大隅良典栄誉教授「海外の大学を見て感じていること、東工大に抱いている夢」

東工大科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット 大隅良典栄誉教授

続いて登壇したのは、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典栄誉教授。講演冒頭で、「科学とは、人類が蓄積してきた知の総体。時代と切り離すことができないものであり、知りたいという人間の知的な要求そのものである。日本では、"科学技術"という言葉が盛んに出てくるが、科学というのは人間の非常に大事な文化活動のひとつであり、科学と技術は車の両輪という形で展開されていくことが本来あるべき姿だろう」と、科学のあり方についての考えを述べた。

そのうえで大隅栄誉教授は、日本における科学の問題点として、大学教員の研究時間が減り、研究費が絶対的に不足しているなど、大学の基礎体力が低下していることを挙げた。

「すべての研究費が競争的資金であることがおかしい。競争が激化すればするほど、必ず成果が出て論文になるような研究しか選ばれず、長年コツコツと研究をやったり、新しいことにチャレンジしたりするのが難しい状況になってきている。特に生命科学の分野では、手っ取り早く『Nature』や『Cell』に載るような、流行の分野に集中してしまう。これが、日本の生命科学の非常に弱いところ」(大隅栄誉教授)

大隅栄誉教授は、日本のなかにだけ目を向けていることで、さまざまな認識が日本の大学において不足していることがその原因のひとつではないかと指摘する。「海外に行くと何時間も議論をさせられる。欧米の人間の徹底的に議論したいという姿勢は、相互理解と批判的精神からなっている。成果が出ればいいや、という日本人研究者のタコツボ的な精神とは、少し違うかもしれない」と、自身の経験を踏まえて分析した。

こういった状況のなか、東工大のメリットを「小さな大学であること」だとする大隅栄誉教授。意思決定のスピードがはやく、チャレンジングなことがやりやすいという理由からだ。「東工大をMITやカリフォルニア工科大学のような大学にしていくためには、一点突破が必要。そのためにも、大きな大学を目指すのではなく、尖がった研究ができる大学であってほしい」と、東工大への期待を込めた。

また大隅栄誉教授は、細野教授と同様に、民間研究機関との連携の可能性についても言及した。「大学人は私も含めて、研究費は国がサポートするものだと信じてきたところがあると思う。しかし、それはひょっとしたら間違っているのかもしれない。民間との連携のあり方は、必ずしも共同研究でなくてよい。もっと緊密な情報の交換や、交流ができるシステムを作って、お互いに新しい研究環境を整備していくことを真剣に考える時期に来ているのでは。若い人がチャレンジングなことをするのが難しいという状況を変えるために、環境を整備していかなければならない」(大隅栄誉教授)

最後に、若手研究者へのメッセージとして、「自分の研究を理解してくれる人がいるということが、研究の支えになる。私の研究も、海外で面白いといってくれた人たちがいることが励みになった。自分の研究の理解者を自分の周りに作るという努力を惜しまないで欲しい」と語り、講演を締めくくった。