2016年10月4日から7日にかけて幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2016」において、富士通 代表取締役会長 山本正已氏は「IoTがもたらす豊かな未来に向けて」を題したキーノートスピーチを行った。

富士通 代表取締役会長 山本正已氏

山本氏はスピーチの序盤で、すでに社会で活用されているIoTの事例を紹介。海外事例・国内事例をとりまぜて、位置情報等を利用した交通マネジメント、農業分野でセンシング技術を活用した植物工場での品質管理、産業分野での製造工程の最適化、医療現場での自立支援といった事例が紹介した。

その後、富士通が描いている2035年のビジョンが語られたが、この中ではバーチャル空間上で世界各地の人々が理解しあえるコミュニケーションを実現する世界などが描かれた。これは実際の距離にかかわらず対面しているかのように話せる技術、文化の違いを織り込んだ自動翻訳、専門家の意見などを示しながら合意形成を行うAIのファシリテータといったものが活躍いて実現する世界だ。

富士通の描く2035年のビジョン「社会問題をみんなで解決」

それ以外に、蓄積された健康データを新薬開発や医療の発展に役立てるほか、AIによる健康指導も行い健康寿命を伸ばす取り組みや、その結果得られた長い健康需要やテクノロジーの活用で得られた余暇を活かす多彩な人生といったものも語られた。

「これらはテクノロジーロードマップからは十分実現可能な世界。IoTはこうした豊かな社会をもたらす力がある。それに向けて、乗り越えなければならない課題も多くある」と山本氏は語った。

技術的な多くの課題と対応

課題とその解決については、技術・社会・経済という3つの面からの語られた。

技術の課題としては、高精度化や電力の例が挙げられた。センサー技術を利用して人の動きを検知するソリューションが多くあるが、現在は数メートル単位での誤差が出るため大きなエリア間の移動程度しか測定できない。最近は数十センチレベルで測定されるセンサーが登場しているが、今後はより高精度化が求められるだろう。そして、社会的なインフラの監視などではセンサーの設置場所に電源がなくても利用できるよう環境発電を利用した自家発電モジュールなどの活用も求められている。

またネットワークへの要求も高度化・多様化する。大容量コンテンツに対応できる高スループット、大規模イベントに対応する大容量、移動体での利用で要求される高信頼・低遅延、工場やインフラといった多彩な場で利用するための多種多様接続といったものが求められる。こうした課題には、標準化活動がはじまっている5G通信や、クラウドコンピューティングの負荷を分散するエッジコンピューティングといった形で対応の動きがはじまっている。

ネットワークへの要求は高度化・多様化する

データ活用に関しては、集めたデータをよりよく活用するための動きとして人工知能の研究が進められていることが語られ、その例として顔認識や画像認識の利用例が挙げられた。現在は人工知能の思考過程がよく見えない部分も多いが、今後の利用にはそうしたブラックボックス化を回避することが必要で、画像や音などを並列処理することで人間の能力を補完する使い方の実現も必要であるとした。

人口知能によるデータの活用

画像認識の市場性

人工知能が抱える課題

そしてデータを活用して行く場として、ブロックチェーンによる展開も語られた。第2のインターネットになるかもしれないという指摘とともに、展開が有望な事例として高効率なシェアリング、オープンかつ高信頼で高効率なサプライチェーン、プロセスや取引の自動化と効率化といったものが挙げられた。

ブロックチェーンによる展開が有望な事例