【レポート】

R-Carスタータキットで、幅広いコミュニティ構築を目指すルネサス

ルネサス エレクトロニクスは10月19日に都内で「R-Car Consortium Forum 2016」を開催したが、これにあわせて新しく「R-Car M3」と、新しい開発キットである「R-Car スタータキット」2種類を発表した。この内容をまとめてご紹介したい。

まずR-Car M3についてである。「R-Car M3」は2015年12月に同社が発表したR-Car H3(Photo01)のメインストリーム向けモデルとなる(Photo02)。

Photo01:こちらは2015年に発表されたR-Car H3の構成

Photo02:こちらがR-Car M3の構成。Cortex-A57コアが2つになり、OpenCLのアクセラレータが省かれた

R-Car H3は高級車向けとするとR-Car M3は世界戦略車などもう少し低価格モデルとなる車種向けであり、R-Car H3を低価格向けにアレンジした形となる。ただしソフトウェアの互換性は保たれており、またSiPの形での提供もなされるのは同じである(Photo03)。細かく言えば、メモリバス幅がR-Car H3は32bit×4なのに対してR-Car M3は32bit×2になるとか、32bitタイマーの数がやや減ったとか、Ethernet I/Fが省かれ、代わりにMOST50 I/Fが追加されたなど細かな違いはあり、またパッケージも異なる(単品が1022ball 0.8mm FCBGA 29mm×29mm、SiPモジュールが1255pin 40mm×40mm。R-Car H3はそれぞれ1384ball 0.5mm FCBGA 21mm×21mmと1255pin 42.5mm×42.5mm)が、ソフトウェア的にはほぼそのまま行ける構成になっている。

Photo03:左がR-Car M3単品。右はR-Car M3にLPDDR4×2と、SpansionのHyperFlash NORを搭載している。ちなみにFlash I/FはQSPI/HyperFlashの両対応。単品は「Tier 1などは独自にDRAMを仕入れて居られるので、そうした顧客は単品の方がむしろ好ましいと判断される場合もある」そうで

ただし発表の本題はこちらではなく、続くスタータキットのほうである。今回同社は、このR-Car H2/M2を搭載した10cm角の開発ボードとして、R-Car スタータ ProとR-Car スタータキット Premierの2つを発表した(Photo04~06)。ちなみに裏面にCOM Expressのコネクタが搭載されていることもあり、こんな具合にマザーボードの上にドーターボードとして利用することも容易である(Photo07)。

Photo04:ボードの配置はほぼ同じ。裏面にCOM Expressのコネクタが見える

Photo05:R-Car スタータキット Pro。イーサネットなども増設されている

Photo06:手前のヒートシンクが搭載されているのはPMICだろうか? SiPはパッケージサイズこそ異なるものの、ピン数やピッチが同じとあってか配線にも差は見られない

Photo07:こちらは発表会会場に展示されていたボード。中央にR-Car スタータキット Premiumが載っている

特長的なのは、このR-Car スタータキットが、同社より直販ではなくAVNETとマルツエレックという代理店経由で誰でもすぐ購入できること、そして購入しやすい価格に抑えられた事である(Photo08)。これは同社の自動車関連製品に関する方針転換を示す大きな動きである。

Photo08:マルツが販売する理由は、後述するとおり大学とか学生などに強い販売ルートを持っているから、ということであった

このあたりの話は次に説明するとして、その前にもう1つだけ。このR-Car スタータキット Premierを2つ搭載したHAD(Highly Automotive DrivingL高度自動運転)ソリューションキットも同時に発表になった(Photo09~12)。

Photo09:マザーボード側にRH850を1つ搭載し、その上にR-Car スタータキット Premierを2つ搭載する。2つ搭載する理由は冗長性の確保ではなく(冗長性そのものは個々のR-Car スタータキット上で確保されているという話だった)、処理性能を鑑みるとこれが2つ必要になる、という判断らしい

Photo10:内部はこんな感じで、スタータキット2つでほぼ埋まっている感じ。RH850はマザーボードの底面だろうか?

Photo11:発熱もかなりあるようで、積極的にシャーシに熱を逃がす構造になっている。オレンジのクッションは、PMIC向けと思しきヒートシンクの熱をシャーシに伝えるためのもの

Photo12:最大でカメラユニットを16個接続できるとあって、背面のコネクタ部はなかなか壮観

話を戻すと、今回のスタータキットがなぜ大きな方針転換となるのか、という話をご紹介したい。そもそも説明会はまず大村隆司氏(Photo13)による市場概観から始まったのだが、自動運転時代に向けた形で同社はさまざまな製品をすでにリリースしており、コントロール~ヒューマンI/Fの範囲ではすでに大きなシェアを持っており(Photo14)、コグニティブあるいはセンシングのところでもそう引けを取っている訳ではない(Photo15)が、決定的なものではない。

Photo13:第一ソリューション事業本部 執行役員常務の大村隆司氏。自動車側製品事業部のトップである

Photo14:制御系はすでに大きなシェアを取っており、ここでは問題はない。ただ自動運転のアルゴリズムなどはそもそもまだ勝者が居ない(イスラエルのMobileyeは現在は大きなシェアを取っているが、このまま彼らがシェアを取り続けられるかどうかもはっきりしない)

Photo15:自動運転に関しては、2015年にR-Car H2ベースのプラットフォームを発表しているが、なにしろ変化の早い分野だけに、次々に新製品を投入してフォローアップしてゆく必要がある

ただ、ではこうしたマーケットでシェアを取るためにはより高度なハードウェアがあればいいのか? と言うわけではなく、むしろソフトウェアの比重がどんどん高くなっているのが目下の問題である(Photo16)。特に、単にソフトウェアの量が増えているのみならず、これまで車と関係が無かった分野(例えばディープラーニング)のソフトウェアが必要になってくるなどした事で、従来の「自動車関連エンジニアがソフトウェアを書く」だけでは間に合わなくなりつつある(Photo17)。

Photo16:ちょっと前に自動車のプログラムコードが飛行機を抜いたとかいう話があったが、ついにスマートフォンも抜くようになった

Photo17:逆に、従来自動車業界とは無縁だったところからの参入もあるという

こうした動きに対応するためには、もっとオープンなコミュニティを構築し、自動車業界以外の人々にソフトウェアを書いてもらう必要がある(Photo18)。

Photo18:この「開発パートナー」の枠を、もっと広げないと対応ができない、というのが同社の懸念である

そのために同社が出来ることは何か? というと、開発環境の容易な入手性と、必要な環境の整備である(Photo19)。従来の反省(Photo20)に基づいてコンセプトを見直したのが、今回のR-Car スタータキットと言うわけだ。先ほどマルツが販売代理店に入っていたのもこの一環で、例えば大学などで自動運転とか画像処理、ディープラーニングなどを研究している研究室や学生の方に、すぐこのボードを使って評価したり研究したりしてもらうことで、Photo18に出てきた"Professional Community"を広げよう、というのが今回の最大の狙いといっても良い。

Photo19:自動車関連開発キットは、そもそも非常に高価であり、しかも入手性が悪かった(同社からの直販のみだった)

Photo20:R-Car スタータキットは基本即日納品をめざしているという

もちろんハードウェアだけでは話にならないのだが、これに関しても車載LinuxやGENIVIといったオープン系コミュニティ、それとQNXをサポートする事で、(QNXはともかく)動かすために必要なOSやドライバ類は早期から利用可能になり、開発者にアルゴリズムあるいはアプリケーションに専念してもらえる環境を作った形だ。またPhoto09に出てきたHADソリューションも同じで、こちらは実車に搭載できる構成と堅牢性を持っているので、そのまま実際の車での評価もすぐ出来るようになっている。

Photo21:すでにこれらのOSのポーティングの基本的なところは終了しているようで、デモも行われた

従来こうした目的でルネサスはR-Carコンソーシアムを主催しており、こちらも現在187社のメンバーが加盟しているが、こちらはアクセスして頂くと判るとおり、基本自動車関連メーカーのみの参加という形で、入会基準も厳しい、ある意味自動車関連業界のみのコミュニティである。ところがR-Car スタータキットの目指すものはこれを超えたもっと幅広いコミュニティである。この幅広いコミュニティを構築するための道具が、R-Carスタータキットというべきかもしれない。「1人に1台、R-Carの環境を」というのが目標で、これに向けて価格面は相当頑張った様だ。実際、Photo08でも判るがCortex-A57×2+Cortex-A53×4+Cortex-R7×2+PowerVRの載ったSoCとDRAM/Flash/周辺回路が全部入ったものがたったの499ドルというのは、かなり思い切った値段といって良い。なにか他の用途に使えないかを考えたくなるほどだ。

ちなみにR-Carコンソーシアムその他のパートナーにはすでにR-Car スタータキットが早期提供されており、各社がこれを利用してさまざまなソリューションを展示していた(Photo22~37)。

Photo22:これはルネサス自身による、ディープラーニングを利用した画像認識のデモ。CPUではなくR-Car H3内蔵の画像認識エンジンを使うことで、電力効率を77倍に引き上げている

Photo23:Photo22の実機デモ。画面下に、歩行者認識が正解率98.7%、標識認識が99.1%と示されている。またSoCの温度は38℃と低く、CPUコアの負荷は0.2%ほどであると見える

Photo24:Rightwareの自動車向けUIデザインソフトウェアのKanziの動作デモ

Photo25:ユビキタスのセキュア領域でのHDCP復号を行うデモ。手前のSink Deviceの方がスタータキット Pro

Photo26:同じくユビキタスのQuickbootの移植デモ

Photo27:Cinemoの動画再生デモ

Photo28:グレープシステムの音楽再生デモ

Photo29:ルネサスによるGENIVI GDPの動作デモ

Photo30:同じくルネサスによるAGL(Automotive Grade Linux)の動作デモ

Photo31:これもルネサスによるCanvasデモ。フルHDの画面3枚を利用しての表示が可能になっている。デバイスはR-Car H3ベース

Photo32:Cogent Embeddedによる4方向カメラのデモ。この画面だと普通のバードビューを構成するだけに見える

Photo33:映像の向きを変えると、こんな風に側面からの映像の表示を作ることもできるのが特徴的

Photo34:同じくCogent EmbeddedのQuickboot。アプリケーション起動(画面左)やカメラ入力表示(画面右)を電源投入後1秒で実行可能

Photo35:PUXの顔認識デモ。特に運転手の顔認識を行い、ここから運転の状況などを分析することも可能となっている

Photo36:クロス・ボーダー・テクノロジーズのニューラルネットワークを利用した顔認識デモ。これは対象物の種類に応じて色分けをするもので、今は人間が赤で表示されているが、車両とか標識その他を全部分けて識別可能。現在はPC上で動作しているが、2017年1月にR-Car H3へのポーティング完了を予定しているという

Photo37:QNXの動作デモ

またHADソリューションキット自身はまだパートナーへの出荷も行われていないようだが。このHADソリューションキットのプロトタイプというか前身にあたるR-Car H2ベースのものを利用した自動パーキングデモ(Movie01,02)も展示された。

Photo38:上に載っているのがR-Car H2ベースのADAS スタータキットで、車体の中にもまだ色々入っているらしい。四方にカメラが設置され、これで駐車位置や障害物その他を認識してパーキング動作を行う

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