローンの合の子」のようなもので、人工衛星と比べるとそれぞれ一長一短があるため、お互いに補完しあう関係になるという。

ボーイング

米国の大手航空宇宙メーカーのボーイングは、米軍の軍事衛星の模型を多数展示した。

GPS 11Fの模型

全地球航法衛星システム「GPS」を構成している米空軍の「GPS IIF」。今年2月に打ち上げられたGPS IIF-12が最終号機となり、今後はロッキード・マーティン製のGPS IIIAが順次打ち上げられる。

WGSの模型

米空軍の「WGS」。米空軍によって運用される軍用の通信衛星で、米国防総省やオーストラリア国防省などが使用する。衛星は2007年から打ち上げが始まり、現在まで7機が打ち上げられている。最終的に10号機まで打ち上げられる予定。WGSとは「Wideband Global SATCOM」を略した名前である。

SBSSの模型

米空軍の「SBSS」。SBSSはSpace-Based Space Surveillanceの略で、宇宙配備宇宙監視という意味をもち、宇宙ゴミ(スペース・デブリ)や他の人工衛星を監視、追跡する。2010年に1号機が打ち上げられている。