「定年」「60歳以降の働き方」と言っても、あまりに遠くてピンと来ない読者がほとんどでしょう。しかし、自分の親がもうすぐ定年、あるいは定年延長で働いているという人は多いのではないでしょうか?

今までお世話になり放しだった親ですが、子供たちの学費を払い、住宅ローンを返済し、果たして老後のための蓄えは十分に準備できているのでしょうか? 親に変わって、60代のお得な働き方をチェックしてみてください!

平均余命で定年から30年生きる世代! 生活費をどうする?

高齢化社会と言われて久しい日本ですが、2015年の平均寿命は、男性が80.79歳、女性が87.05歳です。また平均余命でみると、60歳の男性はあと23.55年、75歳の男性でも12.09年。女性にいたっては、60歳だと28.83年とあと30年近く生きることになるのです(※)。

定年60歳が一般的な今、その後、20~30年もの生きていくための費用を捻出しておかなければならないのが現実です。

もし、年間生活費が300万円としても、30年なら単純に計算すると、300万円×30年は9,000万円となってしまいます。もちろん、このほとんどを公的年金で賄うのが今の60代のセオリー。ただ、実際はほとんどの定年後世代は、貯蓄を切り崩しながら暮らしているのが現状です。介護やがんなどの長期にわたる病気、オレオレ詐欺などの事故も含めて、常にお金のリスクとは背中合わせなのです。

※出典:厚生労働省「平成27年簡易生命表」

60歳で仕事を辞める必要はない?

「ちょっと待てよ。おやじもおふくろも、あんなにピンピンしていて元気だぞ。何も60歳だからって、仕事を辞める必要はないよな」なんて思うことありませんか?

そうです。そのとおりです。実は定年後には、年金を含め、様々な社会保険のサポート制度があります。それらを活用して、お得にマイペースで働くことができるのが、定年後世代の特権なのです。しかし、「お得」や「タダでもらえる」といった言葉をどちらかというと煙たく思っている世代だけに、制度を活用して効率よく働いて、老後資金を上手に貯めよう、という姿勢にやや欠けています。

ここでいくつかのポイントを紹介するので、是非、お世話になっている親御さんにアドバイスしてあげてください。

60歳以降に働くともらえるお金の種類は3つある

60歳以降に働く場合、まず知っておくべき最大の基礎知識は、お金をもらう先が3つあるということです。1つ目は「給料」。2つ目が「年金」(特別支給の老齢厚生年金)。3つ目が「雇用保険の給付」です。

60代はこの3つのどれかをもらうとどれかがもらえない、どれかが高いとどれかが削減されるなど、この3つのお金が複雑に絡みあうのです。そこを計算しながら、わざとバリバリ働いて給料をたくさんもらうのではなく、まあまあ働いて、年金や雇用保険の給付をそこそこもらう、といった作戦が必要になるところが難しい点です。

雇用保険からもらえる「高年齢雇用継続基本給付金」

60歳以上65歳未満で継続雇用された際に、毎月の給料(賃金)が60歳到達時よりダウンすると雇用保険から65歳誕生日前まで支給され続けるのが「高年齢雇用継続基本給付金」です。

ただし、雇用保険の被保険者期間が5年以上あり、60歳到達時より75%未満にダウンしていないともらえません。例えば、月給40万円の人が、継続雇用時に20万円に下がったとすると、20万円の15%(賃金割合が61%未満の場合)の3万円が給付されます。

図Aは50万円だったAさんの給料が26万円に下がった場合。給付金の支給は月3万9,000円ですが、非課税扱いのため、手取りでみると、現役時代と比べて10万円ちょっとしか変わりません。

図A

50万円だったAさんの給料が26万円に下がった場合、もらえるお金はこうなる

管理職でもない、残業もしない、もしかしたら、週5日働くというわけでもない。そんな楽チンな働き方で、非課税の給付金付きというのは60代前半のみの特権です。

給料をもらいながら年金ももらう「在職老齢年金」

年金は65歳からもらえると思っている人が多いでしょうが、実は男性の場合、昭和36年4月1日以前生まれ、女性の場合、昭和41年4月1日以前生まれの人には、特別支給の老齢厚生年金というものが支給されます。読者の親世代であれば、多くが60代前半で、フルではないものの、何かしらの年金を受給できる立場にあります。

例えば、昭和30年10月生まれの男性であれば、62歳から「特別支給の老齢年金」を受け取ることができます。この際働いているとどうなるのでしょう? 在職していても、年金の基本額と給料の合計が28万円以下であればいいのですが、それを超えてしまうと、受け取れる年金の方が一定の計算式に基づいて減額されてしまいます。これを「在職老齢年金」といいます。

例えば、上で紹介した月給26万円のAさん。年間にもらえる年金が120万円だとすると、月々に直すと10万円の支給になります。給料と年金を合計すると36万円になってしまいます。計算してみると、10万円もらえるはずの年金は、6万円に減額され、さらに高年齢雇用継続基本給付金をもらうことによる調整で26万円の6%(1万5,600円)が減額されて、4万4,400円になってしまいます。

図Bを見てください。もしここで、Aさんが週3日のアルバイトで働き、厚生年金や健康保険の被保険者でなくなった場合には、どうなるでしょうか。月給は12万円に下がるとします。しかし、厚生年金の被保険者でなくなると年金はフルで10万円もらえるので、給料が26万円から14万円も下がっても、手取りは7.9万円しか下がりません。

収入は減りますが、週3日勤務の働き方なので、ゆっくり趣味を楽しんだり、旅行をしたりすることもできることでしょう。

図B

62歳、「フルに働き給与26万円」の場合と、「年金月10万円+アルバイトで給与12万円」の場合の受取額の差は7.9万円

今度は週3日勤務などの働き方になるかもしれません。ゆっくり趣味を楽しんだり、旅行をしたりしながら、お金も貯められることでしょう。

このように60代の働き方は、もらえるお金や自分の働き方の希望で変わってきます。どれがお得というのも、人の価値観によって違いますが、選択肢が多いのは確か。いくら貯めたいか、どのように働きたいか、まさに考えどころなのです。

執筆者プロフィール : 酒井富士子

経済ジャーナリスト。回遊舎代表取締役。 上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルート入社。「あるじゃん」「赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。著書「0円からはじめるつもり貯金」「20代からはじめるお金をふやす100の常識」「職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術」「ハローワーク 3倍まる得活用術」「J-REIT金メダル投資術」(秀和システム)など。近著に「60代の得する『働き方』ガイド」(近代セールス社)がある。