S660、ロードスター、86、BRZ、GT-R、そしてNSX。新型スポーツカーが次々に登場している。使いにくい、乗り心地が悪いなどの理由で、一時は人気が低迷していたスポーツカーが、なぜ今、見直されているのか。販売台数が望めないにも関わらず、なぜメーカーは次々に新型を出すのか。そこには損得勘定を超えた判断があるようだ。

昨年から今年にかけて、次々に登場したスポーツカー達。写真左はトヨタ86、右はホンダS660

写真左はポルシェ911、右は日産GT-R

販売台数は望めないが…

スポーツカーの新型が続々と登場している。昨年はマツダ・ロードスターとホンダS660がデビューし、今年はホンダNSXが発表。トヨタ86とスバルBRZ、日産GT-Rはマイナーチェンジを実施した。欧州ブランドでも、今年はポルシェの911、ボクスター、ケイマンが相次いで上陸。ロードスターをベースとして開発されたアバルト124スパイダーも公開された。

多くは2人しか乗れず、乗り降りがしにくく、荷物もさほど積めず、燃費だって良いとは言い難い。ゆえに販売台数を多くは望めないスポーツカーに、なぜ今、多くの自動車メーカーが力を入れているのだろうか。

自動運転が普及しても残る“走る悦び”

スポーツカーはスピード、サウンド、ハンドリングなど、走りの楽しさを第一に考えて作られている。その歴史は古い。19世紀末、クルマが実用化されて間もなくレースが始まり、レースに適した車種が作られた。これがスポーツカーのルーツだ。当時はまだスポーツカーとレーシングカーが分かれていなかった。

しかし20世紀になって量産体制が確立し、一般市民に手が届く存在になると、人々はクルマの便利さや快適さに注目した。その結果、セダンやハッチバック、ミニバンなど、実用性を重視したジャンルが次々に登場。こちらがクルマの主役となり、スポーツカーは特別な乗り物になっていく。

ところが21世紀になると、今度は自動運転が話題になり始める。現時点で市販車に搭載されている技術は運転支援システムの域を出ていないが、近い将来ライドシェアやタクシーあたりから自動運転が導入される可能性があることは、「自動車販売にマイナスも? トヨタがあえてUberと組む狙いとは」で記した。

でもすべての人がすべての場で、自動運転を欲するわけではないはず。そこで人の移動や荷物の運搬は自動運転ライドシェア、運転を楽しむときは自家用車という使い分けをする人が出てくる。それなら後者はスポーツカーでいい。最近のスポーツカーは、大多数は女性を含めて多くの人が気軽に扱えるから、運転を楽しみたいという軽い気持ちで選んでも困らないだろう。

このように将来的には、自動運転の実用車と運転を楽しむクルマとの二極化が進むと考えている。となればスポーツカーの役割は重要だし、走りやデザインの魅力が見直され、販売台数が増えていくことも考えられる。そんな未来予想図を自動車メーカー各社は思い描いていて、スポーツカーに注力しているのではないだろうか。