業績低下が続くIntersil

ルネサスがIntersilの買収するために交渉中であることを日本の新聞が8月下旬にスクープした際、ルネサスがついに攻めに転じたとしておおむね好感をもって受け取られたが、兜町ではIntersilの売上高や利益に対して買収額が高すぎるとして、一時的とはいえ、株価が大きく下がった。ON Semicobductorが売り上げ規模がIntersilの3倍近くあるFairchildを24憶ドルで買収したことを考えると、Intersilの32憶ドルと言うのは割高感を否めない。その後の新聞報道を見てもIntersil買収額に関する記事は散見されるが、同社の業績の推移についてはほとんど触れられていない。Semiconductor IntelligenceもIntersilの歴史には触れてはいても、業績には触れていないのが不思議な感じがする。

そこで、Intersilについて著者が、調べた範囲での結果を伝えたいと思う。買収そのものについては電源ICやアナログIC強化策としてさまざまなメディアにもおおむね好感を持って受け入れられてはいるものの、しかし実は、この米国企業、2010年に8億2000万ドルあった売上高が、その5年後の2015年には5億2000億ドルまで大きく下げている。2010年には、成長率の高い分野を攻めて売上高を10憶ドルに乗せる目標を立てていたので、それから比べれば半減だ。この間、シリコンバレーのファブレスの多くは、モバイルやITの波に乗り、売り上げや利益を大きく伸ばしてきているというのに、Intersilは不調の連続だった。2012年には、同社の取締役会はDavid Bell CEOの業績不振引責辞任を決議して、2013年にはSilicon LaboratoriesからSayiner CEOを迎え入れたが、その後も売上高低下に歯止めがかかっていない。

シリコンバレーの地元では、M&Aの波からも取り残され、買収するには魅力に欠ける企業になってしまっていた。前述の通り、歴史あるGEやRCAなどの名門半導体企業群の歴史をひきずってはいるが、そのような技術蓄積の上でビジネスをしてきたというよりは、変わり身はやく、その時々の伸びそうな分野に照準を定めて、小さな企業の買収と売却を繰り返して生き延びてきた企業であり、2010年には日本人(小里文宏氏)がシリコンバレーで創業しCEOを務めたTechwellを買収しビデオ画像処理技術を入手している。同社が成長分野へ資源を集中すること自体は間違ってはいないが、他社に先駆けるのは難しかったようだ。

実は筆者も同社を取材するたびに、違う経営者が出てきて、違う重点分野の説明を聞かされた。2011年秋に訪問した際には、自動車のダッシュボードやバックミラーに搭載するディスプレイを制御するためのプロセッサ(A/Dコンバータやデジタルインタフェースの入力部、ビデオデコーダ、画像拡大・縮小機能、グラフィックスコントローラ、マイコン、LEDコントローラ/ドライバ、タッチスクリーンコントローラ、バックライトコントローラなどの機能や回路を搭載した1チップ半導体)に力を入れていた(図1)。

図1 自社ディスプレイプロセッサを搭載した車載ディスプレイを実装した自動車ダッシュボードの前に立つIntersil CEOのDave Bell氏(当時) (2011年秋に筆者撮影)

2015年の秋に訪問した際には、ドローンの衝突防止のための測長センサのマーケティングに力をいれており、すばやく時流に乗ったビジネス展開に感心させられた。また、最近は車載アラウンドビューシステム向け4チャンネルデコーダを発表している

ルネサスはIntersilを再建できるのか?

一方のルネサスは、というと、2010年にフィンランドNokiaのワイヤレスモデム部門を買収し、ルネサスモバイルと言う国際的な企業を設立した。そしてスマートフォン向けビジネスでトップのQualcommに肩を並べると息巻いていたが、時流に乗れずに赤字を垂れ流してわずか数年で事業を畳んでしまった。1000人を超す外国人部隊に対する外国語によるマネジメントにも不慣れで手を焼いたと伝えられている。ルネサスは、Intersilから技術導入を図ると言うが、果たしてIntersilの経営を立て直して、リソースを十分に活用できるのだろうか。Nokiaのワイヤレスモデム部門買収のように業績拡大のために買収したはずが、かえって重荷になった前例の轍を踏まぬように祈るばかりだ。