Hot Chips 28において、InVisageという会社が、量子ドットを使うイメージセンサを発表した。量子ドットを使うことにより、近赤外光に対する感度が上がり、ダイナミックレンジも改善されるという。

Hot Chips 28で発表するInVisageのエンジニアリング担当VPのEmanuele Mandelli氏

次の図の破線が、シリコンの光の波長に対する吸収特性である。これに対して、量子ドットでは、量子閉じ込め効果で、長波長のところの吸収を高めることができるという。そして、この吸収のピークの波長は、量子ドットのサイズで変えることができ、次の図のように、サイズを大きくするとピークの波長は長い方に移動する。

つまり、量子ドットを使うことにより、近赤外光に対して感度の高いイメージセンサが作れる。

量子ドットを使うと、量子閉じ込め効果で、吸収のピークができる。このピーク波長は量子ドットのサイズで変わり、近赤外光で高い吸収特性を持たせることができる (このレポートのすべての図は、Hot Chips 28におけるInVisageのEmanuele Mandelli氏の発表資料のコピーである)

次の図は量子ドットの量子効率(当たった光子を電子に変換する効率)の波長に対する特性である。量子ドットは可視光の領域でも80%近い高い量子効率(=感度)を持っている。赤線は近赤外域の感度がシリコンのように低下した場合の特性で、緑線の量子ドットは850nm程度より長い波長でも高い量子効率を持っていることを示している。

緑線は、量子ドットの量子効率の波長依存性。量子ドットは赤外領域でも高い量子効率を持つ

次の図の左側は、一般的な背面照射型のシリコンイメージセンサの構造を示す図である。カラーフィルタを通して選択された波長の光がシリコンに吸収されて電子を発生する。

右の図は量子ドットを使うInVisageのイメージセンサの構造で、カラーフィルタとトップ電極の下に量子ドットの感光層とボトム電極がある。

シリコンイメージセンサでは、ピクセルの分離のための構造があるので、面積の70%程度しか受光に使えないが、InVisageの構造では、カラーフィルタと量子ドットの受光層が近接しているので面積の100%が受光に使える。

左は一般的な背面照射のシリコンイメージセンサの構造。右はInVisageの量子ドットを使うイメージセンサの構造

次の写真は、InVisageのイメージセンサの断面の顕微鏡写真である。チップ背面にマイクロレンズとカラーフィルタアレイ(CFA)があり、その下にトップ電極と量子フィルム、ボトム電極が見える。

InVisageのイメージセンサの断面写真

次の図は量子ドットを使うイメージセンサの製造のサプライチェーンを示すもので、まず、CMOSのファブでCMOSのシフトレジスタやA/Dコンバータなどを作る。そして、InVisageで、CMOSウェハの裏面に量子ドットのフィルムを形成する。下の写真に見えるビンに入った黒っぽい液体が量子ドットである。

量子ドットというと、半導体の表面にドットが規則正しく作られているようなイメージがあるが、InVisageのものは溶媒の中に量子ドットが分散している液を表面に付けてベークするという方法で作られる。そして、トップ電極や保護膜を形成する。

これにカラーフィルタを付け、ウェハテストを行い、イメージセンサチップに切り分ける。これらの工程は社外のパートナに委託している。そして、完成したイメージセンサはカメラモジュールに組み付けられる。

量子ドットを使うイメージセンサの製造サプライチェーン。特別な工程は、量子ドットフィルムの形成とトップ電極と保護膜の形成の部分。それ以外の工程は他社に委託している