マニュアルといえば、紙に印刷された文字やイラストを見てやり取りするものであるという考え方が一般的である。しかしその形態は少しずつ変わりつつある。業界を問わずスタッフ間の情報共有をこれまでよりも効率化したいという声が多くあり、それに向けて、3D PDFを活用する事例が出てきている。

本稿では3D PDFとはいったいどのようなものなのか、そしてそれが求められている背景を踏まえてご紹介していく。

そもそも3D PDFとは

文字やイラストで埋め尽くされたドキュメントでは、わかりやすさ、使いやすさという点において限界があり、情報共有が容易に進められないという悩みがついて回る。

これらの解決策として、3Dを使った情報伝達により利便性が向上することが知られている。例えば、製造現場における設計部門では、3D CADの活用がより一層進んできており、3D CADデータを3Dで表示されたドキュメントで見たいというニーズが高まっている。それを実現するのが3D PDFである。

3D PDFとは、PDFに3Dデータを埋め込むことで、3Dアニメーションの表示を可能にし、その アニメーション自体を自由に動かすことができるツールである。端的に言えば「見せる人」が「見せたい動作」を作り込め、また「見る人」が「見たい視点」で見ることができるアクティブなドキュメントなのである。

3D PDFの仕組み

3D PDFは誰でも見られるPDF上に3D CADデータを組み込んだものである。PDFビューアであるAdobe ReaderはPCに標準インストールされているため、専用のビューワーソフトを購入する必要はなく、閲覧できるのである。

またPDFは国際標準機構(ISO)で管理されるスタンダードなデータ規格であり、閲覧、印刷、編集のアクセス権限を付与することで、セキュアなドキュメントを作成することが可能である。

3D PDFの特長 その1:インタラクティブ性

3D PDFで表示されるアニメーションは角度と大きさを自由に操作できるため、3D形状部を見やすくし、解りやすい情報として伝達することができる。またそのアニメーションに動作コントロールボタンを付与し、表示させたい部分のみにフォーカスすることも可能。さらに1つのPDFに属性情報を与えることができるため、さまざまな情報を載せることが可能である。例えば、製品情報を注釈として挿入したり、動作に応じて、必要なコメントを入れることができるのでインタラクティブな操作ができるのである。

3D PDFで作成されたパーツのカタログを例に見ていこう。

これまでの部品パーツカタログでは、イラストを見る際、一定の角度からしか見られないため、ユニットの構造が複雑で、かつ多点数で構成されている場合、情報を正確に把握することが困難であった。

しかし、3D PDFであればパーツ本体またはその一覧表に記載されている部品名をハイライト表示させることができ、パーツの形状回転やズームも行えるため、複雑な形状を可視化することができるのである。

3D PDFの特長 その2:情報の管理、共有が格段に向上

3D CADのデータとその関連ドキュメントが別のものとして管理されているため、情報が点在化してしまい、管理が煩雑になっているということが多々ある。この点3D PDFは、3Dデータ、技術文書、製造情報を1つの3Dドキュメントとして管理することができるので、情報管理が容易になる。

また3Dデータを元のCADデータで共有する場合、データ容量が大きくなってしまい、データの受け渡しが難しい場合がある。しかし3D PDFではデータ容量を圧縮し、軽量化することができるためメールでのデータ授受が可能となり、製品設計・開発部門を中心に活用されていた3Dデータをサービス・販売・企画部門など、従来では情報共有が難しかった部門に対しても容易に受け渡すことができ、部門間の情報共有を一気に早めることができるのである。

3D PDFの部門間情報共有相関図

著者プロフィール

川島 徹
キヤノンITソリューションズ
エンジニアリングソリューション事業本部
3Dソリューション開発センター開発二部 部長

製造業におけるものづくり現場で、3D設計の導入からデータ活用/運用のプロセス改革/自動化まで、3D設計効率化支援サービスの推進に取り組む。現在は開発部門を管轄する立場から、3D PDFドキュメントで3Dデータの効果的な活用推進に向けたサービス支援を行っている。