増える共同開発、ブランドごとの差別化に工夫

しかし何度も書いているように、スポーツカーは販売台数が見込めない。つまりビジネスとしては旨味があるわけではない。だから単独ではスポーツカーが作れないこともある。そこで最近目立っているのは、複数のブランドが共同開発・生産を行うケースだ。

2012年に登場した86とBRZのペアは代表例だし、124スパイダーはロードスターのプラットフォームを用いて生まれ、日本で生産される。トヨタはBMWとの業務提携の中で、86のひとクラス上、かつてのスープラに相当するクラスのスポーツカーの復活を目指していると噂される。スポーツカーではないが、やはり2人乗りで販売台数が限られていたスマートが、 4人乗り仕様の復活を目論み、ルノーとの共同開発生産を選んだという事例もある。

124スパイダー(写真左)はロードスター(右)のプラットフォームを用いて作られた

ここで大事になるのは、ブランドごとの差別化だ。とくにデザインと走り味は、スポーツカーの肝となるだけに、ここが共通では魅力がぐっと薄れてしまう。しかし86とBRZの顔つきは別物で、ハンドリングの考え方も違うし、124スパイダーはロードスターと違うエンジンを積んでいることに加え、シャシーのチューニングも異なるなど、現行車種に関しては作り分けは絶妙だと思っている。

理想はエンジンもボディもゼロから設計することだろう。でもそうやって、21世紀のスポーツカーにふさわしいテクノロジーやデザインを盛り込んでいくと、フェラーリやランボルギーニ、そして新型NSXのように、価格が2,000万円を超えてしまう。こうなると一般ユーザーに向けたメッセージとはなりにくい。

こちらはプレミアムブランド(NSXは北米などではアキュラブランドとして販売される)としての評価を高めることが目的としてある。つまりスポーツカーの中でも、1,000万円以下と2,000万円以上という二極化が進んでいる。NSXが新型で思い切ったステップアップを敢行したのは、こうした状況が関係しているようだ。

スポーツカーが体現する自動車メーカーの存在意義

走る広告塔としての機能や、新興国市場攻略の旗頭としての存在感。自動車メーカーがスポーツカーに託す役割は多岐にわたるが、自動運転社会の到来を見据え、自動車業界がIT企業とのネットワーキングを急速に進める今こそ、自動車メーカーがスポーツカーを作り続けることの重要性は増しているように思える。

自動運転の分野では、UberなどのIT業界と既存の自動車業界との間で、主導権争いが繰り広げられている。しかしIT企業が走りの楽しさを熟知しているとは言い難い。この点では間違いなく、歴史の長い自動車メーカーにアドバンテージがある。スポーツカーは自動車メーカーが自分たちの存在意義をアピールする、大きな武器でもあるのだ。