現在、携帯電話などのタッチスクリーンは、マトリクス上に透明電極があり、指を近づけることにより、透明電極との間の静電容量が変ることで、タッチ位置を検出している。これに対してSentonsは、Hot Chips 28において、超音波を使うタッチセンサを発表した。

XとY方向の格子状の超音波ビームを使うタッチセンサは、これまでにもあるが、Sentonsの超音波タッチセンサは、まったく異なる原理で動作する。

超音波タッチセンサについて発表するSentonsのPresident & CEOのSam Sheng氏

現在のスマートフォンに使用されている静電容量の変化を検出する現在のセンサは、上手く動いているのであるが、タッチ検出のために4層を必要としてパネルのコストが上がるという問題がある。これに対してSentonsの方式は、元来、存在しているカバーグラスに超音波を通し、スクリーンの枠に付けたセンサで検出すればよいので、パネルをコストダウンできるという。

Sentonsの方式では、安価なピエゾ素子で超音波の発生と検出を行っている。そして、これらの素子はスクリーンの枠のガラスの中に収容できる。500KHz程度の超音波を使っており、この超音波はカバーグラスを均質に伝わって行く。

そして、ガラスに限らず、金属など超音波を伝える材料であれば良く、平面でなく曲面でも良いとのことである。

安価なピエゾ素子をカバーグラスの端に取り付ける。これで超音波の発生と受信ができる。超音波が伝わる材料であればガラス以外の金属などでもOKで,曲面でも良い (このレポートのすべての図は、Hot Chips 28でもSentonsのSheng氏の発表スライドのコピーである)

スクリーンの右下をタッチした場合のカバーグラスの振動の様子を次の図に示す。指で触ったことにより、超音波のパターンが円形に乱れている。右側は拡大図である。この時のガラスの変形は20nm程度で、事実上、ガラスは変形していない。

スクリーンの右下付近をタッチしたときのパネルの振動の様子。レーザ振動計での測定結果

超音波は、指でタッチしたところで反射されて受信素子に戻ってくるので、反射パルスのタイミングから位置を知ることができる。また、反射パルスの振幅は圧力に比例するので、力も検知できる。

しかし、パルスはカバーグラスの端で反射して複数のパルスが生じるし、マルチタッチの場合は、さらに複雑な反射パルスとなる。

超音波はタッチした部分で反射され、反射パルスが帰ってくる。このタイミングで位置を知る。反射パルスの振幅は力に比例するので、圧力も検知することができる

次の図の上側は、静電容量の変化でタッチ位置を検出するセンサの構造で、カバーグラスを含めて5層が必要であり、透明電極が必要な層も有り、製造コストが高い。しかし、このタイプのセンサでは、タッチ位置検出のアルゴリズムは比較的簡単である。

一方、Sentonsの方式は、カバーグラスの端に超音波の送信、受信を行うピエゾ素子を貼り付けただけの簡単な構造で、製造コストは安い。しかし、色々な反射パルスが受信されるので、それらを解釈して正しいタッチ位置を検出するためには複雑なアルゴリズムが必要になる。

タッチによる容量変化を検出するパネルの構造(上)とSentonsのパネルの構造(下)。Sentonsのものは構造は簡単であるが、位置検出のアルゴリズムは複雑である

iPhone 6sのパネルでは3Dタッチと称して、圧力をセンスできるようになっているが、圧力を測定する容量型のストレインゲージは、その上にあるカバーグラスや液晶を変形させる必要があり、厚いガラスを必要とする。また静電容量が変化するセンサは製造の許容誤差が小さく高価であるという。それに対して、Sentonsのセンサは圧力も検出できるので、3Dタッチを安価に実現できる。

次の図は、横軸が加えた圧力で、縦軸が検出された圧力である。3種類の○があるが、力を加えるチップの直径の違いで、大きいチップの場合は、多少、多めに検出しているが、3Dタッチに使うには問題にならないと思われる。

3種の直径のチップで力を加えた場合の圧力(横軸)と検出された圧力(縦軸)。チップのサイズが変わっても、読み取り値はあまり変わらない

タッチセンサは、カバーグラスの両方の端に、この図では8個のピエゾ素子を貼り付けている。なお、パルスの発信と受信は、1つのピエゾ素子を共用している。ピエゾ素子のサイズは2mm×2mmで厚みは0.3mmとなっている。カバーグラス全体で均一に圧力を検出するためにはピエゾ素子のアレイが必要とのことである。

タッチ位置の検出精度は1mm以下とのことで、指の大きさを考えると、十分な精度である。

カバーグラスの両端に8個のピエゾ素子を貼り付けている

超音波を伝える材質であればタッチセンスができるので、携帯電話のメタルケースをセンサにすることもできる。カバーグラスの場合と同様なピエゾ素子のアレイを付ければ、ケースの両側のサイドにそれぞれ5個以上のボタンを持たせることができる。

携帯電話のメタルケースをセンサにすることもできる。両側のサイドにそれぞれ5個かそれ以上の超音波でセンスするボタンを定義できる

この超音波の送受信を行うASICは自社開発である。ただし、信号を処理するDSPはTensilicaのものをライセンスして使っている。ASICのブロックダイヤは次の図のようになっており、送信系は4チャネル、受信系は8チャネルを備えている。製造プロセスは65nmで、送信ドライバに必要な5V電源を扱える。

そして、受信のフロントエンドのデジタル処理を行う回路は社内でカスタム設計している。

チップサイズは19.4mm2となっているが、ダイ写真を見ると、チップの周辺のI/Oでサイズが決まっており、チップの大部分は空きスペースという感じである。

65nmプロセスで製造され、コア部の電源電圧は1.2Vで200MHzのクロックで動かしている。待機時には5Hzでセンスを行っており、消費電力は0.9mW。ゲームのプレイなどの場合は100Hzでのセンスが可能で、この場合の消費電力は14mWとなる。

結論であるが、Sentonsのタッチセンサは、超音波センシングで、位置と圧力を同時に検出することができる。そして、圧力をセンスするに当たって表面の変形を必要としない。

このため、Sentonsのタッチセンサは、新しい使い方ができる可能性があると結んだ。

Sentonsの超音波タッチセンサは、色々な表面でタッチの位置と圧力を検出できる。表面の変形を必要としないので、従来ではできなかった新しい使い方ができる

特にマルチタッチの場合は、反射パルスが複雑に重なり合うと思われるが、それをDSPで解析してタッチ位置を検出するというアプローチは興味深い。パネル自体は簡単な構造となるので、これで3Dタッチが可能なパネルのコストが下がるとすれば歓迎である。