NVIDIAは10月18日、都内で7月に発表したQuadro Pascalプラットフォーム「Quadro P6000/P5000」の国内販売スタートに併せて産業分野に向けた取り組みに関する説明会を開催し、VRやデザインが迎える新たなステージの紹介を行った。

Pascalアーキテクチャを採用した新たなQuadroは、VR向け機能を搭載したほか、5K出力への対応も図るなど、従来Quadroを上回るハイエンド製品という位置づけとなっている。メモリもGDDR5Xを最大24GB搭載することで、メモリ帯域幅も最大432GB/sを実現。巨大で複雑な設計である建物や自動車の設計効率向上、映像制作における炎や煙などのエフェクトの向上、レンダリングや展開できるデータセットの拡大などが可能となった。

NVIDIAのGPUロードマップ。最新世代となるPascalアーキテクチャではGPUワークロード管理の改善やメモリ帯域幅の向上など、グラフィックスのみならず演算性能も向上している

主に日本市場では、自動車の設計開発や建築・土木設計のBIM/CIM設計、フォトリアルな建築空間、4Kを超す映像編集、医療の可視化といった手術のシミュレーションなどを対象としており、そうした産業界でのVRニーズ(プロフェッショナルVR)にも対応する性能を提供する。

Quadro P6000/P5000のQuadro製品における位置づけと、主な利用エリア

Quadro P6000の概要と従来製品との比較

また、P5000はメモリが最大16GBとP6000に比べて、若干下回るが、従来の8GB品では対応できなかった12GB以上のビデオメモリを必要とするプロ向けデータへの対応とコストのバランスを考えられた製品となっており、Keplerアーキテクチャである「K5200」と比べると約2.5倍の性能向上を果たしているとする。

Quadro P5000の概要と従来製品との比較

また同社は近年、ハードウェアのみならず、ソフトウェアやアプライアンスといったものも含めたソリューションとしての提供に力を入れている。特にレイトレーシングメインのレンダラ「IRAY」については、2015年よりプラグインの提供などを開始。「物理ベースレンダリング(PBR:Physical Base Rendering)」や「メディア&エンターテイメント」、「デジタルサイネージ」といった分野を中心に展開しており(ソフトウェア全体としてはワークステーション分野が中心となり、X線や内視鏡などのデータ演算用途を含めた医療分野なども含まれる)、PLMベンダであるダッソーシステムズやシーメンスPLMソフトウェアなども活用している。

さまざまなソフトに向けIRAYプラグインが提供されているほか、複数のPLMベンダなどがIRAYを採用している

IRAYを活用するためのアプライアンスも提供している

さらにプラグインとしては、近々にAutodeskのモデリングソフト「Maya」向けに「Mental Ray for Maya」を提供する予定。

Iray VRの活用フロー。高い処理性能が必要なことから、Quadro VCAまたはDGX-1を活用する必要がある

こうした分野で近年、同社が期待を高めているのはBIMの活用が世界中で進められつつある建築分野だ。「IRAYでRenderingした美しいフォトリアリスティックなビルを見ることが可能になる。デザインからVRへとシームレスに展開することで、エンドユーザーやビルオーナーも、完成する前に、どういった建物なのかの雰囲気や様子を具体的に把握することができる。例えば、新しい国立競技場では、どこにカメラを配置すると、よりよい映像が撮影できるのか、というシミュレーションに対する要求があると聞いている」と同社は説明しており、現時点では、そういったデータを作るにはハードルがまだ高いものの、数年以内に一般住宅のデータなども手軽に作れるようになるほか、配管データなども見ることができるようになるとする。

また、こうしたGPUパワーの向上が、新たな産業とのコラボレーションも生み出している。ゲームエンジン「Unreal Engineシリーズ」を提供するエピック・ゲームズ・ジャパンでは、「ゲーム以外での利用が近年増加してきている」とするほか、同社としても、「ゲーム以外のビジネス開拓を需要課題としてとらえ、エンタープライズ領域を重視した取り組みを進めている」とする。

例えば、東京ゲームショウ2016にて明らかにされたバンダイナムコエンターテインメントの新作タイトル「プロジェクト レイヤード(Project LayereD)」だが、同社が協力する形でティザームービーを、Unreal Engineでモブなどの3Dモデルデータを表示し、2Dで描かれた背景と組み合わせる形で作製。従来のMayaでフレームごとに描画する手法では、1フレームあたり数時間を要していたが、今回の手法では数秒で実現。絵コンテを不要にできる可能性が示されたとのことで、今後、本編にあたるアニメを作るにあたっても同エンジンを活用していくことが決まったという。

Project LayereDの概要。Unreal Engine 4で3Dオブジェクトを描画し、2Dの背景などと組み合わせてティザームービーが作られた

さらに海外の事例だが、NASAがISS向けに地上訓練用にVRと組み合わせた活用法や、リオ五輪に併せてブラジルのテレビ局がバーチャルスタジオとリアルタイムモーションキャプチャを組み合わせて作成した選手のCGとアクターを連動させ、キャスターと対戦させたり、など、活用分野を拡大してきている。日本でもBtoBtoB向けがメインとなるが、自動車購入時のユーザーが内装などを手軽に変更するコンフィギュレータでの採用や、自動運転向けAI開発への応用、医療設備や検査機器などを病院に導入する際に、大きさや設置の様子などを確認するための営業ツールなどとして活用されているという。

今後もGPUの性能は向上を続ける見込みであるが、産業界もそうしたGPUがもたらす高品質なグラフィックや高い演算性能を活用しようという動きを徐々に見せ始めてきている。開発費の高騰や短TAT化など、さまざまな問題の解決手法としてシミュレーションの注目が高まっており、その活用方法を模索する企業が増えてきている昨今、産業分野でのGPUの活用はさらに広がっていくことが予想される。